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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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エピローグ

 

 嘆きの平原に大量発生したアンデットだが、諸悪の根源となるリッチがスケルトンドラゴンと仲良く浄化されたお陰か、平原にはびこっていたアンデット達はスムーズに討伐された。


 今では、エリアル神殿が誇る聖女と聖騎士が街で盛大に凱旋をしている頃だろう。


 街や村を脅かす大量のアンデット。それらを操るリッチやスケルトンドラゴンを相手に見目麗しい神殿の聖女と聖騎士が、見事に打ち倒すという物語のような英雄譚に街の人々も大盛り上がりだ。


 街の脅威が去ったことを祝って、今日からしばらくは王都ではお祭りだそうだ。


 その日の内にここまで進められているとなると、前々から用意していたのだろうことはわかるな。エリアル神殿とエルドニアの王族も中々やるものだ。


 一方、金で雇われただけの脇役冒険者は、適当にお行儀良く凱旋したらギルドの酒場に直行だ。とてもわかりやすい。


 今日のクエストで起きたこと、報酬と酒と食に酔いしれながら面白おかしく語るのだ。


 俺とシスティもその波に乗って自然と冒険者ギルドにやってきている。


 俺としてはどうせ食べることも飲むこともできないので、さっさと身体を洗って宿に戻りたいところだが、システィが行きたそうにしているし、討伐報酬を貰わないとお金がないので仕方なくついてきたのだ。


 ちなみに聖女からの報酬は祭りが落ち着いてから。彼女は祭りの中心人物なので忙しいのだろう。エリアル神殿もこれを機に信仰心を集めたいだろうしな。


「おう! デューク! お前兜変えたのか? それ騎士のやつだろう? 全然似合ってねえぞ? 前の兜は壊れたのか?」


 冒険者ギルドの椅子に座っていると、エールを手にしたドレイクが近寄ってきた。その顔はとっくに赤らんでおり、息が酒臭い。もう、とっくに出来上がっている。


「そうだよ、壊れたから拾った兜で代用してんだ」


「だからって神殿騎士の兜パクるとはお前もやるな!」


 酔っているせいなのかドレイクが俺の兜をペシペシと叩きながら笑う。


 まあ、何回か神殿騎士に引き留められたけど聖女とリアのお陰でも問題にはなっていない。


「にしてもせっかく、お金が入ったんだ。たまにはお前も吞めよ。かなりの数のアンデットを倒したんだろ?」


 ドレイクが手でお金のサインをしながらニマニマとした笑顔を向けてくる。


 リッチを見ていなければ咄嗟に殴りつけたくなるほどムカつく表情だ。


 ドレイクの言う通り俺はかなりの数のアンデットを倒した。その中にはスケルトンジェネラルといった上位個体も混ざっているから報酬はかなりのものだろう。


 はっきり言って金欠のシスティには申し訳ないほどの大金を頂いている。聖女の報酬と合わせれば余裕で家が買えるレベルだな。


 宿暮らしは、他の冒険者や民間人がいるので俺の正体がバレる可能性があるし、夜は大人しくしていないといけないので不便だ。


 これを機に新しく家を買った方がいいかもしれないな。


「あるけど今日は呑まねえよ。適当に話したら帰って寝る」


「んだよ、つまんねーな! お前ってば普段のノリはいい癖に飯になるとつれなくなるよなー! お前と呑みてえんだよ!」


「……それで本音は?」


「兜の下に隠しているお前の不細工な顔を拝みたい!」


 ドレイクが笑いながら兜に手を伸ばしてきたので、俺はそれをとって捻ってやる。


「おきょっ!?」


 すると、パキョッとした小気味の良い音がした。ふむ、スケルトンよりは少し柔らかいかな? 嘆きの平原のスケルトンは、やはり魔物補正とか魔力補正があるのだろうか。


 一昨日までずっとアンデット退治をしていたので、ついついそんな事を考えてしまう。


 それにしても俺の顔を不細工だと決めつけるとは無礼な奴だ。


「デューク! 私も報酬金を貰ってきたわ! 凄いわ! 今日は豪遊できる額よ!」


 ホクホク顔で俺の前に座るシスティ。


 さりげなく床を転がるドレイクを踏んづけているところが酷い。まあ、床を転がっている方も悪いか。


「ちゃんと借金返済の分は抜いてあるんだろうな?」


「勿論よ。聖女さんから貰える報酬もあるし、新しい装備が買えそうね。デュークは何か買いたいものはあるの?」


「とりあえずは兜だな」


「あー、その兜デュークの鎧と合っていないもんね。兜の方が騎士っぽいけど鎧の方が悪役騎士みたいだし」


 アンデット族のデュラハンが聖騎士みたいな鎧をしている方がどうかと思う。


「……後は、家だな。宿屋での暮らしも窮屈だし」


「いいわね! 長期的に見ると家を借りた方が安いしね!」


 俺がそう呟くといシスティが目を輝かせてそんな事を言う。


 ちょっと、待て? その言い方ではお前も一緒に暮らす流れなのか? いや、俺ってば男なんですけどって言いたいけれど、性別不明なデュラハンだし何も問題ない気がする。


 日常生活の中で、俺の正体を偽るフォローしてくれる人はいた方がいいしな。


 それに何より楽しそうだし。


「あっ、お姉さん! エールと白身魚のフライちょうだい! あと、エリービーンズも!」


「わかりましたー」


 俺が何となく和やかな視線を送っていると、システィが給仕のお姉さんを捕まえて注文をしだした。


「どうした? こういう動き回った後はステーキがいいじゃないか?」


「アンデットと戦った後にステーキなんて食べられないわよ!」




 ◆ 



 エルドニア王都に凱旋した夜。私は今日の心労を吐き出すかのように深いため息を吐いていた。


 大聖堂の最上階から見える王都の景色は、夜であるというのに一層賑々しい限り。今頃、市民や冒険者達は酒場から酒場へと梯子をして豪遊中だろう。


 とても羨ましい。


 私なんて、一日中にこやかな笑顔を張り付けてお偉方と会話をしていたせいか、顔の筋肉が攣ってしまいそうだ。


 今でも自分の表情が笑っているのではないかという錯覚に陥っている。


 どうして華々しい活躍をした私が、一番疲れる役割を押し付けられるのだろうか。私を敬う気持ちがあるのならば三日くらい休ませてほしいものだ。


 そうすれば、ペンダントの力を使って変装し、王都に繰り出して豪遊するというのに。


 聖女という役目を理解してはいるが、納得はできないものだ。


「あー! もう、私も美味しい物を食べに行きたいです!」


「さっきまで王族の方と豪勢な食事をしていたじゃないですか」


 溜まった鬱憤を晴らすかのように叫ぶと、後ろからリアの呆れるような声がした。


「あんな重苦しい雰囲気の食事なんて食べたうちに入りません。わかっていて言っていますね?」


 私が大好きなのは酒場とかにある脂っこいものや、味が濃いものなのです。高級な食材をふんだんに使う癖に量が少ない食事などいりません。


 あと、王子がしつこく話しかけてウザかったです。


「……それで、彼はどうでしたか?」


 私を心配する気持ちもあったのだろうが、本題はこちらだろう。まあ、私を守護する役目のリアからすれば気にならないはずがない。


 何せ今の王都には災害指定種である魔物。デュラハンがいるのだから。


「私がオーラで見た限り、邪悪な悪意といったものはないと思います。戦場の中で何度も私を倒せるシーンや危機はありましたが、私の事を殺して逃げるといった事すら考えなかったようです」


「……アリアの目から見てもそうでしたか」


 そう、今回彼にクエストの同行を頼んだのは、デュラハンである彼の本心を見極めるため。邪悪なアンデットと接触すればどうなるのか、私が危機になればどういった心情を抱くのか見極めるためである。


 もし、リッチと心を同じくして敵対するようならば即座に討伐。私に対して悪意や殺意を抱くようであれば同じくだ。


 いくらデュラハンである彼が、善良な性格をしていたとしてもすぐに信じるわけにはいかない。


 何せ相手は簡単に街一つを滅ぼすことのできる魔物なのだから用心するに越した事はない。


「システィさんとも一応は仲良く過ごしているようなので安心しました」


 リアの報告を聞いて思わず小首を傾げてしまう。


 あれはある種の信頼関係と言ってもいいのだろうか? 結構酷い扱いを受けている印象はあったが、持ちつ持たれつつやっているようだ。


 冒険者で聞き取りをすれば、システィさんもデュークさんに酷いことをしているみたいだし。外道魔法使いでしたっけ?


 でも、お互いに良い感情を持っているようなので問題はないのでしょう。……多分。


「自分の首がないことといい異常な防御力といい妙な点が見受けられますが、今後も彼らの行動は監視していくようにしましょう」


 そう、まだまだデュークさんはどうなるかわからない。私達にとって良きパートナーとなるのか、それとも討伐すべき魔物なのか。


 今後、じっくり見極めなければいけない。




第二章はこれで終わりです。ちょっとした秘密はプロローグにするか、まだ後に回すか悩んでおります。ともかく、第三章も頑張ります。



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