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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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忍ばせていた物

 

「デュークさん! もう一発ブレスがきますよ!」


「何い!?」


 ボロボロになった兜とマントをチェックしていると、後ろから聖女の慌てた声が聞こえる。


「早く私の盾になって下さい!」


「もうちょっと言い方考えろよ! せめて守ってとかにしろよな!?」


 聖女のあまりの言い方に思わず突っ込まずにはいられない。


 戦場にきても普段と変わらない態度を見ると、こいつは相当大物なのではないかと思えてくる。


『フハハハ! いくら身体は無事でも、弱点である首はどうにもならないようだな。もう一発ブレスをくれてやって溶かしてくれるわ!』


 勘違いをしているリッチが哄笑を上げながら、宙に浮いてそんなことを言う。


 いや、これってばただの拾い物だから、この兜を潰せば死ぬとかじゃないんだけれど。


 勘違いしてくれてありがたいので言ってやらないけどな。


 それはそうと再び、口を大きく開けているスケルトンドラゴン。


 そこには先程と同じようにどす黒いエネルギーが収束している。


 またあの痛くて気持ちいいブレスが来るのか? いかんいかん、思考回路が完璧にドMになっている。気持ちいいのは確かだが、熱くて痛いし兜とマントがボロボロになるのだ。


 食らい続けると色々な意味で危ない気がする。


「『ロックバレット』ッ!」


 俺が不安に思っていると、ちょろちょろと駆け回るシスティの勇ましい声が響き、岩石の砲弾がスケルトンドラゴンの顎に直撃した。


「あっ……」


 それによりスケルトンドラゴンの顔の向きが変わり、宙を浮遊するリッチへとブレスが解放された。


 おお、ナイスだ!


『うおおおおおっ! やめないかっ! ブレスは中止だ!』


 宙を飛んで回避しながらスケルトンドラゴンに命令を飛ばすリッチ。


 それによってスケルトンドラゴンのブレスが収まる。


「チッ……惜しいな。スケルトンドラゴンのブレスで溶けちまえば良かったのに」


「そ、そうね! 私もそれを狙ってやったのよ!」


 俺が呟いた言葉に、システィがポニーテールを翻してどや顔で答える。


 嘘つけ。リッチを直接狙っていたら、スケルトンドラゴンの顔が射線に入ってきただけだろ。あっ……って呟くのが聞こえていたんだよ。


『相変わらず何をしてくるかわからん魔法使いだ』


 骨の身体の癖に汗を拭うような仕草をするリッチ。そんなところで生前の人間らしさを出さないでもらいたい。


「どうだ、うちの魔法使いは? 何をしでかすかわからんだろう?」


『それは貴様も大概だ』


「今よっ! 『ライトニング』ッ!」


 システィの杖から放たれた雷が、ぐにゃりぐにゃりと曲がってリッチへと向かっていく。


『ああもう! 何なのだお前の魔法は!? ぐにゃぐにゃと曲がりおって!』


 最初の時とは違った、焦った声音と回避運動をするリッチ。


 多分、魔法に精通していて定石通りの対処を熟知しているからやりづらいんだろうな。


 システィが思わぬ場所で役に立っている。


「……ライトニングって直線にしか進まない魔法ですよね?」


 後ろにいる聖女が不思議そうに呟く。


 普通のライトニングはそうらしいけど、うちの相棒のライトニングは違うんです。


「はあっ!」


 システィがリッチの足止めをしているお陰で、リアがスケルトンドラゴンを相手に縦横無尽に攻撃を仕掛けている。


 やはり支配者たるリッチが傍にいなければ本来の動きが発揮できないのか、迎撃するその動きはどこか精細さを欠いていた。


 ここで俺が一気に攻勢に出て仕掛けていくか? いや、そうするとシスティの相手をしているリッチが出張ってきそうだ。リッチかスケルトンドラゴンのどちらかが完全に身動きできなくなる状況になればいいのだが。


 ……それにしてもブレスか。


 先程のようにそれを利用してやればスケルトンドラゴンに有効打を与えられそうだな。


「おい、聖女」


「デュークさんはここにいて私の盾になるべきだと思います」


 俺が作戦を思いついたので振り返ると、聖女が即座にそんなことを言う。


 俺がいたらスケルトンドラゴンが突進してきても、ブレスを吐いてきても守ってもらえるからって……よく、考えると俺ってば凄い有能じゃないか!?


 聖女の安全を盾に意地悪してみたくなるが、今はそんなことをしている場合じゃない。


「これからちょっと攻めに入るから――」


「ダメです! ちゃんと私を守って下さい! あんな巨体が突進してきたら、ブレスが飛んで来たら誰が私を守るんですか!」


 だと言うのに、聖女は俺のマントにしがみついてそんなことを言う。


「やめろ! ただでさえボロボロのマントが破けるだろう! きちんと理由を話すから離せ!」


「……?」


 俺がそういうと聖女がマントを手に持ちながら、上目遣いで見てくる。


 無垢な少女を装いながらも、納得できなければその手でマントを引き千切るという駆け引きをしてくる聖女が恐ろしい。


 納得してもらえるか恐々と作戦を教えてやると、聖女は次第に白けた視線をこちらに向け。


「……彼女にそんな危ない物を持たせていたんですね」


「そういう訳だから、ちょっと後ろに下がって浄化魔法の詠唱でもしてろ」


 聖女から向けられるジトッとした視線から逃れるようにシッシと追い払うと、距離を取るように後ろに下がっていった。


 俺は俺で、リッチと魔法の撃ち合いをしているシスティの傍に駆け寄る。


「おい、システィ! ちょっとポーチ貸せ!」


「何!? 今、あの宙に浮いている奴を撃ち落とすために忙しんだけど!?」


「ポーチだけでいいから貸してくれ」


「わかったわよ。投げるから受け取って――」


「いやいやいや! 俺が自分で取るから投げないでくれ」


 俺がポーチを貸してもらうように言うと、システィがポーチを投げ渡そうとしてきたので慌てて傍に寄って奪い取る。


「……? 何よ急に? ポーチの中には、回復ポーション、マジックポーション、治療セット、非常食と水くらいでデュークに必要な物なんてないわよ?」


 システィが訝しそうな視線を向けながら言う。この世界の人間が、外を出歩くのに必要な物だというのに今の俺には何一つ必要な物ではないというのは悲しい。


 そんな事を思いながら、俺はシスティのポーチの中を探る。


 すると、予想通りの物が見つかったのでそれを掲げる。


「おっ、あったあった」


「何? 回復ポーションじゃないの? いくらアンデッドが回復ポーションを苦手にしていても、高位のスケルトンドラゴンやリッチには効かないでしょう?」


 青色の液体が入った試験管を見たシスティが、どこか呆れたような声を上げる。


「違う違う、よく見ろ。回復ポーションは水色だっつうの。この青い液体は爆発ポーションだ」


「あっ、本当ね。普段は丸いフラスコに入っているから気付かなかったわ」


「まったく、システィさんはおっちょこちょいなんだからー」


 俺とシスティは顔を見合わせて「あはは」と笑い合う。


「あはは、じゃないわよ!? いつの間に私のポーチの中にこんな危ない物を入れていたわけ!?」


「爆発ポーションを渡したのは最初だ。ほら、王都で買い物をしていた時に俺がポーション類を買って渡しただろ?」


 聖女に絡まれて魔道具屋で買った際に、密かに忍ばせていたのだ。


「いつの間に!? 丁寧に私の試験管にまで入れ替えて、間違って飲んじゃったらどうするのよ!? それに私が攻撃を受けたりしたら爆発していたのよ!?」


 猛るシスティに俺は諭すような声で言ってやる。


「飲もうとしていたら止めていたし、何より俺がシスティを守るのに爆発するわけないだろ?」


 実際は忍ばせていたことも忘れていたし、単に俺が持てば戦闘で割れて爆発してしまいそうだからシスティに持たせただけだ。しかし、そんな事を言おうものならば何をされるかわからないので黙っておく。


「……デューク」


 システィが潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。わかってくれたか。


「私そんなチョロい女じゃないわ。後でゆっくりとお話しましょうね」


「チッ」


 魔法関連でもなければそうはいかないか。


「……あれ? リッチがいないわ」


 システィのそんな声に気付いて辺りを見渡すと、スケルトンドラゴンの方へと飛んで行くリッチがいた。


「ちょっと待てー!」


 俺が地面に転がっている頭蓋骨を投げつけるも、リッチはさらりと躱す。


『フン、バカな貴様らに付き合っている暇はないわ』


「スケルトンドラゴンがリアにやられそうだから焦っているだけだろ? 自分一人になったら俺達に負けるもんな」


『ちちち、違うわ。単に俺一人で戦うのが面倒なだけだ!』


 やはり図星だったのか、リッチがどもりながら飛行速度を上げていく。


「システィ、行くぞ! 作戦がある」


「それをどう使うのか分からないけどわかったわ!」


 俺は爆発ポーションの試験管を腰に差しながらスケルトンドラゴンの下へと走り出す。


 転けて爆発しないように慎重にだ。


次回で決着予定

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