青髪の少女は魔法使い
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「ねえ、そこのあなた、そこで何をしてるの?」
「どわあっ!?」
突然、後ろから投げかけられた言葉に心臓が飛び出そうになった。
手に持っていた兜を取り落としそうになり、反射的に被る。
不思議と兜はデュラハンの鎧にぴったりと合い、カチャリという音を上げてはまり込んだ。
おお、もしかしてこれこそが俺の求めていた首だったのか! っと思ったのだが違うようだ。俺の身体がこれではないと訴えかけている。
それでもこの兜を拒否して弾き飛ばすとかはしないようだ。
「……ねえ、何をしているの?」
再び問いかけられる声。
やばい。俺ってば魔物のデュラハンなんですけど。
このまま振り返っても攻撃されたりしないよね?
何て焦った考えが心の中で渦巻いていたが、ふと我に返る。
待てよ、今の俺には首がある。
焦った勢いで装着したこの兜が。
幸いこの兜は面頬付き、視界部分の細いスリット以外のところは全て覆われているタイプのもの。
顔部分なんて陰になってほとんど見えない。見えたとしてもゼロ距離くらいじゃないと無理だろう。
人間相手にそんな距離まで近づくだなんて、ほぼない。
つまり、今の俺はどう見ても立派な全身鎧を着ている騎士のようなわけであって、首のない魔物であるデュラハンとは思われない。
とするならば何も恐れる事はないじゃないか。
魔物というデメリットが一気に解消された気がする。
とっさにやってしまったとはいえ、俺ってば天才なんじゃないだろうか?
室内が暗かったせいで、声をかけてきた人物も気付いていないようだし。
「ねえってば――」
苛立たしげにかけられた声の途中に、俺は振り返った。
そこには淡く透き通った青色の髪をポニーテールにまとめた少女がいた。
薄闇の中でもはっきりと分かる白い肌は陶器のように滑らかで、目鼻立ちもくっきりとしている。
急に俺が振り返ったせいか、切れ長の瞳が丸く見開かれ、髪と同色の透き通った青色の宝石が見えていた。
体つきは華奢で四肢がすらっと伸びており、抱きしめれば折れてしまいそう。
短い青色のケープを肩にかけ、コルセットのような青と白を基調にした服にスカート、黒
全体的に細い体つきの少女だが黒いニ―ソックスに包まれた脚の肉付きは程よかった。
手には杖を持ち、いかにも軽装の魔法使いというような恰好だった。
魔法使いですよ魔法使い! もしかして、この世界って剣と魔法がある定番な魔法世界なんですかね!?
オタク魂が熱くなり、叫びたくなったが初対面の少女をドン引きさせるわけにはいかない、こんなにも美少女なのだ。できれば仲良くしたいと思うのは男として当たり前のことであろう。
俺は心を落ち着かせて、慎重に言葉をだす。
「いやー、旅をしていてついさっきここに来たばかりなんだ。休める所はないかと、ここに入ったんだが誰もいなくてね」
俺の気さくな第一声に対して、彼女は……。
「さっきからガチャガチャと音がなっていたけど、本当は泥棒なんじゃないの?」
明らかに疑惑の表情をしていた。
「いや、ちょっと暗くて中の様子が見えなくて転んじゃったんだよ」
はははと苦笑いをして誤魔化す俺。
「……本当かしら? まあ、高そうな鎧を着ているんだし、盗みなんてするようには見えないわね」
何かぶつぶつ言っている。
とにかく、不審者扱いされて交流が途絶えることだけは避けたい。
「それで君は?」
これ以上追及されるのも嫌だったので、こちらから質問をしてみる。
「システィよ。旅をしている魔法使い」
魔法使いきたー! 凛とした佇まいをしている、優秀そうなこの子の事だ。
きっとゲームのような大魔法とか使えたりするんだろうな。
「ククル村の方から来たのだけれど」
自分のきた道を指さすシスティ。
ククル村ってどこ? と思ったが今は放置。
外へ出て覗いてみると、俺がきた森とは違う道が真っすぐに伸びていた。
まあ、ここは二つの道が合流する地点だと確認していたので納得だ。
「……お、大きいわね」
隣でシスティが呟いていた。今まで薄暗くてよく俺の姿を確認することができていなかったのであろう。
あっちの道か……ということは、システィというこの少女は一人で森を抜けてきたのだろうか?
俺とは違うルートできたとはいえ、凄いじゃないか。
俺からすればワイバーンに追いかけられたりする、魔物だらけの森を生身で通るとか考えられない。
それほど、この世界の魔法というものは便利なのか、はたまたシスティが優秀なのか。
アンデッドの能力とデュラハンとしての身体能力で無理矢理で突破した俺とは違い、魔法一つの生身で切り抜けてきた彼女には敬意を払いたい。
「それであなたは?」
「ああ、俺はデュ――」
しまった、自分の事をデュラハンデュラハンと言っていたので、ついデュラハンと言いそうになった。
「デュ?」
途中で固まった俺に訝しげな表情をするシスティ。
どうする、今から言い直して久比無宗介だと言いなおすか?
いや、でもファンタジーなこの世界で日本名を名乗るのはファンタジー感がぶち壊しな気がする。
ここは俺もカッコイイ、ファンタジーらしい名前を名乗るべきではないだろうか。
冷静に考えたらこれは自分の名前をかっこよく彩ることができるではないか。
心の中で名前をつけてくれた母さんに謝りながら、俺は言葉を紡いだ。
「デュークだ! よろしく」
デュラハン→デューク。単純ですいません。
デュって言っちゃったし、デュラハンらしい名前でもあり、騎士っぽい名前だからいいじゃないか!
この俺にセンスを求める方が間違っているんだ。
「デュークね。よろしく。ところでデュークはどこから来たの? ついさっき来たって言うけど」
それに対して俺は、ついさっき来たばかりの道をさした。
「あっちだけれど?」
「えっ? はあ? 嘘よ。そっちは魔の森って言われて、凶暴な魔物達がうじゃうじゃいるのよ? 歩けばあっという間に魔物に囲まれるし、ワイバーンだっているわ。まともな神経をしている人ならば私みたいに迂回してくるはずよ?」
道理で魔物ばっかりいると思ったよ。魔の森とかそんな物騒な所で俺は目覚めたのか。
「ああ、ワイバーンに追いかけられた……」
「……何でそれで生きてるのよ」
システィが呆れた声を出す。
俺だって安全な道があればそっちから来たかったが、俺はデュラハンだし、この兜を手に入れるまで人に出会わない確実なルートだと思えば正しかったのかもしれない。
「まあ、それは後でおいおいわかるしいいわ。私も疲れたし、早くポダ村で休みたいから。デュークもそこを目指しているんだったら一緒に行きましょう」
「あ、ああ。俺はこの辺りの土地は全くわからないから案内を頼む」
「そうなの? まあ、ポダ村まではここから道なりに進むだけだけだから大丈夫よ」
歩き出したシスティの後ろをついていった俺だが、ふと紫炎を裏に待機させていた事を思い出した。
「あ、ちょっと待っていてくれ!」
俺はすぐさま民家の裏に回る。そこには大人しく佇む紫炎がいた。
コシュタ・バワーである紫炎をシスティが見たら、間違いなく攻撃するだろう。
先程彼女が言っていた通り、魔物とは凶暴で人を襲う生き物なのだ。そうなることは確実。
何とかできないだろうか?
そもそも紫炎を召喚したのは俺なのだ。
ならば、送還することだってできるのではないだろうか。
何となくだができる気がする。
俺は心の中で強く戻れと念じながら、声を上げる。
近くにはシスティがいるので、控えめに。
「戻れ! 紫炎!」
すると、最初の時と同じように紫炎の足下が闇色に光った。どうやら紫炎と叫んでも問題ないようだ。
闇に呑み込まれていくように身を沈めていく紫炎。
「また、後でな」
俺は短く声をかけて、そそくさとシスティの下へと戻った。