新しい世界?
しばらく日が空いてしまい申し訳ないです。
「ひいいっ! デュークさん! 早く戻ってきてください! スケルトンドラゴンがこっちに来ます!」
聖女が情けない悲鳴を上げているのを見るのは凄く楽しいのだが、今回は放置しておくと本当に死んでしまいそうなので助けることにする。
聖女へと驀進するスケルトンドラゴンを止めるために俺も走り出す。
「ちょっと! 私がピンチなのを見て喜んでますね!? オーラでわかります! 本当はもっと早く来れるのにわざと遅くしているんですね!?」
だというのに、聖女は俺を見ながらそんなことを言う。
「面白いと思ったけど、そんなことまでしてねえよ!」
一瞬、本当にそうしてやろうかと思ったが、それをするとおっかない槍を持った聖騎士が何をしてくるかわからないので止めておく。一応、聖女のことを大事に思っているみたいだからな。
「くっ! 止まれ!」
『フハハ! 誰が止まるか!』
リアはスケルトンドラゴンの足を止めようと斬撃を見舞い、システィも同様に魔法で足元を崩そうとしている。
しかし、リッチによって強化、回復されている装甲を貫くには至っておらず、スケルトンドラゴンの足を止めることはできなさそうだ。
『これでも食らっておけ! 『ライトニング』ッ!』
「邪魔をするな!」
それにリッチが上から魔法を放ってくるので思うように攻撃ができていないようだ。
あのリッチってば人が嫌がることをするのに定評があるからな。嬉々として魔法を放ってリアの邪魔をしている。
杖が壊されたので魔法の威力は減退しているようだが、詠唱のスピードは健在か。
凛としたリアの表情に焦りのようなものが見えた。
どうするべきか。アダマンタイトの大剣で横から思いっきり殴りつけるか? そうすればスケルトンドラゴンも横転してチャンスになるかもしれない。
『死者の魂は未だに離れず死者の血肉を食らいて現世に踏みとどまる『アンデッドヒール』ッ!』
そんな事を考えながら走っていると、リッチがまたもやアンデッド専用の回復魔法を唱えだした。
リアやシスティに削られた装甲が、再び舞い上がりスケルトンドラゴンに戻っていく。それにくわえて、スケルトンドラゴンの足下を補強するように周囲の骨が集まってきた。
「ああっ!? また回復した! しかも、足元の装甲を増やすなんてズルいわよ!」
『人間だって回復魔法を使ったり、ポーションを使うではないか。アンデッドだって回復してもよいではないか』
「ダメよ! ただでさえタフなアンデッドが回復なんてしたらズルいじゃない!」
『ただでさえ数が多い人間共が回復して元気になるのもどうかと思うぞ?』
システィが抗議の声を上げるが、リッチはのらりくらりと言い返す。ああ言えばこう言う嫌なアンデッドだ。
しかし、これでは大剣を横から打ち込んでも横転させることは難しそうだな。補強された脚を一発で崩せなければ勢いを止めることは敵わず、聖女は潰されることになる。
「……はあ、ここは聖女の盾である俺が受け止めるしかねえのか」
ため息と共にそんな言葉を漏らしながら、俺はスケルトンドラゴンの正面に移動する。
「……え、ええっと、デュークさん。あれを止められるんですよね?」
俺の後方十メートルにいる聖女がおずおずと聞いてくる。スケルトンドラゴンが勢いよく迫ってくるものだからその表情は真っ青だ。
「今回、俺はお前の盾だからな。やるしかねえだろ」
俺が振り返って答えると、聖女が微笑み。
「……わかりました。デュークさんに任せましたよ?」
そして五歩下がった。
このシーンだけを見れば、麗しい聖女を守る騎士に見えなくもないが、聖女が五歩下がったせいで台無しだ。
言葉は信用しているように見えて、内心ではかなり不安がっているな。
そういう俺もかなり怖い。デュラハンだから、丈夫な身体をしているから大丈夫という自信があっても、十メートルを超える化け物が突進してくる様は怖いものだ。
身体を揺らし、地響きを上げながら迫って来る巨体は、前世で俺の命を奪い取った大型トラックを彷彿とさせる。
『デュラハンといえど、さすがにこの巨体は受け止めきれまい。聖女と一緒に潰れてしまえ!』
しかし、俺の後ろには守るべき命がある。
ロクでもない聖女ではあるが、俺の秘密を守り、情報提供をしてくれる大事な奴だ。依頼を受けて守ると言ったからには逃げるわけにはいかない。
俺は身体を低くして、来たるべき瞬間に備えた。
『ガギャアアアアアアッ!』
そして、迫りくる巨体が俺を押しつぶそうと右脚を叩きつけてくる。これまで走ってきたお陰で得られたエネルギーと、リッチによって補強された体重によってこれ以上ない威力となって空間を切り裂く。
「ふんっ!」
そんな重みのある押しつぶしを俺は両腕を上げて受け止める。
その瞬間、スケルトンドラゴンからの衝撃が腕から足へ伝わり鎧の内部を激しく揺らす。
そして、その衝撃は地面へと逃れて俺の周囲に大きなクレーターを作り出した。
それは後方にいる聖女の手前まで広がり、あいつが五歩下がっていなければ巻き込まれていたことを表していた。それを思うと何か無性に悔しい。
あと、聖女。守ってもらいながらドン引きした表情をするな。
それにしてもこの攻撃思っていたよりもずっと重いな。最初に打ち合った時よりも何倍も重いぞ。どれだけスケルトンドラゴンに骨をくっつけて強化したんだよ!
『どわあっ!? 受け止めただと!? バカな!? 貴様、本当にただのデュラハンか!? デュラハンだとしても非常識すぎるぞ!?』
俺の身体が軋むような嫌な音を立てる中、スケルトンドラゴンの肩にいるリッチがそんなことを叫ぶ。
そんなことを言われても知るかよ。本物の首がないのは不自然だが、デュラハンで間違いないはずだ。……多分。
「デューク! 大丈夫なの!?」
「おう、大丈夫だからリッチとデカブツに攻撃をくわえろ!」
「わかった! リアさん行くわよ!」
さすがはうちの相棒。俺の理解が早くて助かる。いや、本音を言えばもう少し心配して欲しいけど、今はそれどころじゃないしな。
「わ、わかってます」
システィの声に反応してリアも動き出す。
よし、これで俺がコイツさえ止めておけば後はリアが斬り刻んで……。
「デュークさん!? 上、上です!」
「上?」
後ろから聞こえる聖女の焦った声に反応して、頭上を見るとスケルトンドラゴンが大きく口を開けていた。
その凶暴な顎にはどす黒いエネルギーが収束している。
「こ、これはまさか……」
こ、こいつ自分の脚ごと俺にブレスをぶつける気か!? 正気じゃない。逃げようとしても後ろには聖女がいるし無理だ。
「アリアッ!」
「デュークッ!」
『焼けて死ね!』
リッチのそんな声と同時に放たれる黒炎。
俺は迫りくる炎に何とか腕に装備した魔法盾を合わせる。スケルトンジェネラルから奪い取った闇の魔法盾だが、少しくらい役に立つだろ。
視界いっぱいに広がる黒い炎。それは瞬く間に俺の全身を包み込んだ。
「ああああっ! 熱っ……気持ちいい……」
ワイバーンよりも高熱の炎に焼かれて、痛みを感じながらも俺はどこか快楽を味わっていた。
……何だろう。この全身を包み込む柔らかいエネルギーは。まるで、俺を癒してくれるかのようだ。
「デュークさん! ――って、気持ちいい?」
『はっ?』
炎に身を包まれる中、聖女とリッチの間の抜けた声が聞こえた気がする。
しかし、今はそんなことすらどうでもいい。今はこの熱くて気持ちいい感覚に浸り続けていたい……。
「いかんいかん! これでは俺が変態みたいじゃないか!?」
そんな叫び声を上げながら、俺はスケルトンドラゴンの右脚を押し返す。
『ガアアッ!?』
それによって、スケルトンドラゴンがたたらを踏んで後ろに下がった。
黒炎に呑まれて気持ちいいと叫ぶなんて変態以外何でもない。俺ってば危ない世界に足を踏み入れるところであった。
「……デュークさん? 呪いとか痛みとか何もないんですか?」
聖女の声によって、ふと我に返り全身を確認してみる。
見たところ俺の鎧には傷一つないが、拾った兜とマントだけは焦げていて損傷が激しい。
どちらもお気に入りだっただけに残念だ。これはどちらも買い替え時だろう。
「ダメだ。兜とマントがやられた」
「……それだけで済むんですね」
次の話もすぐに更新できるかと。




