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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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遊撃手

 

『ゴアアアアアアアァァァァァッ!』


 俺達の目の前でスケルトンドラゴンが破れ鐘のような咆哮を上げる。


 音という名の暴力にシスティと聖女はあからさまに耳を塞ぎ、リアは少し顔をしかめていた。


 俺と言えば鼓膜なぞはないので平気だが、鎧の中で反響しているせいかとてもうるさく感じられる。


「デューク! 早速やっちゃって! 同じアンデッドなら仲間と認識されて攻撃されないでしょ!?」


「そうですよ! とりあえず行ってきてください!」


 システィと聖女が耳を塞ぎながらシッシと手で振り払う仕草をする。


 とりあえず何でもいいからこの咆哮を止めてきて欲しいらしい。


 何となく扱いに不満を感じないでもないが、俺の特性が利くならばさっさと決着がつくので試してみることにする。


 咆哮が轟く中、俺は背中にあるアダマンタイトの大剣を抜いて走り出した。


 それからリッチのいる左側とは反対側のほうへと回り込む。


 スケルトンドラゴンに認識されないとしても、あのリッチにはもうバレているからな。少しでも邪魔されずに攻撃を仕掛けたい。


 そんな事を考えながら回り込んでいた俺だが、スケルトンドラゴンが急に顔をこちらに向けてきた。


「えっ!?」


 思わず立ち止まって後ろを振り向くが、そこには誰もいない。


 遥か後方では騎士団達がアンデッドを誘導して戦っているくらいだ。


 視線を戻すと目の前には、紫色の炎のように揺らめく瞳が俺を射抜くかのように向けられていた。


 俺が慌てるようにして移動すると、それを追うように紫色の瞳が移動する。


 え? もしかして俺を敵だと認識できてる?


 俺のそんな疑問に答えるかのように、スケルトンドラゴンは長い尻尾で薙いできた。


 広範囲大質量高スピードの攻撃を避けられるはずもなく、俺はそれをまともに腹に受けた。


 背骨のようなでっぱりがぶつかったせいか、金属に金属を当てたような音が鳴り響く。


「デュークっ!」


「うわっ! もろに食らいました!」


 勢いよく吹っ飛ばされた俺は、盛大に泥水の上を跳ねてシスティ達の下まで帰って来ていた。


 システィの声は心配しているとわかるが、聖女の声は本当に他人事として見ていやがるのがわかるな。


『バカめ! スケルトンドラゴンはそんじょそこらのアンデッドとはわけが違うわ。死んだとはいえ龍種だぞ? 舐めすぎではないか? バカなのか?』


 俺が泥水に突っ伏している中、リッチが心底バカにした声音で言ってくる。


 あの野郎。次は馬乗りになって粉々になるまでぶん殴ってやる。


 俺はそんな決意をしながらムクりと体を起こす。


「あ、起きた」


「起きましたね」


 スケルトンドラゴンの攻撃を受けて物凄い音が鳴ったが、体は大丈夫であろうか?


 途轍もない衝撃を受けたのだが、今のところ体が痛いなどという事もない。


「物凄い攻撃を受けたけど痛くないの?」


「……痛くないな」


 鋭利な骨で切り裂かれたかのように思えた腹部分も、特に傷ついている様子はなかった。というか傷一つ付いていない。


 さすがは防御に特化した魔物。タフだな。


 そんな俺の様子を見て、聖女が若干引いたような声を出す。


「知能あるスケルトンドラゴン相手ではやはり無理でしたね。それにしても、あの攻撃を受けて平気とかおかしいですよ」


 おいおい、お前無理だと思っていながら行かせたのかよ。


「アリアを守るには心強いですか、いささか非常識な防御力ですね。さすがはデュラハンといったところでしょうか」


 人間でありながら非常識な身体能力をしているリアには言われたくない。


『……どうしてあの攻撃を食らって平気なのだ? デュラハンとはこれほどまでに硬い魔物なのか……っ?』


 位置が大きくズレた兜を嵌めなおしていると、リッチの戸惑った声が聞こえてくる。


 まあ、現に平気なのだ。これくらいの攻撃は問題ないのであろう。


 一見物凄い攻撃に見えた尻尾だが、骨であったが攻撃は思ったよりも軽かった。


 オーガ亜種の攻撃の方が実際は重かったかもしれない。


 勿論、スケルトンドラゴンの鋭利に尖った尻尾は凶悪極まりないが。


「デュークさんの特性を生かした攻撃が無理そうなので、通常通りに戻します。私とデュークさんが前衛、アリアが後衛の形で陣形を組みます。最後にはアリアが大規模浄化魔法を放つ予定なので、私達の役目は相手を弱らせる事、アリアの詠唱を邪魔させない事です」


 ふむふむ、最後は聖女の神聖魔法による浄化で確実に仕留めるってわけだな。


 アンデッドが食らえばひとたまりもないことは、先程の魔法で証明済みだ。


 つまり前衛である俺達は、聖女へとスケルトンドラゴンを近付かせなければいいと。


 俺が頷く中、何も言われなかったシスティがおずおずと尋ねる。


「えっと、私は……っ?」


「……システィさんは遊撃をお願いします」


「わかった! 遊撃ね」


 多分それが一番正しいのだが不安しか感じない。リアを打ち抜くだなんてことをしなければいいのだけど。


 システィが魔法まで遊ばせない事を祈るのみだ。


「では、行きます!」


 リアの声を合図して、俺達が一斉に散らばる。


 リアと俺はスケルトンドラゴンの懐に一直線に向かい、システィは魔法を放ちやすい位置を確保するために曲線を描くように走り出した。


 聖女はスケルトンドラゴンから距離をとるために後方へ。


 同時に駆け出した前衛組ではあるが、当然リアが一番槍を決め込んだ。


 俺は攻撃と防御に特化したデュラハンだしな、足が遅くたってしょうがないよ。悔しくなんかない。紫炎を出せば俺の方が速いんだから。


『潰せ!』


 スケルトンドラゴンの肩にいるリッチが偉そうに命令を下す。


 懐に潜るかのようにやってきたリアを叩き潰そうと、スケルトンドラゴンが右前足を振るってきた。


 大地を震動させる一撃をリアは素早く回避して、軸足になっている左脚を聖槍で斬りつけた。


 強靭な体を誇るスケルトンドラゴンの前足が、聖槍による翡翠色の斬撃に抉られる。が、さすがにスケルトンジェネラルのように一気に切断するまではいけないようだ。


 それでもリアは一撃で断てないのであれば、数で押すように斬撃を刻み込んでいく。


 翡翠色の斬線が宙を舞う。それと同時にいくつもの骨片が飛び散っていく。


 それを鬱陶しく思ったスケルトンドラゴンが、大地に叩きつけた前足を勢いよく振るう。


 しかし、それはようやく追いついた俺の剣がせき止めた。


 アダマンタイトの大剣と、スケルトンドラゴンの爪がぶつかり合う。


 その衝撃に押されて俺の踵が僅かに土に埋まるが、思っていた程の威力ではなかった。


 やはりスケルトンドラゴンは体が骨でできているために重さがあまりないな。勿論、普通の人間なら受け止める事は無理だと思うが。


 そんな事を思いながら俺は大剣を無理矢理に押し込む。


 すると、スケルトンドラゴンがたたらを踏みようにバランスを崩した。


『くっ! パワーバカのデュラハンめ!』


 それによりリッチも肩の上でたたらを踏み、憎々しげな声を降らしてきた。


『だが、所詮貴様はデュラハン! 鎧の上に乗せたそのふざけた首を砕いてやれば簡単に倒す事ができる!』


 え? そうなのか!? やっぱりデュラハンって首を潰されると死ぬんだ! 道理でゲームや漫画の世界で大事そうに抱えているわけだよ。


『珍妙な魔法を使う奴もいない事だ。ここでその首もらい受けるぞ!』


「やれるならやってみろ!」


 とりあえず、リッチが都合良く勘違いしているようなので、俺はそれに乗っかっておく。


 後で不意を打てるかもしれないし。


 スケルトンが動き出し、再び前脚を振り下ろす。


 俺とリアは左右に分かれてそれを回避。


 スケルトンドラゴンの首はリアの方を向いており、それを追いかけるように呪いのブレスを吐き出した。どす黒い炎が足元に溜まっている水を蒸発させる。


 あれが俺の方に来なくてホッとしたというのは秘密だ。


『よそ見をしていて良いのか? 貴様の相手は俺だぞ? 赤き業炎よ この杖に集いて 炎弾となせ『プロミネンスショット』ッ!」


 ホッとするのも柄の間、頭上から赤黒い炎弾が次々と襲ってくる。


「なんて危険な魔法なんだ! それを見てシスティが真似をしたらどうする! ただでさえ命中力が悪くて被害に遭う事が多いんだ。それなのに、そんな連射できる魔法を見せびらかして、うちのシスティが真似しだしたら大変な事になるだろ!」


『あの小娘にこの魔法を使えるわけないだろうが。これほど炎弾を生成、コントロールして飛ばすなど並みの魔法使いではできんよ』


 俺が炎弾を避けながら抗議するかのように叫ぶと、リッチが失笑しながら答えた。


「だから余計に危ないんだよ!」


「私を子供みたいに言わないでくれる!? 今は無理でもいつかはできるから!」


 俺の声が聞こえたのか、システィが遠くから杖を構えながら物騒な事を叫ぶ。


 その杖には仄かに魔力の光が宿っている事から、何らかの魔法を完成させたようだ。


 システィは杖をリッチの方へと狙いをつけながら眦を上げて、勇ましく叫ぶ。


「『ロックバレット』ッ!」


 おいおい、ちょっと待て。


 それってば俺と出会う前のパーティーメンバーを、後ろから吹き飛ばした魔法じゃなかったっけ?


 前に聞いた話を思い出して、俺は背筋が寒くなるのを感じた。


 そんな事を思っている間に、システィの目の前で尖った岩石が生成。そして、岩石はリッチ目がけて勢いよく飛んでいった。


 それをスケルトンドラゴンの腕が阻もうと腕を振るう――が、見事に関節の間に入り込んで通り抜けた。


『んなっ!?』


 それに慌てたリッチが、慌てて体を逸らす事で躱す。


 おお、通し芸が珍しく役に立ったが、惜しかったな。


 まあ、スケルトンドラゴンの意識を引けたし、十分な遊撃なのではないだろうか。


『もしかして、あいつ狙ってやっているのか? いや、あの不安定な魔力ではそんな芸当はできないはずだが……』


 リッチがぶつぶつと呟く中、システィはさらに魔法を放っていく。


「『ロックバレット』ッ! 『ロックバレット』ッ!」


 詠唱して次々と岩石を飛ばすシスティ。


 その度にスケルトンドラゴンが主を守ろうと腕を振るうのだが、岩石は避けるように爪の間、骨の隙間を潜り、リッチを狙う。


『どうなっているのだお前の魔法は! ロックバレットも一直線にしか飛ばない魔法なのだぞ!?』


 リッチがたまらず浮遊して岩石を回避する。


 さすがは遊撃手。魔法すら遊ばせるのか。


 どさくさに紛れて俺も転がっている剣や頭蓋骨を投げつけるが、それはスケルトンドラゴンに阻まれた。


 意味のないような攻撃に思えるが、スケルトンドラゴンの気を引いているお陰でリアが遠慮なく斬り込めるのでいいと思う。


 事実、俺達が打ち合っている間にもリアはスケルトンドラゴンの身体を縦横無尽に斬り刻んでいるのだから。


 スケルトンドラゴンの爪が砕かれ、体を支える重要な部位があちこち切り裂かれていく。


 もうちょっとでスケルトンインセクト同様に、見動きが取れなくなるのではないだろうか?


 あとは聖女が神聖魔法を撃ち込んでくれれば……。


 そんな都合のよい事を思ったせいでフラグが立ったのか。


 リッチが厳かな声で詠唱をしだした。


『死者の魂は未だに離れず 死者の血肉を食らいて現世に踏みとどまる『アンデッドヒール』ッ!』


 リッチが杖をかざすと、スケルトンドラゴンを黒いオーラが包み、傷が修復されていく。


 しかも、それは戦場に散らばるスケルトンの死骸までもを吸収して、より大きなものへとだ。


 スケルトンドラゴンの角が足が、肋骨が数多のスケルトンを吸収して密度を増していく。


 今まではどこか頼りない骨龍というイメージだったが、数多のスケルトンを吸収した事で遥かに威圧感を増していた。まるで体に肉がついたかのようである。


『ゴアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!』


 回復魔法ってだけで反則なのに、強化もされるとか反則だ。




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