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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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リッチとの戦い2

リッチとの戦闘が大ボスクラスになってしまい、今朝に大幅改稿をしておりました。

 

「来るぞっ!」


「わかってる!」


 再び放たれる雷撃だが、今度はしっかりと準備をしていたために楽に避ける事ができた。


 ライトニングとはスピードと威力が高い使い勝手の良い魔法だが、直線的にしか飛ばない特性を持つのでタイミングさえ見極めれば避けるのはそう難しくないのだ。


 どこかの誰かさんが放つ、ランダムに曲がるライトニングに比べれば避けることは容易い。


 とはいえ、リッチの放つ魔法も凶悪な威力を秘めているが故に油断はできないが。


 それにしてもリッチの魔法はレベルが高いな……。


「おい、今のリッチの魔法を見たかよ? あれが本当のライトニングだぞ」


「ちょっと! 私にリッチの魔法を見習えとでもいうの!?」


「あの大先輩の方が魔法の扱いが上手いだろ! システィもあんな風にちゃんとコントロール力を身につけるんだ!」


 そんな俺達の会話を聞いたリッチが若干嬉しそうな声で。


『フフ、俺は死霊魔法使いだが一般的な魔法もトップクラスだ! 何せ俺は天才だからな! ……天才的な俺が魔法の神髄を研究して何が悪いと言うのだ! この俺こそが魔法の神髄を研究するに相応しいというのに、あのクソ人間共は……』


 徐々に話がずれて怨嗟の声へと変わっていった。


 恐らくは前世での恨み言だろう。


「嫌よ! リッチの魔法なんて見習いたくない! これが終われば宮廷魔法使いの人が魔法のレクチャーをしてくれるんだから必要ないわ!」


 俺のナイスな提案をシスティは全力で却下する。


 あんなのに教わるのはごめんだと言う風に激しく顔を横に振る。


 まあ、それもそうか。これが終わればきちんと生きた人間の宮廷魔法使いが来てくれるんだ。わざわざ危険なリッチに頭を下げて教えを乞う必要もないな。


『フハハハ! 理解できない奴等など滅ぼしてしまえばいい。全員アンデッドにしてやる!』


 一方リッチは自分の中で妙な結論を出したのか、空中を漂いながら狂ったように笑っていた。


 落ち着きのある男性ほど、表と裏が激しいものなのだろうな。


「おい、システィ。リッチが高笑いしている今がチャンスだ。魔法を撃っちまえ!」


「わかったわ!」


 俺の言葉に頷いたシスティが、杖を掲げて呪文を詠唱する。


 システィの魔力が集まり、杖の先端からバチバチと音をたて始めた。


 そんな中、システィの詠唱に気付いたリッチが気になる言葉を漏らした。


『そんな不安定な魔力で魔法を扱っても当たるはずがないわ』


 不安定な魔力? 一体どういうことだ? 


 やはり元大魔法使いのリッチから見ると、システィの魔法は魔力の練り込みが甘いというわけだろうか?


「『ライトニング』ッ!」


 威勢の良いシスティの声と共に放たれた雷撃が、宙を漂うリッチへと迫る。


 しかし、リッチは避けることも防御魔法を発動することもせず、その場で佇んでいた。


 まるでここにいれば魔法は当たらないとでもいうかのようにだ。


 そして、そのまま雷撃は直撃するかに思えたが、リッチの真横を貫き虚空へと消えていった。


 それを呆然と眺めたシスティがポツリと言葉を漏らす。


「あっ、真っすぐに飛んだ……」


「久しぶりに曲がらないライトニングを見た気がするな……」


 何だろうな。外れたのに妙に喜ぶ俺達は。


 魔法が真っすぐに飛んだくらいで喜ぶ魔法使いと冒険者ってどうなのだろうな。ちょっと虚しくなった。


『フン、やはりな。俺が見本を見せてやろう。『ライトニング』ッ!』


 リッチが再び詠唱し、雷撃を降らしてきたので俺達は慌ててその場を離れる。


『『ライトニング』ッ! 『ライトニング』ッ!』


 同じ場所に固まっていては二人とも攻撃を食らってしまうので、二手に分かれているのだが、それでもリッチは息を突く間もなく雷撃を降らしてくる。


 多分、俺の防御力ならばリッチの魔法でも耐える事はできると思うが、警戒されてしまうと大きく間合いを取られてしまいそうなので今は避ける事に徹する。


 それにしてもあの野郎、好き放題に魔法を放ちやがって。


 舌に油でも塗っているんじゃないかってくらい、詠唱に淀みがなくて速いな。


 リッチは舌がないから早口の詠唱が得意だったりするのか? 


 ええい、ファンタジーな生物に突っ込んでも仕方がないな。俺自身もそうだし。


 リッチの魔法は威力もスピードもコントロールも最高クラスだ。


 自分の事を天才だと主張するだけの事はあるな。


 それにしても、リッチ自身が空中にいるっていうのが厄介だ。


 こっちは攻撃が当たらないのに、向こうは宙に浮きながら雨の様に魔法を降らしてくるのだ。


 それでいて俺が近付けば宙を舞うように移動して距離を取りやがる。


 嫌らしい戦法だ。これにアンデッドによる物量攻撃があるのだと考えると厄介極まりないな。


 そんな事を考えながら走っていると、宙を舞うリッチが目の前にやって来た。


『『ライトニング』ッ!』


「うおおおお! ゾンビ二枚盾!」


 俺は思わず立ち止まり、地面に転がっているゾンビを盾として構えて防御した。


 リッチの魔法の威力を考えて、防具を装備した大柄なゾンビを選んだのだが、呆気なく防具もろとも貫いてきた。


「俺の二枚盾が!?」


 二枚盾のお陰で雷撃の威力が大きく衰えたが、俺の体まで雷撃が届いてきた。


 俺自身には全くダメージがないが普通の人間なら間違いなく怪我をするレベルだ。


 ただのライトニングだというのに、システィとは大違いだ。


『お前は本当にデュラハンなのか!? デュラハンといえば生前は騎士だろう!? ゾンビとはいえ、人間の死体を盾にすることに何の抵抗もないのか!?』


 あのリッチは生前の俺を騎士だと思い込んでいるようだ。


 残念ながら俺の生前は騎士などではなく、ただの会社員。


 生き残るためならば手段など選んでいられない。それはこの世界にきて初日で学んだことだ。


「というか、人の死体であるゾンビを操るリッチには言われたくないぞ! お前こそ元は人間の魔法使いだろうが! 死体を操ることに抵抗はないのか?」


『元人間だからに決まっているだろう? 魂をも扱う死霊魔法を極めれば永遠の命が手に入るかもしれんのだぞ!? 永遠の命という尊いものの礎となれるのだ、医学と何ら変わりないよ』


 俺がそう言い返すとリッチは興奮した口調で語りかけてくる。


 ええい、急に道徳的な事を言い出したり、狂った事を口走ったりと意味のわからん奴だ。


 だが、リッチのお陰で俺が普通のデュラハンとはかけ離れていることだけはわかった。それだけは感謝してやってもいいな。


「そんな危険な事を平気で言うからお前は殺されたんじゃないのか?」


 どうせそんな事を平気で言うから、危険な人物だと認定されて追手がかかるなり、暗殺されるなりしたのであろう。


『ええい、黙れ! 『ライトニング』ッ!』


 呆れた風に言う俺に、激昂したリッチがもの凄い剣幕で雷撃を放ってきた。


「図星かっ!」


 俺は慌ててその場から逃げ出す。


 くそ、これじゃあロクに近付けない。


 攻撃力に自身のある俺でも攻撃が当たらなければ意味はないのだ。


 何とかしてリッチを地上に引きずり降ろさなければ。


 角度のついた雷撃からジグザグと走って避ける。後方ではいくつもの雷撃が着弾して熱煙を上げていた。


 さっきよりも威力が上がっている気がする。あれをもろに食らえば俺でも熱いかもしれないな。


 リッチは、魔力を糧にして魔法を放つ魔物だ。当然魔力が切れれば魔法は放てなくなる。


 このまま疲労を感じない俺が、逃げ続ければ魔力切れを狙えるのかもしれないがシスティがいる今では厳しそうだ。


 人間であるシスティをリッチは狙うに決まっている。


 それにリッチは凄腕の魔法使いなのだ。自分の魔力の把握ぐらいきっちりとしているだろう。


 いざとなったら浮遊能力を使って撤退していくに決まっている。


 ここは魔力切れを狙うのではなく、短期決戦で一気に攻め落とすのが一番良さそうだ。


 走りながら考えていると、前方では杖を掲げて詠唱しているシスティの姿がいた。


『その不安定な魔力を見れば、お前の魔法などほとんど当たらん事くらいわかるわ。何度やっても無駄だ』


 システィの杖に紫電がバチバチと収束していく中、リッチが嘲りの声を上げながら杖をシスティに向ける。


 それからシスティの魔法の完成を上回るスピードで詠唱を開始。


『荒れ狂う雷鳴よ 一条の閃光となりて……』


 後追いの癖にシスティよりも早く完成しそうだ。


 このままだと無防備に詠唱をするシスティに魔法が直撃してしまうので、俺は咄嗟に地面に転がっているスケルトンの頭蓋骨をリッチに投げつけた。


 すると、頭蓋骨は宙にいるリッチの杖に直撃。


『彼の者を――ってどわあっ! お前はさっきから猿のように物をポンポンと投げてきおって……。もっと品位のある戦い方はできんのか!?』


 頭蓋骨を投げつけられて詠唱を中断させられたのが頭にきたのか、リッチが眼窩にある赤い光を煌々と輝かせて怒鳴ってくる。


 ライトニングよりも高位な魔法を見せびらかそうとしたのに、邪魔されたのが悔しかったに違いない。


「うるせえよっ! 俺の攻撃が届かないから仕方がないだろ! 文句があるなら地上に降りてこい!」


 そのせいでこっちはゾンビを盾にしたり、頭蓋骨を投げたりしかできないんだ。一方的に追いかけられてこちらのヘイトは溜まる一方だぞ。


 そんな俺の文句を聞いたリッチは『フン』と鼻息を漏らし。


『猿の声など伝わらんわ』


 ウキ―! あいつの顔を思いっきりぶん殴ってやりたい。


 殴ったらさぞかしいい音がするであろうな。


 そのためには、是非ともシスティさんに魔法でリッチを撃ち落としてもらわないと。


「いくわよ! リッチ!」 


『魔法をぶつけて打ち負かしたかったがまあいい。どうせ当たらんのだ。いつでも撃ってこい』


 魔法の完成したシスティが威勢よく声を張り上げるが、リッチは下らないとばかりにぶっきらぼうに答える。


 いやー、確かにうちのへっぽこ魔法使いの魔法は当たらないけど、油断しているととんでもない目にあうぞ? 


 なんせあいつは直線でしか進まないライトニングを曲げるくらいだ。


「『ライトニング』ッ!」


 システィの杖から雷撃が迸り、リッチの下へと一直線に飛んでいく。


 システィのライトニングは今日は真っすぐな気分らしく、比較的まともな弾道をしている。


 このまま行けばリッチに当たるのではないだろうか? 


 しかし、俺の中で培われた勘が、それはフェイクだと告げている。


『む? 今回は当たりそうだな。運の良い奴め。ちょっと避けるか』


 そんなことに気付かないリッチは、直線軌道から逸れた横へと移動する――が、雷撃は追跡機能がついているかのようにカクンとリッチの方へと曲がった。


 ああ、やっぱりシスティの魔法だ。


『バカなっ!? ライトニングは直線にしか飛ばな――ぐあああああああっ!』


 リッチが雷撃を浴びて、宙から真っ逆さまに落ちてくる。


 俺はすかさず落ちてきたリッチをぶん殴ってやろうと思い駆け出す。


『ま、待て! お前!』


「猿だから言葉わかんねえよ!」


 慌てた声を上げながら落下してくるリッチの顔面を思いっきりぶん殴ってやる。


 デュラハンの力を込めたパンチは、黒い障壁に阻まれることなくリッチの顔面に突き刺ささる。


 拳が頬骨をメキメキと破壊し、リッチはボールのように吹き飛んでいった。


「はっはー! ざまあみろ!」


「デューク! 相手はアンデッドよ! とどめ! 念入りにリッチを砕いて!」


 リッチを殴り飛ばして痛快な気分を味わっていたが、システィの鋭い声を聞いて我に返る。


 そうだあいつはアンデッドだ。あれくらいでくたばるはずがない。


 もっと念入りに砕いておかないと!


 そう思って駆け出すと、地面に倒れていたリッチが勢いよく宙へと舞い上がった。


 殴られた頬からはパラパラと骨が落ち、湿地を転がったせいか全身はドロドロだ。


 それにしても俺がぶん殴ったというのに、顔が粉々になっていないとは頑丈な奴だ。


 リッチは防御力の低いアンデッドなはずなのだが……。


 また指輪の力か?


 リッチの手元を凝視すれば、残っていた指輪が全て砕けているのがわかった。


 恐らく指輪の力で肩代わりしてもらったのであろう。全ては受け流せなかったようだが。


『……よくもやってくれたな。お前達くらい俺がさっさと葬ってやろうかと思ったが予定変更だ。俺は死霊魔法使いなのだ。何も自ら戦う意味はないのだ。面倒な争いは眷属に任せるに限る』


「咄嗟に防御してくれる指輪が砕けて戦うのが怖くなっただけだろう?」


『ち、違うわ! ただ単に俺が相手をする必要がないだけなのだ!』


 ムキになって否定しているところがその証拠じゃないか。


「図星ね」


『うるさい! お前達もすぐに潰してやるからな! 精々あがくがいいさ』


 システィの言葉に激高したリッチは、そんな小物臭い捨て台詞を吐くと霧の奥へと飛んで行った。


 結局逃げられてしまった。


 霧の奥へと消えていくリッチを眺めた俺達は一息つく。


「攻撃を肩代わりしてくれる魔道具とかいいな」


「まあ、途轍もなく高価だけれどあれば心強いわね。聖女さんが姿を変えている魔道具のように、一部の王族だけが所持しているみたいだし」


 なるほど、かなり貴重で王族に準ずるくらいの偉さがないと所持できないのか。


「そんな貴重な物とわかれば手刀で腕を叩き折って貰っておくんだったな。それから殴っても遅くはなかったな。むしろ、その方が確実に仕留めていたかもしれない」


 俺の後悔したような声を聞いて、システィが朗らかに笑う。


「あはは、でもデュークは使わないでしょ?」


「そりゃまあ、俺はデュラハンだし丈夫だしな。使うならシスティだろ?」


「気持ちは嬉しいけどリッチの使っている指輪なんて呪われてそうで嫌よ」


 それもそうか。死霊魔法使い、リッチの嵌めている指輪だなんて装備したら呪われそうだしな。


「……私にはいらないわ。だって私にはデュークがいるんだもの」


 俺がデュラハンだと明かしてそれを受け入れてくれた時のような、屈託のない笑みで言うシスティ。


「……システィ」


 俺はそのシスティの言葉に感動し、思わず涙を……って、ちょっと待て。


「ちょっと待て。それは俺が肩代わりの指輪だとでも言っているのか?」


 俺が呆然とした声で尋ねると、システィがおかしそうに腹を抱えて笑った。


「さっき私の事を餌って言ったお返しよ」


まあ、いつも通りの二人ですね。

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