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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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リッチとの戦い1

 

『……貴様、同族の癖に何故俺の邪魔をする。デュラハンといえば、死亡した騎士の濃密な憎悪と莫大な魔力が集まり生まれる魔物。俺と同じく人間を恨みこそすれ、味方をする理由はないはずだ!』


 俺とシスティに対峙するリッチが、理解できないという風に声を荒げて語りかけてきた。


 そんな物騒なデュラハンの説明を聞いたシスティがこちらへと向き。


「そうなの?」


「いや、違う。それはきっと悪いデュラハンなんだ。俺は良いデュラハンだから当てはまらんぞ」


『なっ!?』


 きっぱりと否定するとリッチが素っ頓狂な声を上げる。


 濃密な憎悪と莫大な魔力が集まって生まれる魔物で、本来は人間を恨んでいるとか言われても、異世界からやってきて気が付いたらデュラハンになっていた俺には関係のないこと。


 そんな悪いデュラハンと同じにしないでいただきたい。


 こちとら姿は変われど、心は善良な人間なのである。


「だよねー。デュークってば普通のアンデッドとは全然違うし。むしろ、自分が生きるためなら同族だって笑顔で屠るもんねー」


 そんなシスティのあっけからんとした様子にリッチが慌てふためく。


『一体どういう事だ!? お前はアンデッドのデュラハンなのだろう? 生前の恨みはどうした? なぜに人間などと仲良くやっているのだ!?』


「いや、恨みとかは特にないから」


『ないだと!? お前はどうやって生まれて、何のために生まれてきたんだ!?』


「それは俺も聞きたいくらいだ」


『はあっ!?』


 顎の骨を目いっぱい広げてあんぐりとさせるリッチ。


 いや、前世で首が跳ねて死んだと思ったら、異世界の森の中。しかも、姿は死因をなぞったかのように首無しの全身鎧ときた。


 意味が分からない。こんなファンタジー世界にデュラハンを放り込む意味が。


 俺に何をしろって言うんだ。


 異世界にきた俺自身が聞きたいくらいだ。


 俺が腕を組んで堂々としていると、本気だと理解したのかリッチは大きく広げた顎を腕で嵌めなおした。


『ええい! 人間を憎むアンデッドの癖に人間に肩入れする裏切り者め! ならば、人間もろとも葬り去ってくれる! 行け! 我が眷属達よ!』


 リッチがゆらりと右腕を上げて杖を振るうと、周囲にいたアンデッド達が一斉に動き出す。


 ……システィの下へ。


 俺も一瞬、周りのアンデッドと同じくシスティへと襲いかかろうとしたが、感づいたシスティが密着してきた。


「アンデッドごっこはもうお仕舞いだからね」


「ちっ、つまんねーの。わかったから、餌は――システィは一歩下がれ」


「あっ! 今デューク私のこと餌って言った」


「言ってねえよ」


 俺がシッシと手を振ると、システィは眉を八の字にしながら渋々とした表情で下がった。


 周囲にいるアンデッドが生者であるシスティめがけてゾロゾロとやって来る。


 俺は真っ先に近付いてきたスケルトンをリッチがいる方角に思いっきり蹴っ飛ばす。


 細い木の枝をへし折るような乾いた音と感触が足に伝わり、胸骨が粉々に砕ける。


 デュラハンの力で蹴られたスケルトンは勢いよく後方へと吹き飛び、後ろにいるスケルトン達を多く巻き込んだ。


 砂煙と共に、スケルトンの骨が舞い上がる。


 しかし、直線状にいたであろうリッチは飛んでくるスケルトンを難なくと避けて、空中を漂い出した。


 特にリッチは今のところは仕掛けるつもりはないらしい。今は眷属のアンデッド達を俺にぶつけて実力を把握しようとしているのだろう。


 空中から見下ろしてくるリッチに視線を送りながら、俺はシスティの下へと近寄るゾンビを大剣で一気に薙ぎ払う。


 そして大剣を素早く引き戻し、今度は左からやってくるゾンビ共を斬り伏せる。


 ゾンビやスケルトンの体が次々と地に沈んでいく。


「ハハハ! アンデッドの俺は襲われないからこんな奴等いくらいようと動く的だぜ!」


「ちょっとデューク! このスケルトンまだ動いているんだけど! ちゃんと砕いておいてよね!」


 俺が哄笑を上げて暴れ回る中、システィは俺が砕き損ねたスケルトンを杖で叩き割ったり、地面で蠢くゾンビに火を放ってとどめを刺していた。


 お前はバイオ〇ザードの主人公か。


『ぐぬぬ、我が眷属がやけにあっさりとやられると思っていたらお前のせいか! やはり低位のアンデッドでは知能がない故に仕方がないか……』


 自分の呼び出したアンデッド達が俺に攻撃することも防御することもなく、好き放題に沈められていく様子を見てリッチが歯噛みする。


 そうそう。いくら大量のアンデッドを出そうと、攻撃も防御もできないんじゃ意味がないからな。


 システィを囮にして、寄って来たのを潰せばいいだけだ。


 俺は一際大きいハイスケルトンを軽々と持ち上げる。


 足が地面から離れるとさすがにジタバタと暴れるようだが、それだけだ。


 持ち上げた俺を仲間のアンデッドとして認識しているせいか、ロクに反撃もしてこない。


 まるで何もできない赤子のようだ。


 俺はハイスケルトンを思いっきりアンデッドの群れにぶん投げていく。


 すると、面白いように次々とアンデッド達が倒れていくのだ。


 うん、手っ取り早く数を減らしていくならやっぱりこうだな。ひとつひとつ砕いていってはキリがない。


 スケルトン系は体が軽いのでできるだけ綺麗なゾンビを選び、次々とぶん投げていく。


『なっ!? お前無茶苦茶だぞ!?』


 アンデッドがゴミのように舞い上がっていく中、リッチがそんな声を漏らしているが知らん。


 逆にリッチが飛んでいる場所目がけてゾンビを投げてやる。


 弾はそこら中にあるんだ。存分に投げまくってやる。


『おわっ!? 危ないなっ!』


 俺が次々とゾンビを投げていくが、さすがに空中を移動する相手には当たりにくいな。


 リッチの奴は空中を自在に移動して、俺の放つゾンビを避けていく。


 くそ、ちょこまかとしおって。


 次の玉、次の玉。


「……凄いわね。ゾンビをボールみたいに投げるわねデューク――ってわひゃ!? ちょ、ちょっと私はボールじゃないわよ! 降ろして! 降ろしてってば!」


「おお、悪い。近くにあったからゾンビかと思った」


 涙目になりながらガンガンと杖で俺を叩くシスティを降ろしてやる。


 ゾンビにしては妙に温かいし変だと思ったんだよなあ。


「本当にやめてよね!? 私もあのゾンビみたいに思いっきり投げられるのかと思ったわよ」


 システィが必死の剣幕で指さす先には、俺の投げたゾンビ共が頭から地面にめり込んでいた。システィがあれのように投げられていたら一たまりもなかっただろう。


 多分、恨みが募ってリッチがもう一体増えていたに違いない。


「悪い悪い」


 身体が小さいせいか、結構抱えやすくて投げやすそうだったが言わないでおこう。


 しかし、ゾンビ投げ作戦のお陰か、あれだけいたアンデッド共がほとんどいなくなった。


 僅かながら存在する生き残りも、上に重なったゾンビの重みで動けないようだ。


 それ以外はデュラハンのパワー全力で投げてやったので、ちょっとグロテスクな事になっている。とりあえずまともに動ける奴はいないだろう。


『おのれ! 同族の癖によくもあそこまでゾンビを投げられるものだ! お前には心がないのか!?』


「いや、アンデッドを好き勝手動かすお前には言われたくねえよ」


 アンデッドとなった死者を操る方が非道だと思う。


『ぐっ! まあいい! デュラハンと魔法使い一匹如き、この俺が始末してくれる!』


「魔法使いって言われた……」


 リッチの言葉を聞いて嬉しそうな顔をするシスティ。


 最近俺が偽魔法使いとか、ポンコツとか呼んでいるせいだろうか。


 舞い上がるシスティをよそに、空中を漂うリッチが厳かな口調で詠唱をする。


『紫電よ 我が杖に集いて相手を貫け『ライトニング』ッ!』


 リッチの杖から雷撃が迸り、俺達の下へと飛んでくる。


「ぐえっ!?」


 俺は無造作にシスティの襟首を掴んで大きく後ろに下がる。乙女にあるまじき声が聞こえた気がするが突っ込まないであげよう。


 俺達のいた場所では、リッチの放った雷撃が勢いよく突き刺さり地面を貫いていた。


 凄まじい電熱により地面からはもうもうと熱煙が上がる。


 システィのライトニングとは威力も範囲もスピードも桁違いだ。


 リッチのライトニングに戦慄している中、システィが咳き込む。


「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ! ありがとうと言いたいけど、もうちょっと丁寧に運んでくれると嬉しいんだけれど」


「リッチの言葉に惑わされてボーっとしていたお前が悪いんだ」


 俺達がそんな言い合いをしている間にも、宙を漂うリッチは悠々と詠唱をしていく。


『ライトニング』ッ!』


「来るぞっ!」


「わかってる!」


次話もすぐに更新できるかと。

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