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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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リッチの登場

最初はリッチの視点です。お気をつけ下さい。

 

 おかしい。


 さっきから私が呼び出した眷属たちが次々と葬られている。


 それもとんでもないスピードでだ。


 私が多くのアンデッドを召喚し、人間共が群がっている場所へと迂回させて急襲させようとしているのに次々とやられて魂が冥府へと還っていく。


 幸いこの場所には怨嗟と魔力、死体で満ちているために魔力の消耗は抑えられるがこのままではじり貧だ。


 潰されていると言う事はそこに人間の強者がいるという事。


 私はその人間がいるであろう気配を探ってみるが、人間の反応は一人しかいない。


 魔力の波動から感じるにその者は魔法使いのようだ。


 魔力自体は確かに多いが、所詮はただの魔法使い。


 私が送り込んだ三百以上のアンデッドがいれば余裕で捻りつぶせるはずだ。


 その中には魔法に抵抗力のあるスケルトンジェネラル五体を初めとした、スケルトンウォリアー、スケルトンアーチャーといった歴戦の戦士たちの魂を媒介にした者達。


 どれも魔法使い泣かせばかりのアンデッド達だ。


 並みの魔法では通用せず、魔法を使ってくる。さらには防御力が高く、遠距離攻撃の手段を持ち、接近戦もこなす部隊だ。


 私が過去にそんな軍団に一人で遭遇すれば逃げ出す自信がある。


 当然だ。これは私が過去でやられた嫌な戦法だったのだ。同じ魔法使いであれば嫌がるに決まっている。


 なのに、私のアンデッドの軍団はその一人の魔法使いに倒されているというのだ。


 一体、どれほどの技量を持った魔法使いなのか想像がつかない。


 後方にいる忌まわしき正のエネルギーを持つ者ならともかく、ただの魔法使いがあのアンデッド達に囲まれて平気でいられるはずがない。


 一体どのような魔法を使えばそのような事ができるというのだ……。


 同じ魔法の探究者として気にならないでもない。


 ん? 今思えば、さっきからその者はあまり魔法を使っていないのではないか? 微かに魔法を行使しているようだが、その程度で倒せるアンデッド達ではない。


 わけがわからない。


 こうしている間にも、私が送り出すアンデッド達が次々と潰されていく。


 一度前線に出て状況を把握してみるべきだろうか?


 そうして悩んでいると、不意に魔法使いの者が群れへと合流していくのを知覚した。


 む? アンデッドの攻撃でも受けたか、体力を消耗したのか?


 魔力は依然として温存されているのに退却するのが不思議だ。後方に援軍を頼む必要もないであろうに。


 よくわからないが、これなら遠慮なく人間共にアンデッドをぶつけて奇襲を仕掛けられる。


 私はここぞとばかりにアンデッドを召喚して、増員する。


 よし、俊敏性のあるスケルトンビーストやスケルトンインセクトを召喚して攻め立てるか。


 早速とばかりに呪文を唱えていると、またしてもアンデッド達が消滅していくのを知覚した。


 バカな! どうして私の眷属達がひとりでに倒れていくのだ!


 魔法による遠距離攻撃を受けているでもないぞ。一体どういう事なのだ!


 私が混乱している間にも眷属達が次々と地に沈んでいく。


 ええい、こうしてはいられない。一度前線を見に行こう。


 今宵は生者をいたぶる死者の宴なのだ。邪魔する者は誰ぞ。




 ◆ ◆   ◆




 システィがドレイクの治療に行った後、俺は一人でアンデッドと戦い続けていた。


 戦うといってもかなり一方的で、もはや作業としかいえないものなのだが、それを考えるとつまらなくなるので止めておく。


 そう、思考を切り替えればいいのだ。このアンデッド達を潰すだけでお金が貰える。


 そう考えればとても楽ちんで楽しいものだ。


 特にこの偉そうな恰好をしたスケルトンジェネラルは、程よい硬さを持っているので気持ちがいい。まるで不要になったプラスチックゴミを潰しているようだ。


 スケルトンジェネラルを念入りに踏みつぶしていると、またスケルトンジェネラルがふらふらとやって来た。その後ろにはまた物々しい装備をしたスケルトンが続くように行進している。


 システィという名の餌がないせいか、全体的に冒険者達がいる右へ右へと流れていくので面倒くさい。早くシスティが戻ってこないだろうか?


 そんな事を考えながらスケルトンジェネラルを手刀でバラバラにし、丁寧に胸骨と頭蓋骨を踏み砕く。


 プラスチックを踏みつぶした様な、硬質で小気味良い音が鳴り響く。


 人型の骨を潰すのに忌避感を抱いていたものだが、随分と慣れてきたものだ。


 もう何百体と同じように倒しているせいか慣れてきたのであろう。腐ったような強烈な腐臭も今では何とも思わない。デュラハンの身体なので、元々そういうのには強いのかもしれないな。


 物々しい装備をしているスケルトンを投げ飛ばし纏めて吹っ飛ばす中、ゾロゾロと歩いてくるゾンビ達を大剣で切り裂く。


 ゾンビも思いっきり殴ってやれば済むのだが、その場合は爆散して色々な物が飛び散って来るので遠慮したい。


 飛び散る以前の問題で出来るだけ触れたくないというのもあるが。


 ただただ適当に斬っているだけでは何の練習にもならない。


 せっかく丁度いい的があるのだから思う存分試行錯誤を繰り返す。


 アダマンタイトの重さがあるのでパワーは申し分ないであろう。


 ならば今はパワーの追求ではなく、いかに素早く踏み込んでゾンビ共を斬り倒せるか。


 俺はゾロゾロと目の前を歩いていくゾンビ達、四体に目をつける。


 頭の中でどの順番で倒していくか、どういうルートで行くのかをイメージしてから突撃する。


 一番近くにいるゾンビへと素早く踏み込んで斬り払う。


 それから次の一体へと行こうとしたが大剣を大きく振りすぎたせいか、思うように進めない。


 このアダマンタイトの大剣にはかなりの重量があるのだ。防御力の低いゾンビ相手に振る必要はなかったであろう。重さを使って軽く押すくらいでバターのように斬れるはずだ。


 そう思いなおしながら流れていく大剣を即座に戻し、二体目へ。


 次のゾンビにはすれ違い様に大剣を押し当てる。たったそれだけで大剣はゾンビの胴体に食い込み、切断した。バターどころではない、豆腐のようであった。まったく斬ったような感触がなかった。


 少し刀みたいな動作であるが、重さを生かした小さな動作で斬るのは悪くない戦法である。


 それから俺は三体目、四体目のゾンビをできるだけ小さな動作で地に沈めていった。




 そんな風に自分の訓練をしながら、押し寄せてくるスケルトンやゾンビ達を倒している頃であった。


 霧が漂う空に黒い姿をしている何かを見つけた。


 思わず周りにいるアンデッドに攻撃をするのを止めて、その物体をじーっと見上げる。


 空中三メートルほどを浮遊しているのは黒いローブを羽織ったスケルトン。


 腕にはいくつもの指輪に嵌めており、手には木製の杖を手にしている。


 その眼窩からは怪しい赤い光が灯っており、見ているだけで魂を抜かれてしまいそうな気がする。


 あれって、噂に聞くリッチとかいう高位のアンデッドではないだろうか?


 システィや聖女に聞いていた通りの魔法使いのような外見だ。


 一体彼は何をしにきたのであろうか。


 リッチによっては交渉の余地があるとの事だが、どうなのだろうか。


 見たところ悪の大魔法使いにしか見えないのだが……。


 リッチという魔物は人間の魔法使いに大きな未練があったり、死体に怨嗟の力や魔力が注ぎ込まれる事で稀に発生する魔物だ。


 当然強さや性格といったものは生前に大きく作用されるそうだ。


 なので、彼が温厚で話せる奴なら同じアンデッドとして友達になりたいのだが。


 空中を漂うリッチをどこか期待の込もった眼差しで見ていると、ちょうどリッチが俺の近くに降りてきた。


 黒のローブをはためかせてゆっくりと降りてくる。


 それに伴いアンデッドが行進を止めて、リッチへと振り返る。


 それからリッチは、その骨の首をキョロキョロと回して辺りを見回した。


『……魔法使いの反応はないな。となると、私の眷属を葬っていたのは誰なのか……』


 落ち着きのある男性の声を漏らすリッチ。


 おお、このリッチってば普通に話せるじゃないか。となると、俺とお友達になれる可能性はあるじゃないか。


 俺が心の中で喜ぶ中、リッチは辺りを眺めると忌々しげな声で叫んだ。


『私の眷属をここまで潰してくれるとは許さん! 己、一体誰の仕業なのだ! 魔法使いの他に誰かいるのなら出てこい!』


 どうやらこのアンデッド達はこのリッチが召喚、または作り出したようだ。


 それを木っ端微塵にされて大層お怒りのようだ。


 マズいな。ここで俺が全部潰したとか言ったら襲われるだろうな。怒られるだろうな。


『どこにいるのだ! 出てこい!』


 ……何だろう。学校のホームルームで悪さをした人を炙り出すかのような雰囲気だ。


 心なしか他のアンデッドが下を向いている気がする。


 良かった。こいつらが俺を指さすような知能がなくて。


 俺が心の中でホッと息をついていると。


「デューク、戻ってきたわよ――って、うわっ! 皆こっち見た!」


 ドレイクの治療をしてやったシスティが戻って来た。


 何て間の悪い奴なんだ!


 生者がやって来たことにより、全てのアンデッドがシスティの方へと振り返る。


 俺がここでリッチを凝視していれば、俺だけが普通のアンデッドではないと思われそうなので、勿論俺もシスティの方を向いて静止する。


 そんな中、リッチは俺の近くまでやってきてシスティに怒りを含ませた声で尋ねる。


『その魔力の波動っ! 貴様、先程からここで私の眷属を葬っていた魔法使いだな? 死者の宴を邪魔する憎き生者め! ここで死んでもらうぞ!』


「げっ! もしかしてリッチ!? ちょっとデューク何してるのよ!? 早くそいつをやっつけてよ!」


 リッチの怨嗟の声に慌てたシスティがそんな事を叫ぶが、俺は反応してやらない。


 俺は元日本人。集団行動を守り、長い物には巻かれる者なのだ。


「ちょっと、アンデッドごっこなんてしていないで助けてよ! このままじゃ、私ピンチなんですけど!?」


「…………」


「ちょっとー!?」


 こちらを指さして涙目になるシスティ。


 どうしよう、アンデッドごっこがちょっと楽しい。


『デューク? アンデッドごっこ? 一体あの魔法使いは何を戯けた事を言っているのだ……?』


 一方、リッチはシスティの言葉を聞いて首を傾げている。


 そりゃ、そうだろ。今の俺はアンデッドに紛れた全身鎧を着たゾンビだし、アンデッドとお友達の魔法使いなんて普通はいないからな。


『仲間がどこかにいるのか知らないが、私の計画を邪魔する奴は許さん! 憎き生者はすべて滅ぼしてやる!』


 このリッチとはお話をしてみたかったのだが、どうも悪いリッチのようだ。


 何だか生者を酷く憎んでいる様子だし、話になりそうにないな。


 もしかして、スケルトンドラゴンもこいつの仕業じゃないだろうか? そんな気さえしてくる。


 俺がそんな確信にも似た思いを抱いていると、リッチがちょうど腕を振り下ろした。


 それに反応してアンデッド達が身構える。


「ひいいい! ちょっとデュークっ!?」


 杖を両手で持ちながら涙声を出す、システィ。


 仕方がない、交渉は決裂だ。


 俺はすぐさま動き出して、リッチへと大剣を振るう。


『眷属達よ、かか――なっ!?』


 すると、突如としてリッチから黒い盾が出現し俺の大剣を防いだ。


 黒色の盾が俺の大剣を防ぐ――が、それは数秒の事で大剣の威力に負けて破砕。


 それと同時にリッチの指輪の一つが砕け散った。


 どうやら今のは魔道具によるものらしい。


 それから追撃しようと踏み込むが、リッチが空中へと逃げたので失敗。

 不意打ちで仕留めたかったのだが。


「ちょっとデューク、驚かさないでよね! デュークがリッチに操られているのかと思ったじゃないの!」


「操られてなんかねえよ。ちょっと機会を窺っていただけだ」


 相手は死者を操るリッチだろうし、そこらへんが怖いな。操られたりしないだろうか?


『貴様、私が召喚したアンデッドではないな? その全身鎧に入った魂……デュラハンか!』


 空中を漂うリッチが、赤い眼光を光らせて憎々しげな声を出す。


「ああ、そうだとも俺はデュラハンだ。お前の好きにはさせないぜ?」


 そう告げて大剣をリッチに向ける俺。


 フッ……決まった。


「……なにカッコつけてんのよ」




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