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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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戦場を俯瞰する聖女

遅れてすいません。少し原稿作業をやっておりました。今回は聖女視点です。

次の話も近いうちに更新します。

 

 戦う騎士や冒険者達を支援する後方の丘にあるテントでは、ひっきりなしに負傷した人々が運ばれていた。


 そこでは多くの神官や医者、薬剤師がそれぞれの治療に当たり、多くの人々の傷の手当てをしていた。


 回復魔法というのは万能の魔法ではない。部位の欠損の再生はできないし、血が流れすぎていると救えない場合もある。病気だって治すことはできないし、魔力が尽きると発動すらできないのだ。


 回復魔法を使うにはより治療が困難な負傷者に回されるために、比較的負傷の軽い者、治療が簡単なものは医師や薬剤師によって治療されることが多いのだ。


 テントの中で苦しげな呻き声が上がる度に、私は神聖魔法で回復を施してやりたくなってしまう。


 私の魔法を使えば一気に回復するというのに……。


 一回くらいの回復なら大丈夫なはず。


「ダメですよ。アリア」


 そう思い、テントの中に足を踏み入れようとしたのだがリアに止められる。


「えーと、一回くらいなら」


「ダメです」


 即座に否定するリア。


 王都の人々の心を鷲掴みにする聖女スマイルで言ってみるも、リアの前では全く通用しない。


「皆の怪我を治したいのです」


「そんな上目遣いで頼んでもダメです」


 昔は私がチョロっと上目遣いで頼んだら我儘を許してくれたというのに、最近のリアは冷たいと思う。小さい頃から一緒に育ってきた、妹のような存在である私が可愛くないのかしら?


「アリアにはスケルトンドラゴンを倒していただけないといけないのです。ここで貴重な体力と魔力を消費してもらうわけにはいきません」


 私の持つ神聖魔法はアンデッド族の魔物に大きな一撃を与える事ができる。


 そのために私はスケルトンドラゴンが出現するまで温存されているのだ。


 魔力回復ポーションで魔力を回復すれば魔力面では問題ないが、魔法を使うのには体力が必要となるので体力面で厳しい。


 あれはどうしてもという状況になった時のみ使用するのが好ましいものなのだ。


「けれど、スケルトンドラゴンくらいリア一人で倒せるんでしょう? 私がいなくても大丈夫じゃないですか」


 本心から言うと、スケルトンドラゴンと戦うなんて冗談ではない。


 いくら神聖魔法を扱えるからといって、こんな幼気な美少女を戦場に送り出すだなんてどうかしている。私はエリアル様にお仕えする聖女であって戦士ではないのだ。


 どうせリアと適当な大司祭が行くであろうとたかをくくっていた私は、そりゃあもう驚いた。


 ついにエリアル神殿のクソ爺共と王族は狂ったのかと思った。


 そこらにいるスケルトンやゾンビではないのですよ? ドラゴンですよ!


 ブレスは吐くし俊敏性もあるのだ。とても私が真っ向から戦える相手ではない。


「いくら私でもスケルトンドラゴンを相手に一人で打ち勝つなど無理です。ドラゴンとは、他の魔物とは一線を画す存在なのですから」


 ため息を吐きつつ答えるリア。


 今までどんな高位な魔物が現れても粉微塵にしてきた癖に。


 リアなら案外単体でスケルトンドラゴンを倒せるのではないかと思う。聖属性の力を帯びた聖槍もあることだし。


 そんな風にリアの手にある聖槍に視線を向けていると気付いたのか、リアが居心地を悪そうにしながら言う。


「聖槍があっても無理ですよ。人間一人の力には限界というものがあります」


 確かにいくら人外な力を誇るリアも一応は人間だ。性別は置いておくとして。


 さすがにスケルトンドラゴンを相手に一人は厳しいのかもしれない。リアは私と違って身を守る結界を張ることはできないし。


 それならば、リアを守る盾がいれば問題ないのではないだろうか。


「今回はデュークさん達がいますよ?」


「確かに彼らには実力があります。特にデュラハンであるデュークさんの攻撃力と防御力はとても頼りになるでしょう」


「遠慮なく盾に使えますからね」


「そうで――ゴホン! そういう言い方はいけません。優秀な前衛と言うべきです」


 そうですねって答えそうになった癖に、何を取り繕っているのか。


 どうせ聞こえないのに。


 彼は防御力と攻撃力に定評のあるアンデッド族の魔物、デュラハン。


 ちょっとやそっとの攻撃で死ぬはずがない。というかすでに死んでいる存在なのであると思うが。


 とにかく、彼が率先してスケルトンドラゴンの攻撃を受け、そのすきにリアが斬り込めば討伐できると思う。


 そうすれば美しい銀髪の聖騎士の手柄となり、華々しく王都で凱旋できる。


 美しい女性であるリアが活躍したとあれば庶民も大いに喜ぶであろう。


 そうすればリアは、ひっきりなしにパーティーに呼ばれたりして大忙しとなる。


 私は、勇ましく戦った騎士や冒険者を陰ながら癒していたと労を労われ、聖女の面目をつぶすこともないだろう。私は面倒事を全部リアに押し付けて羽を伸ばすことができる。


 リアはこれを機に素敵な男性との出会いがあるかもしれない。


 私とリア、両者に利があるではないか!


「……またそんな聖女らしからぬ笑みを浮かべて。どうせ、私とデュークさんにスケルトンドラゴンを倒してもらえれば自分は楽をできるとか思っているのでしょう?」


「そ、そんな事は思っていませんよ?」


 ジトッとした視線を向けてくるリアに動揺する。


 そんなにあくどい笑みをしていたのだろうか? いけないいけない。いつもの聖女の笑みを浮かべないと。相変わらず鋭い人だ。


「とにかく、魔法を使うのはダメですのでテントから離れましょう。いつでも戦場に駆けつけられるように私と一緒にあちらに行きましょう」


 私のとびっきりの笑顔を胡散臭そうな目つきで見て、私を小高い丘の方に引っ張るリア。


「ええー!」



 ◆  ◆   ◆



 リアに連れられて戦場を見渡せる小高い丘に来ると、そこでは大勢の人間とアンデッド族の魔物がひしめいていた。


 全体的に右側に整然と展開しているのは騎士団や神官達であろう。


 部隊ごとにそれぞれ隊列を組み、魔物に合わせて部隊をぶつけている。


 スケルトンが相手ならメイスを持った戦士が、強烈な酸を吐く膨張する肉≪アシッドパンク≫が相手なら盾を持った重騎士が相手といった風にだ。


 魔法部隊は整列して魔法を発射し、ここぞという場面で活用される。


 騎士達の戦いは非常に安定しており、見ているだけで安心感が持てる。


 一方、真ん中から主に左側を担当して乱戦を繰り広げているのは冒険者達。


 こちらは陣形などクソくらえ、自由に戦うのをモットーとしているせいか酷く入り乱れている。


 騎士の鼓舞とは違った、野性的な雄叫びが飛び交っている。


 何だか皆自由に戦っていて楽しそうだ。


 冒険者には陣形こそないが、パーティーを組んで協力し合って戦っているので大丈夫だろう。騎士団よりも勢いがあってとても頼もしい。


 ただ、彼らは常識などクソ食らえといった荒くれ者達なので何をしでかすかわからない。


「アリア、状況はどうですか?」


 隣に立つリアが銀髪をなびかせながら尋ねてくる。


「待って下さい。今確かめます」


 霧が漂っているせいかここからでも遠くの様子は肉眼で見ることができない。だが私には、オーラで存在を認識する事ができるので霧があろうと関係ないのだ。


 さすがに無機物の遮蔽物があると見えないのだが。


 私は改めて戦場を俯瞰する。


「……特に今のところスケルトンドラゴンは出現していないですね」


「……そうですか。部隊の者にも命じていますが、見つけたらすぐに教えてください。あと、その他にも脅威となる魔物がいましたら」


「わかっていますよ」


 ……はあ、本当に私も戦うのか。


 思わずにため息を吐きたくなるが、吐いてしまえばまたリアにお小言を貰ってしまうのでグッと堪える。


 黒々としたオーラを纏う、アンデッド族の魔物に注視しながら視線を右から左へ……。


「あっ!」


「スケルトンドラゴンですか?」


「デュークさんです!」


「よく、こんな戦場の中で彼を見つけられますね……」


 気を張って損をしたという風に肩の力を抜くリア。


「彼のオーラは特徴的なので見つけやすいんですよ」


 冒険者の一団からかなり離れた距離に、ポツリと灰色のオーラと水色のオーラが見える。


 あの灰色のオーラは間違いなくデュークだ。灰色のオーラなんてものをしている存在は彼しかいない。あの澄んだ水色のオーラはシスティだ。


 彼女もかなり鮮明なオーラをしていたので忘れるはずもない。


「……彼らはどうですか?」


 気になっていたのかリアが興味深そうに尋ねてくる。


 オーガキングを討伐したとは知っているものの、実際に戦闘を見たわけではない。デュラハンである彼と魔法使いの彼女がどんな戦い方をするのか、私も非常に興味がある。


「えーと、冒険者の一団からかなり離れていますね。それに大勢の魔物に囲まれていますね」


「……アンデッドを相手に二人だけで大丈夫なんでしょうか?」


 離れているというか。ハブられて孤立しているかのようにも見える。


 ……彼らは、大丈夫なんだろうか?


 心配になってより鮮明に見えるように意識してピントを合わせる。


「うわー、あの人スケルトンを素手で殴り飛ばしていますよ……」


 拳で肋骨を砕き、千切っては投げと好き放題に暴れ回っている。


 波のように押し寄せるスケルトン達を一人で相手取っているのだ。


 まさしく彼は暴風。彼の周りにいるスケルトンのオーラがドンドンと消失していく。


「素手とはまた豪快ですね」


 私の伝える状況を聞いて、リアが頬を引きつらせている。


 嘆きの平原にいるスケルトンは、多くの怨念や魔力を吸収した特別なスケルトンだ。そこらの墓や道端で出会うスケルトンとはわけが違う。屈強な冒険者であろうと、拳で潰すのは一苦労であろうに。


 それを彼はあたかも砂を潰すように楽々と……。


 さすがはデュラハンといったところだ。これならスケルトンドラゴンが相手でも十分に働いてくれそうだ。


 そんなデュークの野性味ある戦いぶりを見て、私は疑問を覚えた。


「それにしても不思議ですね……」


「何がです?」


「デュークさんの周りにいるアンデッドがどうも変で……。まったくデュークさんに攻撃を仕掛けていないのですよね」


「本当ですか?」


 肝心の彼もそうだ。無数のアンデッドに囲まれているのに、まるでここは自分の庭だと言わんばかりの様子だ。いや、確かにアンデッドのデュークにとってはあそこは庭なのかもしれないが、それにしても気を抜きすぎである。


 ほら、そんな風に棒立ちをしているとすぐ傍にまでスケルトンが……。


「あれ? スケルトンがデュークさんを襲わずに傍を通り抜けた!?」


 あり得ない状況に思わず私は驚愕の声を上げる。


 デュークの傍を通り抜けたスケルトンは、彼の後ろにいるシスティ目がけて進む。


 ターゲットにされているシスティが何かを叫び、デュークが慌ててスケルトンにラリアットをお見舞いする。


 どうなっているのだ?


 視線でリアに問いかけると、リアは少し考えて口を開く。


「アンデッドは生者のエネルギーに反応して襲いかかるので、同じアンデッドであるデュークさんを仲間とみなしているのでは?」


 確かに! デュークはデュラハンなので死者であり、同じアンデッドだ。


 ならば同族のアンデッドは彼を襲わないであろう。


 なんてズルい能力なのだ。


 それがあればスケルトンドラゴンだって……と考えたが、高位の魔物には知性があるので通じないであろう。


 それでも反則的な強さだが。


「確かにそうですね! もの凄い勢いでアンデッドがシスティさんの下に群がっていますから! ……きっと彼女を囮にして誘導しているのでしょう」


 なんて素敵な作戦なのでしょう。あれなら自分は動かずとも向こうからやられに来てくれる。少ない労力で効率的に討伐ができるではないか。


「……何というか酷いですね」


リアがムッとした表情で呟く。


 何だろう。私まで酷い人扱いされた気分だ。ここはコメントを控えておこう。


 それからも私はデュークとシスティを眺め続ける。


 うわー、あの人スケルトンジェネラルをゴミみたいに蹴り潰しているよ……。


 もうデュークがいれば何とかなるのではないだろうか?


 そんな気がしてきた。スケルトンドラゴンが出てきたら、存分に頼らせてもらおう。


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