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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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デューク無双

 

「うははは! こいつらとんだカモじゃないか!」


 アンデッドの大群が溢れる中、俺は大剣や拳を振り回してアンデッドを地に沈めていた。


 俺を同じ仲間のアンデッドだと認識しているせいで、魔物達は俺を一切攻撃してこない。ただただ黙って俺の餌食になっていくだけだ。楽勝すぎて笑いが止まらない。


 ただひたすらに歩いてくるアンデッドに攻撃をくわえるだけの簡単な作業だ。


「ちょっと! デュークは平気でも私は狙われるんですけど! というか、こんなか弱い女の子をアンデッドの大群の囮にするなんて酷くない!?」


 後方にいる餌役のシスティが叫ぶ。


 俺の後方にシスティを配置すれば、生者に引き寄せられて簡単にアンデッドが集まってくるのだ。これで俺が走り回ることなく効率良く狩ることができるだろ?


 こんな素敵な作戦にケチをつけるだなんてシスティは我儘だな。


「ちょっと、横! スケルトンが脇を抜けるって!」


 システィの切羽詰まった声が響く。


 さすがにスケルトン以外の多種多様なアンデッドに囲まれれば焦るだろう。


 得意の棒術でも、アンデッドの耐久力と数という名の暴力には屈する他ないだろう。


 そんな事を思いながら、脇を抜けようとするスケルトンへラリアットをかます。


 そのままスケルトンの首元に腕を引っかけたまま振り回し、別のスケルトンの一団へと吹き飛ばす。


 連鎖するように乾いた破砕音が響き、頭蓋骨、胸骨、尺骨と様々な部位の骨が飛び散る。


「やっぱりスケルトンは直接殴って倒すに限るな」


 そんな事を呟きながら足元を這いずるスケルトンを蹴り砕く。


 うおっ! 安物のプラスチックを足で割ったような感じだ。ちゃんとカルシウム摂っていたのか?


「しかし、この適度な柔らかさ。癖になるなあ……」


「いや、いくら防御力の低いスケルトンでもそんなすぐに割れないんだけれど。というかそれ、スケルトンジェネラルだし……」


 システィのどこか呆れたような声が聞こえる。


 こいつ、スケルトンジェネラルだったのか! 道理でスケルトンにしてはしつこいわけだ。


 念入りに砕いておこう。


 俺が足を踏み下ろしていくごとに、スケルトンジェネラルの骨が砕けて動かなくなる。


 何か足元にすがってきた人を容赦なく蹴りつける鬼畜みたいだ。


「……デュークってば鬼畜ね。同じアンデッドとして慈悲はないの?」


「慈悲をかけたらシスティの元へアンデッドが殺到するけど?」


「きちんと全部砕いておくのよ? 一体たりとも逃がしちゃダメだから」


 まるで、この大きなゴミはちゃんと砕いて小さくしてから捨てるのよ? とでもいう風にシスティが気軽に告げる。


 システィって結構容赦ない性格しているよな。


 いや、アンデッドの魔物に容赦なんかしちゃいけないのだけどね。やり過ぎなくらいが丁度いいらしい。相手は生命力の強い魔物だから。


 でも、俺には優しくしてほしいと思う。


 スケルトンジェネラルを砕き終わると、次はゾンビの集団がやってくる。


 ボロボロの服を纏い、足を引きずるようにしながら歩いてくる。


 皮は爛れ、目玉が飛び出し、腹からはピンク色のものを覗かせている個体までもいる。


 気持ち悪いからきちんとしまっておけよ! ゾンビでも身だしなみは整えてもらいたい。


 デュラハンの身体じゃなかったら絶対に吐いているから。


 俺がゾンビのグロさに辟易していると、後方からシスティの注文が入る。


「特にゾンビとか通したらダメだから!」


 どうしよう、ちょっと通してみたくなっちゃった。


 ゾンビ達も当然、俺を敵だと認識することなく呻き声を上げてシスティの方向へと向かっている。いや、あんまり虐めると拗ねてしまいそうだし止めておこう。


 人間の姿をした魔物を葬るのはかなりの抵抗感があるのだが、ここはグッと堪えて俺が始末しよう。


 俺は地面に突き刺した大剣を手に取って、ゾンビの一団へと突っ込む。


 アンデッドの俺を同族と認識しているために、いくら近付いてもゾンビ共は気にしない。


 そのまま俺は大剣を大きく振りかぶり、縦に一閃。


 見事に体が半分に別れた。俺は地に沈む二つのものを見ないように次のゾンビへと斬りかかる。


 一人、二人……。いや、こいつらはもう死んでしまって魔物になったんだ。人間として数えてはいけない。


 そう自分に思い込ませるようにして無心で俺は大剣を振り続ける。


「『ファイヤーボール』ッ!」


 そんなシスティの威勢の良い声が響き、俺の身体に火球が横っ腹に直撃する。


 ズシリという衝撃が伝わり、体勢が崩れそうになるが何とか堪える。


「……あっ、ごめん」


「…………援護をしてくれるのは嬉しいんだけど、どうしてもっと奥のゾンビを狙わないんだ!? ここは俺が潰しているんだから、もっと奥のゾンビを狙えよ!」


 俺が振り返りながら叫ぶと、システィが杖を握りしめながら叫び返す。


「もちろん狙ったわよ! でもファイヤーボールがそっちにいっちゃったのよ!」


 そんな言い訳をする魔法使いはお前だけだと思う。


 わざとじゃないというのが性質が悪いのだが。


 それにしても、この間よりもファイヤーボールの威力が上がっているような気がするな。


 日に日に威力が増しているような気がする。成長期とでもいう奴か? 年齢的にもシスティは身体だって成長しやすい年齢だし、魔力もそうなのであろうか?


 どうせなら威力よりもコントロールがついて欲しいのだが……。


「ちょっとデューク? どうしたのよ?」


 俺が考え込んでいて黙っていたせいか、システィが不安そうに声を上げる。


 俺の周りいるゾンビが三体脇を通り抜けていった。


「ちょ、ちょっと!?」


 こいつらって動き遅いし、システィの魔法の練習にちょうどいいんじゃないだろうか?


「よし、システィ! 魔法の練習な! こいつらをファイヤーボールで倒せ! 危なくなったら俺がまた遠くに蹴り飛ばしてやるから!」


「い、嫌ああああああああああ! せめてスケルトンにしてぇぇぇええええ!」


 システィのそんな絶叫が湿地に響き渡った。




 ◆



「うっ、うう……気持ち悪い。ゾンビが……ゾンビが目の前に何回もやってきて……内臓とか見えてるし……」


 杖を支えにして顔色を悪くしながら弱々しく呟くシスティ。


 その隣にはシスティのファイヤーボールによって黒焦げになったゾンビが三体転がっていた。


 あの後、システィに実戦形式のコントロール練習をさせたのだが、ちっとも当たらなかった。魔法が当たらなければゾンビはドンドンと迫って来る。となると、あのグロイものが視界一杯にまで大きくなり、ハグを求めてくるのだ。トラウマものでしかない。


 その度に俺が死なない程度に蹴っ飛ばして、システィに火球を撃たせていたのだが中々当たらなかったのだ。


 むしろゾンビには当たらないのに俺の方には火球が飛んでくる始末だった。


 何回も外すので罰ゲームとして次は蹴り飛ばしてやらないと宣言すると、涙目で火球を放ってようやく当たりだした。


 そんなこんなでシスティはグロテスクなゾンビに何回も襲われかけたのである。


「今日は眠れないわ。絶対夢に出る」


 システィが半泣きになりながら、ぼそりと呟く。


 うん、今日ほど眠れないことに感謝したことはない。


 今日寝たら絶対にアンデッドが夢に出るだろうな。



 ◆



 気が付けば、俺とシスティの周りには多くのゾンビとスケルトンの残骸が転がっていた。


「おい、デュークの所にいけば余裕なんじゃないか?」


 俺達の近くに転がる残骸を見たのか、離れた場所からドレイクの調子に良い声が聞こえる。


「バカお前、あそこには外道魔法使いがいるんだ。魔法に巻き込まれて死ぬぞ」


「そ、そうだな。忘れていたぜ。俺達はここで頑張るとしよう」


 現にさっきファイヤーボールを食らったしな。離れているのが一番いいと思う。懸命な判断だ。もっともそれで安全を保障することはできないが……。


 そんな事を思いながら、剣を振るうドレイクを眺めていると。


「デューク! またアンデッドがやってきたわ。スケルトンよ!」


 ゾンビじゃなかったことが嬉しいのか、システィの声に力が戻る。


 スケルトンなら見た目が気持ち悪くないしな。


 打撃と相性もいいので俺もスケルトンの方が嬉しい。


 通常のスケルトン以外にもスケルトンビースト、スケルトンウォリアーと様々なスケルトンが混ざっているが、特に注意する必要もない。


 システィに近付く前に俺が優先的に仲間の振りをして潰していくだけだな。


 少し気になると言えば、スケルトンドラゴンの姿見えないことだ。


 未だ湿地には霧がかかっており、遠くを見渡すことはできない。


 小高い丘にいる聖女なら可能かもしれないが、未だ目視されていないのだろう。


 スケルトンドラゴンは発見されたら情報が回ってくるだろうし問題ないか。


「さすがにこれだけの大群ならシスティの魔法も当たるだろう」


 俺が隣にいるシスティに言ってやると、システィがムッとした表情で言い返す。


「こんなに密集しているんだもの。さすがに外れないわ」


 信用できねえ。


 そんな俺の胡散臭い雰囲気を感じとったのか、システィが髪を揺らして必死に弁明する。


「さっきのは数が少なかったし、ちょっとゾンビを見て気分が悪くなって集中できなくなっただけなんだから!」


「魔法使いにとって集中は大事だけれど、魔物を前にしていたので集中できませんでした! ではねぇ?」


「むむむむむ、見てなさい! 今度はばっちり当ててみせるから!」


 サッとポニーテールを翻して前に出るシスティ。


 それから前方で蠢くスケルトンに狙いをつけるように杖を突き出す。


 余裕ぶって「こんなに密集しているんだもの。さすがに外れないわ」なんて言ったわりには随分と丁寧に杖を構えるんですね。


 それからシスティはスーッと大きく息を吸い。


「『ライトニング』ッ!』


 呪文を詠唱して勇ましく叫んだ。


 システィのその声と共に雷の光が杖に宿り、バチバチと甲高い音を立てる。


 そして杖から雷が解き放たれて、一条の矢とかしてスケルトンへと肉薄する。


「おお! これは命中コースか!?」


 驚愕と期待の交じった声を聞き、システィがしてやったりと鼻息を鳴らす。


 しかし、それはスケルトンの股関節の穴を綺麗に通り抜けた。ハート型になっている尾骨などがある骨の部分。そこにある穴にだ。


 そこを通り抜けた雷は、後ろにいるスケルトンの肋骨の下や、脇の下を綺麗にジグザグと駆け抜けて地面へとぶち当たった。


「…………おい、誰が通し芸を――」


「スケルトンって身体が細いから当てるのが難しいのよ!」


 俺がまくし立てて責める前に、システィがくわっと叫び声を上げてきた。


 この野郎、逆切れか。


「それならライトニングを使ったこと自体が間違いだろ!? もっと攻撃範囲の広いファイヤーボールとかにしろよ!」


 それでもあのスケルトンの一団を避けるとは……意味が分からない。


 もう曲芸の域だと思う。これだけでお金を取れるレベルだ。


「ううっ、わかってるわよ! ……うう、最近調子のいいライトニングなら当たると思ったのに……」


 カッと頬を染めながらシスティはぶつぶつとそんな事を呟く。


 アナグラをやっつけたライトニングもまぐれですから!


 ……ああ、早く聖女に宮廷魔法使いを紹介してもらわないとなあ。背中を預けられる仲間が欲しい。せめて撃ち抜かない仲間が……。


 しみじみとそんな事を思っていると、システィがファイヤーボールの詠唱を始めた。


 その間に目の前のスケルトンを倒すのは、もちろん前衛である俺の役目だ。


 俺を信頼しているのか、集中して周りが見えていないだけなのか。


 一際素早い、犬型の骨をしたスケルトンビーストが飛びかかってくるので手刀で薙ぎ払い、砕いてやる。犬みたいなサイズだと片手で掴んで簡単に潰す事ができるので、比較的に簡単だ。向こうは俺を敵として認識していないみたいだし。


 俺がスケルトンビーストを次々と砕いている間に、システィの詠唱が完了する。


 杖の先に炎が収束して火花を散らす。


「デューク! 下がって!」


 下がってもシスティの魔法はどこにでも飛んでくるので同じなのだが……。


 まあ、ここは合わせて下がっておく。


「『ファイヤーボール』ッ!」


 杖の先では燃え盛る火球が形成され、システィの杖から解き放たれる。


「……ええっ!? ちょっと! どこ行くの!?」


 しかし、それは一直線にスケルトンの集団へ向かう事なく、右側へと大きく飛び出していった。


 そしてその火球はというと、俺達から離れて剣を振るっているドレイクへとぶち当たった。


「うぎゃああああああああああああ!?」


「「ド、ドレイクぅぅぅ!?」」


 ドレイクがあっという間に火だるまとなり、地面を転がり回る。


 突如燃え上がったドレイクを見てパーティーの仲間が、近くにいた冒険者達が駆け寄りフォローをする。


「どこからだ!? どこからファイヤーボールが飛んできた!?」


「まさか近くに魔法を使うリッチがいやがるのか!?」


「リッチだって!?」


「それよりも火の消火だ! 誰か! 水魔法が使える魔法使いはいないか!?」


「回復魔法が使える魔法使いも頼む!」


「おい、リッチがいるみたいだぞ!」


「気をつけろ! ドレイクのように火だるまにされちまうぞ! リッチを探し出せ!」


 システィさんのファイヤーボール一つでとんでもない騒ぎである。


「…………おい」


「……どうしよう?」


 涙目でこちらを見上げてくるシスティ。


 久しぶりに俺以外の奴に当てて、どうすればいいか戸惑っているようだ。


「普通の人に当てたらああなるんだぞ? ここのスケルトン達は俺が片付けておくから、ドレイクを治療してやれ」


「わ、わかった!」


 杖を抱えてトコトコとドレイクの方へと駆けていくシスティ。


「さっさと片付けるか」


 システィの後姿を見届けて、俺は大剣を片手にスケルトンの群れへと飛び込んだ。




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