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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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今はきっとこれでいい

 

 素通りしたスケルトンを何とか倒し、落ち着いたところで俺はシスティに話しかける。


「……システィ、前々から思っていたことがあるんだが……」


「……何よ?」


 俺の生真面目な一言にシスティが少し荒い息を吐きながら見上げてくる。


「前衛の槍使いに転職しないか?」


「しないわよ!」


 俺の提案を即座に否定し、突っぱねるシスティ。


「何でだよ!? お前集まって来るスケルトンを見事な杖捌きで叩き潰していたじゃないか!? あれなら残念な魔法使いとしてじゃなく前衛で活躍できるぞ!」


 俺をスルーしてシスティへと襲いかかったスケルトン達。


 俺は慌ててシスティの元へと駆けつけたのだが、その間にシスティは自分の杖を使い慣れた槍のように構えてスケルトンの足下を薙ぎ払った。


 体重の軽いスケルトンはシスティの杖の足払いにより、たやすく地面へと背中を打ち付ける。


 システィはそこを逃さずに鋭い杖の一撃で肋骨や頭蓋骨を粉砕。あっという間にスケルトンを三体倒したのである。


 それからシスティは杖を器用にもスケルトンの骨と骨の間にねじ込み、振り回してバッタバッタとスケルトンを再起不能にしていった。


 俺が駆けつけた頃には二体しかスケルトンが残っていなかった。


 あれこそがシスティの本職じゃないかと思うんだ。あんな鋭いシスティの動きを俺は見た事がないぞ。


「さっきのやつはただの護身術よ。魔法使いとしての嗜みよ。それに槍と棒術は全くの別物だから。あと残念って言わないで!」


 あくまでさっきの棒術を魔法使いとしての副次的な技能だと言い張るシスティ。そんな棒術が達者な魔法使いがいてたまるか。


 他の冒険者のパーティーの魔法使いも短剣を扱っていたが、本当に申し訳ない程度であった。


 まあ、魔法以外はてんでダメな後衛職にとって、前衛の武器を護身術程度に扱えるというのは大事だと思う。前衛から魔物が抜けてきた時、奇襲された時に対処できる方法が多いのはいいことなのだから。


「それなら棒術を主軸として魔法を嗜みにしよう。そっちの方が絶対いいだろう?」


「いいわけないわよ! 私は魔法使いとして生きていくの! これは譲れない!」


 俺の提案を頑なに受け付けないシスティ。


 どういうわけかシスティにとって譲れない何かがあるらしい。それを聞いてみたいが何分今は戦場。そんな事をしている暇はないので後回しだ。


「それよりデュークの方よ! さっきのは一体どういうわけよ? どうしてスケルトン達はデュークを無視したの?」


「いや、俺にもわからないんだが……」


 ただ、スケルトン達が俺を無視してシスティの方へと近付いていたのは事実だ。


 あんな正面でスケルトンを倒していたのだ。死角にいたというわけでもない。


 どうしてだ? もしかして俺が人間じゃないから? アンデッドだからか……?


 ――アンデッドは生者を憎み、生のエネルギーに溢れる者へ襲いかかる。


 文献やシスティの言葉から聞いた特性が俺の脳裏をよぎる。


「……まさかデュークがアンデッドだから、生者じゃないから襲ってこないんじゃないかしら?」


 システィも俺と同じ仮定に辿りついたらしく、おずおずと言ってくる。


「……ちょっと実験してみるか」



 ◆



 結論から言うと俺達の予想は正しかった。


 俺は今、無数のアンデッドに囲まれています。


 左を見ればスケルトン。右を見れば腸を垂れ流しながら歩くゾンビ。後ろにはやたらと仰々しい鎧と剣を装備したスケルトンジェネラル。


 どこを見ても腐臭漂うゾンビや、カタカタと音をたてるスケルトンばかりだ。


 その群れの中で、俺はちょっと縮こまりながら歩いていく。


 特に俺を敵と認識することもなく、同じ仲間だからいても問題ないとばかりの様子だ。誰も気にしたりもしない。ただただ幽鬼のような足取りで生者がいるであろう場所へと進むのみ。


 確かに分類としては同じ仲間だけれど、俺の居場所がここだとは信じたくない。


 しかし、もし俺がデュラハンだとバレて、あらゆる国や村から追い出されてしまえば、このような場所で永遠にも近い時間を過ごすはめになるのであろう。


 俺はデュラハン。病気にかかることもないし、寿命も恐らくないだろう。討伐でもされない限りは無限に近い時を生きるであろう。


 こんな悲しいうめき声と腐臭が漂う寂しい場所で。ずっと、ずっと。


 誰も言葉を話してくれないし、笑いかけてもくれない。


 今まで当たり前のように過ごしてきた日々が一瞬にして消え去る。


 ……それは嫌だ。


 そんな俺が人間のように生活できているのは、システィが密かに支えてくれているお陰だ。


 こんなアンデッドの俺を受け入れて。正体を知る前と変わらずに接してくれる。


 そんなシスティの行動に俺がどれだけ救われ、不安が晴れたであろうか。


 …………気恥ずかしくて普段は言えていないが、たまには感謝の言葉を伝えてもいいかもしれない。


 柄でもなくそんな事を考えながら、俺はアンデッドの群れからひっそりと離れる。


 俺の居場所がこんな場所にならないよう最悪の未来を振り切るように。


 俺の過ごす日常へと、冒険者デュークへと。


「あっ!? ちょっとデュークそんな場所から出てきたら――」


 アンデッドの群れから離れると同時に、俺の兜へとファイヤーボールが直撃する。


 俺の胴体に装着していた兜が、爆炎によってアンデッドの群れの方へと飛んでいく。


 冒険者デュークは、魔物デュラハンへと早変わり。もし、ここらに多くの冒険者がいれば、とんでもない騒ぎになっていただろう。


「…………」


「…………あの、デュークさん? どうせ飾りなんだし大丈夫でしょ? アンデッドがちょっと増えてきたから助けてほしいんですけど……」


 システィはどうせ一人じゃ冒険者としてロクに生きていけない。俺もシスティが……信頼できる仲間がいなければまともに生きていけない。


 どうせ持ちつ持たれつつなのだ。


 俺が感謝の言葉を言うのは、まだ先でもいいと思う。


「あー、兜を拾いに行かないとなー。でも、アンデッドの大群の中に落っこちたから拾うのに時間がかかりそうだー」


「うわあああああああああ! 謝るから謝りますから! 早く戻ってきてええええ!!」




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