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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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開戦!

アンデッド戦開幕!

 

 俺達の視線の先で蠢く骨の姿をした魔物。スケルトンだ。


 俺達のように冒険者の格好をしたスケルトンや、騎士の鎧に身を包んだスケルトン、ローブに身を包んだ者など、多種多様なスケルトンが限られた視界の中を埋め尽くさんばかりにいる。


 人型のスケルトンの他にも動物型のスケルトンビーストや昆虫型のスケルトンイノセクト、ゾンビ、膨張するアシッドパンクなどのアンデッドが行進するように続く。


 ゆらゆらと身体を動かしながら生者である俺達へ近付くアンデッドの一団は、大きな波のようでもある。


「お、多いわね……」


 アンデッド特有の腐った匂いが漂ってきて、システィが顔をしかめながら呟く。


 大量発生したと聞いていたが思っていたよりもずっと数が多い。今、見える範囲でも軽く数百のアンデッドがいそうだ。


 霧の姿で見えない分も合わせたらもっといるであろう。さすがに千体はいないと思いたい。


「スケルトンの後ろにも大量のアンデッドがいるな」


 遠目にアンデッドを観察していると、前を歩くシスティが杖で小突いてきた。


「……どうデューク? お友達になれそうなアンデッドはいそうかしら?」


「いるわけねえだろ」


 同じアンデッドとして話せる魔物もいるかもしれないと、ちょっと淡い期待をしたりもしたが、あんなグロテスクな連中と仲良くなれる気がしない。


 知性も感じられないし、近付いた瞬間に襲いかかられそうだ。


「さすがにデュラハンはいないと思うけど、リッチとかならいるかもしれないわよ?」


 高位のアンデッドならば言葉を話したりでき、過去の情報では会話のできるリッチや敵対しないリッチがいたと聞く。


 リッチならば話をすることができ、デュラハンの事や首に繋がる情報を持っていたりするのかもしれない。


「ぱっと見た感じではリッチの姿もいないな。品性がないアンデッドばっかりだ」


 しかし、中途半端に知性があり悪意のあるリッチに出会った時は厄介であろう。リッチは高い魔力にものをいわせた凶悪な魔法を放つと言われている。


 多分、うちのシスティよりもよっぽど強いだろうな。コントロールもあるだろうし。


「アンデッドに品性もクソもないでしょうに」


 アンデッド達が魔法部隊の射程に入るまで、俺達は待ち続ける。


 アンデッド達が近付いてくるにつれて、無数のアンデッド達のうめき声が聞こえてくる。


 その擦れた声がいくつも重なりあう様は、まるで死者の奏でる歌のようであり聞いているだけで気分が悪くなってくる。


 俺達の周りにいる冒険者もアンデッドのうめき声や、グロテスクな見た目に顔色を悪くしていた。


 徐々に近づいてきたせいで肉眼ではっきりと視認できるようになったのであろう。


 皮がただれているもの、内臓が剥き出しになっているものは見ているだけで人々に恐怖と嫌悪感を与えてくる。


 目で見て、鼻で腐った肉の臭いを感じて、震えるような声で鼓膜を刺激して五感に語りかけられるのだ。


 デュラハンの姿となっていなかったら、確実に吐いている自信がある。日本で見たようなグロテスクなゲームなどとは比べ物にならないな。


 押し寄せるアンデッドを待つことしばらく。


「魔法部隊、構え!」


 先頭にいる軍馬に乗った騎士が威勢のいい声を上げる。


 一応今回の戦の取りまとめは聖女とリアになっているが、聖女は基本的に魔法使いなので後方の丘でこちらを俯瞰している。あそこからでも神聖魔法の浄化による援護はできるし、本命のスケルトンドラゴンまで温存というわけだ。重要さはわかってはいるが何かずるい。


 俺もあそこからのんびりと眺めていたいぞ。


 騎士の男の号令を聞いて、魔法部隊の魔法使い達が杖や長杖や手を斜め上へと掲げる。


 システィも遅れて杖を抱え出す。


 なぜだろう。アンデッドが近付いてくる時よりも背筋がヒヤリとする。


 アンデッドと俺達の距離は二百メートルくらいだろうか。


 押し寄せるアンデッド達の距離がやけに近くに感じられる。


「詠唱開始!」


 騎士の男のその声に、魔法使い達が次々と呪文を唱えていく。


 人間の男性の声が、エルフの女性の美しい声が、獣人とドワーフの低く猛々しい声がいくつも重なり合って旋律を奏でる。


 杖や手へと魔力が集まり、青い光、赤い光と様々な属性の色が灯っていき、湿地帯に鮮やかな光の花が咲いていく。


「私の出番ね! 見てなさいデューク! 私が景気よく魔法を放ってアンデッド達を殲滅してあげるから! 赤き炎よ 我が手に集いて――ひゃはっ!?」


 そんな中、システィがこちらを振り返ってから呪文を唱えだしたので、俺はそれを妨害するべく脇に手を入れた。


 すると、システィは短い悲鳴を上げて掲げていた杖を落とした。


 システィの杖へと集まっていた赤い光は、魔力の供給と呪文が断たれたせいで力無く消える。


「ちょっとデューク何するのよ! 今はデュークに構ってあげる暇はないのよ! 私達魔法使いの出番なんだから!」


 悲鳴を上げた気恥ずかしさを隠すように怒鳴っているが、顔や耳は真っ赤に染まっている。


「はいはい、システィは俺と一緒にここで見守っていような。本物の魔法使いさん達の邪魔になるから」


「私も魔法使いなんですけど! アンデッドを楽に倒すチャンスなのよ!」


 チャンスはピンチという言葉は誰が言った言葉であろうか。


 俺がピンチを防ぐ間に他の騎士や冒険者達は、襲いかかってくるはぐれアンデッドを倒していた。お互い大変だなあ。


「魔法発射!」


「ああっ!?」


 そんな事をしている間にも、魔法部隊の詠唱は完了して騎士の男からの号令がかかった。


 システィが慌てて落とした杖を拾うが、もう遅い。


 収束されていた魔力の光が弾けて、怒涛のような一斉射撃が発射される。


 多種多様な属性による攻撃魔法は、嘆きの平原に立ち込める霧を吹き飛ばして空を駆ける。


 火炎弾が、氷柱が、風の矢が、雷の槍が空高くへと舞い上がり、美しい軌跡を描く。


「……おお」


 あらゆる魔法が入り乱れて流星のように突き進む様はとても幻想的で、思わず感嘆の声が漏れてしまったほどだ。


 そしてその流星の降下を目で追いかけると、ドッというような低い音が一度鳴り、連鎖するように爆発が起きた。


 火炎弾が着弾したところに氷柱が刺さり、そこへ雷に槍が突き刺さる。


 轟音が湿地に次々と響き、アンデッドの大群が砲火の光に包まれた。


 ……これが本物の、この世界の魔法なのだろうな。


 アンデッド達が粉微塵に吹き飛んでいく光景を見ながら、俺はしみじみと思った。


 スケルトンの骨らしき白い欠片が俺の肩にコツンと当たる。爆発を受けてここまで吹き飛んできたようだ。


「……うう、私もファイヤーボール撃ちたかった」


 隣に立ちシスティがどこか羨ましそうに呟く。


 俺ももし魔法が使えたとしたら思いっきり魔法をぶっ放したいと思うだろうな。その気持ちは分からんでもないが、今は我慢しような。


 あとで、端っこの方で好きなだけ撃たせてやるから。


 やがて魔法部隊の一斉射撃が止む。俺達はアンデッドがいた爆心地を固唾を呑んで見守る。


 少しでもアンデッドの数が減っていてほしいと皆が思っているだろう。


 立ち込めた煙が薄れていくと共に冒険者や騎士から喜びの声が上がる。


 俺達の視界の先に埋め尽くされていたアンデッドの殆どが姿を消しており、スケルトンの骨の残骸やゾンビの腐った肉体が飛び散って更地になっていたからである。


 後方にはまだ数百のアンデッドが影を見せていたが、あれだけ数を減らせば嬉しくもなる。


 冒険者や騎士が歓声を上げて士気を高める。


 そして、その高揚が収まらぬうちに騎士の男が勇ましい号令をかけた。


「全員突撃!」


 軍馬に乗った騎士がそう叫びながら、騎兵を引き連れて突進していく。


「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」


 それに遅れまいと冒険者達と歩兵の騎士が、咆哮のような声を上げながら走り出す。


「ほら行くぞ!」


「わかってる!」


 俺達も大きな波に乗るように、というか後方の奴等に踏み倒されないように必死に足を動かした。


 割れんばかりの声が湿地に響き渡る。無数の水音が鳴り、泥が跳ねる。


 冒険者達は左側へ、騎士達は右側へと走り、後方からそれをサポートするように神官が付いてくる。俺達はこっちを担当するからお前達はそっちの担当な! ということだ。実にわかりやすくて動きやすいな。


 騎士達は陣形を組みながら戦うようだが、俺達は至って単純。走って斬るというものだ。


 何という脳筋プレイ。


 アンデッドと冒険者との間合いがあっという間になくなり、スケルトンと戦士タイプの冒険者が激突する。


 骨の砕けるような破砕音があちこちで響き、少数のくぐもったような悲鳴が上がった。


 圧倒的に破砕音が多かったので、最初の激突は冒険者が有利になっているようだ。


「よっしゃあ! システィ! 俺達も行くぞ!」


「ちょっと待ってデューク! 速すぎだから!」


 冒険者の集団から離れ過ぎないように少し距離を開ける。


 俺ってば完璧にパワープレイだから、あんまり他の冒険者が近くにいると邪魔だったりする。それにシスティの魔法がそっちに行く確率も少し減る。そっちはあまり期待していないが……。


 とにかく、囲まれて孤立しすぎないような適度な距離だ。


「突っ込むぞ!」


「私は魔法使いだから突っ込まないから! デュークの後ろにいるから!」


 システィのそんな声を聞きながら、俺の前方にひしめくスケルトンをターゲットに決める。


 二、四、六……数えるのも面倒になるくらいだ。恐らく数は十体前後だろう。


 三体だけが錆びた剣をだらりと持っているが、他は通常のスケルトンだ。


 俺の全身鎧にかすり傷一つ与えられる奴もいないだろう。ちょろいな。


 脳裏にどのように攻撃していくかイメージをしながら、背中にあるアダマンタイトの大剣を引き抜く。


 重厚な金属音を鳴らし、俺はその勢いを乗せたままにスケルトンへと斬りかかる。


 横薙ぎの一撃で三体のスケルトンの肋骨が砕けた。


 特に抵抗感もなく乾いたような破砕音が連続で鳴り響く。


 さすがは低位のスケルトン、防御力が超低いな。地に沈むスケルトン達を見ながら思う。


 先程の大群を見て、緊張感を持っていたせいか肩透かしを食らったような感じだ。


 これなら大剣を振るうよりも殴って砕いた方が速いな。スケルトンは打撃系の攻撃に弱いのだし。


 次に俺へと近付いてきた奴を殴ってみるか。


 大剣を地に突き刺して拳を構える俺。


 近付いてくるスケルトンを待っていた俺だが……。


 スケルトン達は俺の真横を素通りして、システィへと向かっていった。


「…………はあ!?」


 一体、二体、三体と俺に構う事なく素通りしていく。


 ……………………。


 …………どういうこと?


「ちょっとデューク!? なにボーっとているのよ。スケルトンにぶっすり刺され――ちょっと何でスケルトンをスルーしているのよ!?」


 俺が首を傾げている間に、システィの焦ったような声が飛んでくる。


「いや、俺はスルーしていないんだが」


「ちょっと! わらわらとスケルトンが私の所に集まって来ているんですけど!? デュークさん! とにかく今は助けてーー!」




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