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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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聖女との取引

 

「「首ですか?」」


 聖女とリアの間の抜けた声が室内に響き渡る。


 システィにはオーガ異常種討伐のあとに告げており既に知っているので、特に驚いた様子はない。


「首ならそこにあるじゃないですか?」


「いや、これは拾ったものを着けているだけで本来の首じゃないんだよ」


 指をさして驚く聖女に兜を取って見せる。


 しかし、聖女とリアは困惑した様子で顔を見合わせる。これが本物の首ではないと信じきれないのだろうか?


「システィなら何回も近くで見ているよな? ただの兜だろ?」


 俺が村で兜を受け取る時もいたし、宿屋で兜を磨いている時も好奇心旺盛に見ていたしな。


「私はそれがただの兜だと知っているから。わかっているから兜を押し付けないでよ」


「おい、何でそんな汚いものを押し付けられたような反応をするんだよ!? 毎日磨いているし、干してもいる。汗なんて出ない分お前の服よりも綺麗だからな!」


「ちょっとそれどういう事よ! 乙女に向かってそんな事言うなんて最低よ!」


 俺の言葉が怒りのポイントに入ってしまったのか、システィが猛り、杖で兜を叩き落としてきた。


 そのあんまりな扱いに俺の兜が抗議をするようにやかましい金属音を上げる。


「あー! お前何てことしやがる! 最近お前のライトニングやらを受けたり、放り投げられたりして傷みが激しいんだぞ! 仲間の防具なんだからもうちょっと丁寧に扱えよ」


「そんなのただのダミーでしょ? 適当に買い替えれば済むじゃない」


「よし、その杖をこっちに寄越せ。へし折ってやる。どうせいい杖を用意しようがお前の魔法は当たらないんだ。適当にそれらしい木の棒でも持ってろ」


「ひ、酷い! 杖を買えてからは魔法の調子がいいんだからね!?」 


 涙目になるシスティの腕から杖を奪ってやろうと手を伸ばす。が、システィは絶対に離すもんかと蹲るように抱え出す。


 何が魔法の調子がいいんだか。魔力効率は上がっているかもしれないが、肝心の命中率が悲惨ではないか。そもそも魔法使いが杖に頼りっきりなのがいけない。意識が高いなら杖の補助くらいなくとも余裕と胸を張ってもらいたいものである。


 俺がシスティの杖をせめて叩き落としてやろうとしていると、聖女とリアが壇上から降りて兜を観察していた。


「本当に偽物なのですか? 兜の隙間から覗くと、グロテスクなゾンビの顔があったりするんじゃあ……」


「わかりません。デュラハンを見るのは初めてですし、彼が本当にデュラハンだとは言えませんし」


「神聖魔法の聖属性は効くみたいですからアンデッド族なのは間違いありませんよ。ところでリア、その兜をひっくり返して下さいよ」


「嫌ですよ。中からドロッとしたものとか出てきそうです。アンデッド系の魔物にそういう奴がいましたよ」


「おい! 汚いものじゃないからな! ただの兜だから!」


 どうして俺の兜があのような誹りを受ける必要があるのだろうか。俺はそんなグロイ魔物じゃあないからな。


「ちょっとリアの聖槍で突いてみましょう」


「なるほど、もしアンデッドの首でしたらこの槍で突けばいいことですしね。恐らく容易く風穴を開けることができます」


 ちょっと本当にそういうの止めてくれない!?


 俺がそう思っている間にも、リアが手に持った聖槍で兜をひっくり返す。勿論、ただの兜なので聖槍の影響を受けたり、襲いかかって風穴を開けられることもない。


「「…………ただの兜ですね」」


 だからそうだって言ってるじゃん。


 腰を屈めて床に転がった兜を眺める聖女とリア。


「中に何かが詰まっている様子もありません。ただの兜のようですね」


 リアが俺の兜を槍でコツンと突きながら言う。


「ということはデュークさんの首は一体どこに?」


「だからそれを探しているんだっていっているだろ」



 ◆




「なるほど、冒険者として活動し、人々の生活に紛れながら首を探していると」


「そうだ」


 聖女へと大体の説明を終えた俺は大きく頷く。


 なお、兜はすでに装着されている。聖女とリアは最後まで触る事がなかった。


「嘘を言っているわけでもないですし、システィさんを脅しているわけでもないので安心しました」


 胸に手を当ててホッとしたような素振りを見せる聖女。


 デュラハンが人間の街にいる理由が、首を探しているとかいう間抜けな理由ですいませんね。


「……杖をへし折ってやるって暴力で脅されたけどね」


 こら、せっかく話がまとまってきたんだから余計な事を言うな。ややこしくなるだろうに。


「普段、魔法という名の暴力に曝されているからお相子だっつうの」


「……むむむ、勝手にデュークが当たっている時もあるのに」


 ちょっとシスティをとっちめてやりたいが今は我慢だ。あとで、あとでだ。


「それで? 俺達は見逃してくれるってことでいいんだよな?」


「ええ、人々に危害をくわえないことと、正体が人々にバレなければですが。通報されてしまえば我々神殿の勢力は、デュークさんを討伐しなければなりませんので」


 そりゃ、そうだ。救済と正義を司るエリアル神殿が、魔物を討伐できませんでは話にならない。


 エリアル神殿はアンデッド退治で、人々から頼りにされている。


 それはここにある大きな神殿を見れば、人々の厚い信仰心というのが一目でわかる。


 俺の正体が魔物だとバレれば、即座にあの二人が派遣されるであろう。


 そんな神殿が、二人がリスクを冒してまで、何故アンデッドをかくまうのだろうか?


「その代わり、デュークさんにはやってもらいたい事があります」


 やっぱりそうきたか。まあ、見逃してもらっている手前、受けないわけにはいけないしな。内容にもよりけりだが。


「やってもらいたい事とは?」


「たまにでいいので、私が依頼するクエストをやってもらいたいのです」


 聖女のその言葉に、俺とシスティが顔を見合わせる。


「クエスト? そんなの普通に冒険者ギルドに依頼すればいいじゃないか」


「お二人は先日、あのオーガの異常種を二人で討伐してしまうほどの腕前の持ち主です。お二人の腕を買って、お抱えにしたいと思うのも当然だと思います」


 確かに、あの件から俺とシスティにはちょくちょくと貴族からそういうお誘いを持ちかけられることがある。


 しかし、俺はデュラハンだし受けられるはずがないしな。この世界で首を探すこともままならない。


 システィもシスティで自由な冒険者生活がいいのか突っぱねている。まあ、システィの場合は俺がセットでいなければやっていけないと思うが。


「それに、中にはデュークさんでなければこなせないクエストもありますので」


 聖女の青い瞳が僅かに細まる。


 そういう事を考えたりしないでもない。俺のデュラハンとしての身体と能力があれば大抵の危険地帯は何とかなるしな。


 毒の沼、疫病地帯、有毒ガス、寒冷地、火山などなど。そういった危険が待ち受ける場所もスルーだ。さすがに溶岩とか川があると無理だと思うが。


「デュークさんの戦闘を補佐するためにもシスティさんの魔法の力が。人間として暮らすためにも人間としてのシスティさんのお力が必要なのです」


「え? 私の魔法の力が必要だなんて」


 システィさんの魔法の力が、と言われて嬉しそうに口元をにやけさせるシスティ。


「おい、こんな簡単なおべっかにのせられるなよ」


「もし、この条件を引き受けて下されば、デュークさんの為に私が首の情報を集めてお教えしますよ」


「本当かよ! 引き受けます!」


 大陸中にあるエリアル神殿の支部の力を使えば情報なんてあっという間に集まるじゃないか。なんせ俺はアンデッド。アンデッドの情報を見逃す神殿勢力ではないだろう。


 俺の正体も黙っていてくれるし、首の情報も集めてくれるというのだ。決して悪いことではないと思う。むしろ、受けるべきだろう。


 半ば強制的な取引に少し辟易していたのだが、これなら前向きに取り組むことができるな。


 しかし、俺はいいとして、システィにはあまり利がないのが気になる。


 そんなシスティを窺うような俺に気付いたのか、聖女が口を開く。


「もちろん私からのクエストには報酬が出ますよ。それにシスティさん。最近では魔法のコントロールにお悩みとのことですが、よければ友人の宮廷魔法使いをお呼びしましょうか? 何かアドバイスをくれるかもしれません」


「本当か!?」


 借金と魔法のコントロール。二重の悩みを持つシスティは即座に嬉しそうな声を上げた。青いポニーテールが元気よく揺れる。


 その件については俺も嬉しい。その宮廷魔法使いがコーチしてくれれば、あの無残なコントロールも解消されるかもしれない。地味に魔力だけは無駄に多いシスティなのだ。コントロール力さえつけば立派な魔法使いになれるだろう。


 これで、これで後ろから背中を撃たれる日々はなくなるのであろうな。


「ええ、構いませんよ。彼女もきっと暇でしょうから」


「ありがとうございます! 喜んで引き受けさせて頂きます」


 にっこりと笑う聖女に深く頭を下げるシスティ。


「しかし、そこまでしてくれるとなると聖女様のクエストとやらが怖いな」


「はい、早速ですがお二人には頑張って頂きますよ。特にデュークさんには」


 聖女の微笑が嫌に怖い。何というか優しい笑みの中に、意地悪っぽいものが含まれている気がする。一体、俺ってば何をやらされるのだろうか。


 嫌な予感がヒシヒシとする。


「お二人には嘆きの平原にてスケルトンドラゴンの討伐を手伝ってもらいます」


「「スケルトンドラゴン!?」」


 俺とシスティが素っ頓狂な声を上げる。


 俺達、とんでもない取引をしてしまったのかもしれない。


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[気になる点] 杖を『買えて』からが誤字です
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