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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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やっぱりシスティの魔法はおかしい

 

「あああああ!? 私のマッコリキノコ! 返して!」


『ギョ?』


 システィが手を伸ばしてマッコリキノコを取り返そうとするが、相手は即座に穴に潜ることでそれを回避。


 そしてモグラもどきは奥の穴から再び顔を出した。


 というか、あんな凶悪な爪に挟まっているのによく手を伸ばしたな。


『ギョギョ?』


 小首を傾げながら、マッコリキノコを掲げるモグラもどき。


 まるで『これを返して欲しいの?』とでも言っているかのようだ。


「私のマッコリキノコ返しなさい!」


 大事なケープに付いた砂を払いもせずに、システィがモグラ叩きのように杖を振り下ろす。


 そんな攻撃は勿論空を斬り、モグラもどきは再び別の穴へと移動した。


 システィはさらにそれを追いかけて杖を振り回す。しかし、周辺にある穴に潜って移動するモグラもどきを捉えることはできず、システィが肩で息をするようになった。


『ギョッギョギョッギョ!』


 システィという玩具を見つけて、楽しそうな声を上げるモグラもどき。


 完璧に遊ばれているな。


 システィも遊ばれていることに気付いたのか、拳を握りしめて怒りを露わにする。


 その反応は益々相手を喜ばせるだけだと思うのだが。


「ちょっと、デュークも手伝って!」


 柳眉を逆立てて言ってくるシスティ。後頭部に結われたポニーテールが、システィの怒りを示すかのように波打っている。


 嫌だと言ったら拗ねそうだし、放っておいたら帰るのが遅くなりそうだ。


「わかったけど、こいつは魔物なのか?」


「あれはアナグラっていう魔物で、最近王都の周りで穴を掘りまくっている奴よ。道を歩く馬や人々が、穴のせいで足を挫いたりして非常に迷惑になっているから討伐クエストにも貼り出されているわ。倒したら十万キュルツはくれるわよ!」


 何と地味に迷惑な事をする魔物だ。


 それ故に、一匹で十万という多めの金額になっているのだろう。


 ちなみに戦闘力はそれほどないのだが、穴に潜って素早く移動するせいか討伐することが難しいらしい。


 それに加えて、人々にちょっかいをかけるのが大好きなので、冒険者に嫌われている魔物なのだとか。


 しかし、どうやって仕留めるか……。


 視界には十や二十を超える穴がたくさんあり、二人でモグラ叩きのような事をしても難しそうだ。


 試しに小突いてみるか。


 アナグラへと大剣を振りかぶってみると、相手は即座に潜り俺の左斜め後ろの穴へと移動する。


 そこにすかさずシスティが反応して杖を振り下ろすが、またしても避けられシスティの右側へ。


「くらえ!」


 俺は振り返ってそこにすかさず土を蹴り上げた。


『ギョギョ!?』


 これは予想していなかったらしく、アナグラが土を被り驚きの声を上げてマッコリキノコを手から落とした。


 咄嗟の反応だったが、我ながらナイス判断だと思う。


「キノコ!」


 落としたマッコリキノコをシスティが回収しようと手を伸ばすが、アナグラは何とかキノコを回収して穴へと潜った。


「きいー! あとちょっとだったのに! もう一回二人で追い詰めるわよ!」


 地団駄を踏んで悔しがるシスティ。


 同じ手がもう一度通用するといいが。


 そんな事を思いながら周囲を見渡していると、奥にある穴からひょっこりとアナグラが顔を出した。


『ギョッギョッギョッ!』


 大きな両腕を地面に叩きつけて叫び出すアナグラ。どうやら土をかけられて怒っているらしい。


「何よあいつ、土の下で生活している癖に土をかけられて怒ったわけ?」


『ギョギョー!』


 システィに何やら馬鹿にされたことを理解したらしく、アナグラが猛る。


 ほんの少し前まではシスティが馬鹿にされていたのだがな。


「悔しかったらこっちに来てみなさいよ。臆病者!」


 システィのあからさまな挑発を聞いて身を震わせるアナグラ。


 今にも襲いかかってきそうな雰囲気だが、


『ギョ?』


 何かを思いついたのか、アナグラは穴へと身を潜らせた。


「さー、いらっしゃい。穴から出てきた瞬間、私の杖の餌食にしてやるわ」


 杖をパンパンと手で打ち鳴らし、今か今かと待ち構えるシスティ。まるでそこらにいるごろつきのような感じである。


 近付いてきたアナグラの脳天をかち割ってやらんと構えているシスティだったが、アナグラは先程と同じ穴から姿を現した。マッコリキノコを持って。


 それからアナグラはマッコリキノコを見ては、チラチラと視線を送ってくる。


 ……これは、まさか。


「……ちょっと、何を考えているのよ。やめなさい。それは私の今日の晩御飯であって、とても楽しみに――ああああああああああああああ!?」


 システィの言葉など知った事ないとばかりに、アナグラはマッコリキノコを口へと放り込んだ。


 システィが信じられないというような顔をして悲痛な声を上げる。


 俺の正体がデュラハンだと聞いた時よりも、ショックを受けているような感じがする。


「三万キュルツもするマッコリキノコを一口で……。高級品なのに……」


『ギョッギョッギョッギョー!』


 悲嘆にくれるシスティをバカにするように笑うアナグラ。


 システィの最も嫌がるであろう事をしたアナグラの勝ちだな。マッコリキノコを人質にとられているのに挑発するからこうなったのであろう。


「…………」


「おい、システィ?」


 反応を示さないシスティに声をかけると、ポツリと。


「……さない」


「何だっって?」


「許さないわ! 私のマッコリキノコを食べた罪は重いわ! 絶対にあのアナグラを討伐するわよ! それにアナグラの討伐報酬は十万キュルツ! 報酬を貰えばお店でマッコリキノコが食べられるわ!」


 システィはそう声高に告げると、杖を手にしてアナグラへと躍りかかった。


 自分で収穫した達成感はなくなるが、案外良い考えだと思う。


 システィはあちこちに陥没した地面に足をとられることなく、アナグラへと肉薄する。


 そしてシスティの手から繰り出される杖の薙ぎ払い。


 しかし、それは虚しく空を切った。それでも次に現れた場所へと突きを放つ。


 こうして眺めてみると、システィの棒術は結構様になっている気がする。前に棒術や短刀を嗜んでいると聞いたが上手いものだ。


 魔法使いから槍使いへの転職をオススメしたい。


 自慢の杖を達者に振るうシスティだが、やはり地中を移動するアナグラ相手では空振るばかり。


 アナグラはシスティの杖の範囲外へと楽々逃れる。


「それなら、これはどうよ!」


 それを確認したシスティは瞬時に杖をアナグラへと向けて。


「『ファイヤーボール』ッ!」


 威勢のいい声が響き渡り、システィの杖が赤熱し火球が吐き出される。


『ギョ!?』


 それはアナグラへと一直線に向かうことなく、大きく右側へと逸れて地面に着弾。火花を散らし、激しく砂を巻き上げる。


『…………』


「…………」


「…………相変わらず、すばしっこい魔物ね」


「いや、アナグラは移動なんてしてないからな?」


 しれっとそんな事を言うシスティに突っ込む。


 奴は穴一つ移動していない。


「ちょ、ちょっと外れちゃっただけよ! 次は当てるから!」


 そんな信用のならない言葉を言いつつ、杖を構え直すシスティ。


 杖を向けられたアナグラは、先程のファイヤーボールを思い出したのか警戒するように穴へと潜り込んだ。


「あっ! ちょっと地面に逃げるなんて卑怯よ! 大人しく顔を出しなさい! こんがりと焼いてあげるから!」


 システィが潜り込んだ穴へと近付きそんな事を言う。


 しかし、アナグラは姿を現すことなく、『ギョッギョギョ―』とバカにしたような言葉を返す。


 どうやらアナグラは籠城してやり過ごすつもりらしい。


 まあ、地面の中が己の得意のフィールドで最も安全なのだ。無暗に顔を出す意味はないからな。


 しかし、それではシスティの腹が収まることもなく、しきりに穴に向けて怒声を浴びせていた。


 どうやら諦めるつもりはないらしい。食べ物の恨みは恐ろしいというのがよくわかる。恐ろしい執念だ。


 今度、俺の奢りで美味い店にでも連れていってやろうかな。


「それにしても、一体どこまで穴を掘っているのやら」


 穴のサイズは小さいが深さは結構なものだ。きっと蟻の巣のように複雑に入り乱れているのだろうな。


 身近にある穴を覗き込みながらそんな事を想像していると、


「『ファイヤーボール』ッ!」


 何と、システィが穴に向けてファイヤーボールを放ちやがった。


 いやいや、さすがに真っすぐに伸びているわけでもないのに、途中で爆発するのがオチであろう。運が良ければ当たるかもしれないし、爆風で驚かすことくらいはできるな。


 まあ、すぐに壁にぶち当たり自分が爆炎を受ける可能性もあるのだが……。


「……うん? 穴から光が?」


 不意に穴から光を感じたので覗き込んでみる。


 すると、俺の視界が赤色に染め上げられた。


「どわあああああっ!?」


 穴から出てきた火球は、俺の兜へと直撃して爆炎を上げる。


 頭の上で爆発音が鳴り、俺の兜が勢いよく飛んでいく。


 それはシスティの下へと向かい、それを奴は。


「ッ! 出て来たわねアナグラ! 食らいなさい! ってぎゃあああああ!? デュークの首!」


 虫でも飛んできたかのように驚き、杖で兜を叩きつけた。


「おい! 兜は俺の身体と違って脆いんだぞ!? 叩くな!」


 文句を言いつつ、転がった兜を拾い上げる。


 あーあ、煤とか付いちゃって。……へこんではいないな。


 意外とこの兜も丈夫なものだ。


 しかし、今回のようなことが続けばいつかは兜が壊れてしまう。今のうちに予備の面頬付き兜を買っておくべきだろうな。


「……それにしても、また通し芸かよ」


「ちょっと、人の魔法を芸みたいに言わないでくれる!?」


 無数に入り乱れ、曲がりくねった穴に火球を打ち込み、別の穴まで飛ばす。


 これが芸と言わず何と言うのだ。第一システィはアナグラじゃないのだから、穴の構造まで知っているわけがないだろう。一体どんなコントロールをしているんだ?


 普通は壁にぶつかるだろう。


「『ファイヤーボール』ッ!」


「ちょ、お前!」


 システィの奇怪な魔法について考えていると、また一発杖から火球が放たれた。


 そして俺の後方から立ち昇る火球。


 俺のマントを揺らめかせた火球は、五メートルほどの高さで爆発した。


 せめて俺が避難してから放って欲しい。システィが魔法を放てば、ここにある穴は魔法を噴き出す危険な穴へと変わるのだから。


 立ち昇る火球を確認したシスティは「……ふむ」と唸り、ぶつぶつと呪文を詠唱し出した。


 俺は動く事すらままならない。


「こっちならどうかしら……『ライトニング』ッ!」


 システィの杖から放たれた紫電が、穴へと吸い込まれていく。


『ギョッ!?』


 ライトニングがアナグラの近くを通ったのか、ただ単に雷に驚いたのか、地中の穴から驚きの声が聞こえた。


 それから地面の中から、ズリズリとアナグラが移動しているであろう音が聞こえた。


「こっちよ!」


 残念ながらいくつもの穴があるために、音でアナグラの位置を特定することはできないのだが、システィには何かわかったらしい。


 反対側で立ち昇るライトニングをよそに、システィは右側にある穴へと走り出す。


「空へと昇るライトニングなんて初めて見たんだが。というかライトニングって直線にしか進めない魔法なんじゃなかったっけ?」


「ここよ! 『ライトニング』ッ!」


 システィの杖から放たれた雷が穴の中へと吸い込まれ、バチバチと音を立てる。


『ギョギョー!?』


 そして、穴の中で雷を食らったのかアナグラが黒焦げになり、反対側の穴から飛び跳ねるようにして地上へと飛び出してきた。


「十万キュルツ頂きよ! これでマッコリキノコが食べられるわ!」


やはりシスティの魔法は色々とおかしい。




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