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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
4/63

ワイバーン撃退

紫炎へと修正いたしました。

 

「ゴアアアアアアアアァァッ!」


 後方でワイバーンが唸り声を上げる。


 今にもすぐ後ろに咢が迫ってきて丸呑みをしそうな勢いだ。


 火を吹いてきたりしないだろうか、などと怯えながら俺は紫炎の背中に乗り、森の中を疾走させていた。


 とにかく重心をぶらさないようにして、強張る身体の力を抜いて、紫炎の好きなように走らせる。


 走る度にうねるような衝撃が伝わってきてバランスを崩しそうになるが、何とか堪える。


 それでも身体の力を力ませない。


 テレビか何かで、乗っている人が力んだりしたら馬の動きを阻害させたりしてしまうと聞いた。なので、俺はできるだけバランスよく自然体で座るようにしていた。


 紫炎は俺の言葉も理解できる賢い馬なので、細かい事は全部任せると言ってある。


 当然森の中は全てが平坦な道というわけではない。


 這うような樹木、ぬかるんだ泥、足を取られそうなほど長い植物、斜面、それらをものともせずに、紫炎は土を飛び散らせながら駆けていく。


「……それにしてもアイツしつこいな」


 ワイバーンの身体ゆえに、樹木らが邪魔なせいであちらも思うように突撃できないようだ。


「ガアアアアアアアアァァッ!」


 それでこうして蛇のように身をくねらせ、器用に翼を畳んで接近してくるのが怖いところだ。こちらが斜面にさしかかったタイミングで仕掛けてくるところがいやらしい。


 この世界の魔物は結構賢いな。いや、俺が偶然そんな奴等とばかり出会ってるだけか?


 ところがうちの紫炎は普通の馬とは違う。


 こっちだって魔物なのだ。斜面にさしかかっていようと、俺が乗っていようとワイバーンを引き離さんと全力で走り続ける。


 こちとら疲れを知らないアンデッドなのだ。紫炎は全力疾走であろうとずっと走り続ける事ができる。持久力勝負に持ち込めば、ワイバーンが根負けするであろう。


「ふっふっふふ、ブレスでも吐かない限りお前は俺達に触れることすらできんよ」


「ヒヒン!」


 俺の呟きに同意するように、紫炎が短くいななく。


 どことなくワイバーンを馬鹿にしている雰囲気が漂っていた。


 様子見で後方を確認すれば、ワイバーンが樹木を避けつつ低空飛行をし、大きく口を開けた。


 そして喉の奥が赤く発光し、火炎のブレスを吐き出した。


「どわあっ! 本当にブレス吐き出してきたぞ!?」


 紫炎の背中をパンパンと急かすように叩く。


「ヒヒン!?」


 紫炎も心なしか「マジで!?」というような鳴き声を上げた。


 何百度、何千度という火炎が背後で広がる。


 炎に呑まれた樹木やたまたま通りがかった魔物があっという間に炎に包まれる。


 アンデッドだから炎に弱いんじゃないか!? やべえ!


 と焦った瞬間に、高熱の爆風が俺の背中を撫でた。


「あ、熱ぅ!?」


 反射的に熱を感じた背中を、叩くように両腕をバタバタさせる。


 気付けば俺の赤いマントが燃えていたので、マントを叩いて火を消す。


 触ってみる限り、背中が溶解していたりする感じはなさそうだ。


 俺の鎧は形を変形させることなく保たれている。赤いマントは少し黒く焦げたが……。


 さっきのブレスは熱いけど我慢できなくはないくらいだ。それでも反射的に熱いって思うくらいは熱い。俺はマゾではないので、できれば食らいたくはない。


 アンデッドの中でも防御力が特別高く、鎧を装備しているお陰だろうか。


「ヒヒ! ヒヒイイイイン!」


 何て思っていると紫炎から焦ったような鳴き声が聞こえた。


「どうした!?」


 俺が問いかけると、紫炎が不自然に後ろ脚を持ち上げた。


 後ろを見ると、紫炎の赤い尻尾に火がついていた。


 俺は座る位置を少し後ろにずらしつつ、振り落とされないように気を付けて、尻尾についた火を手では叩いて消してやる。


「消えたぞ!」


「ヒヒン!」


 紫炎自身も消えた事がわかったのか、ありがとうと言うように短くいななく。


 それにしてもあのクソワイバーンめ。


 今までブレスを使ってくる気配がなかったし、ドラゴンより劣化種なので火炎のブレスなんて使えないんだと思っていたぞ。


 今までずっと使わずに、火炎のブレスという切り札を伏せておくだなんて賢しい奴だ。


 だがお前は俺達の挑発に乗ってまんまと切り札を見せたわけだ。


 所詮はドラゴンの劣化種よ。はははは。


「ああああああっ! ちょっと熱いって!」


 ちくしょう、もう一発ブレスを吐いてきやがった。ワイバーンの癖に生意気だぞ。


 しかし、ワイバーンだって生き物。無限にブレスを吐けるわけではないだろう。


 見る限り、あれは結構なエネルギーを消費するはずだ。アンデッドでもあるまいし、そうに決まっている。


 一体あと何発ブレスが撃てるのかは知らんが、急な斜面、アクシデントで接近されてブレスを食らったら俺でもたまらんぞ。


 持久力勝負なら最終的には勝てると思うがリスクもあるな。


 何かこちらからも遠距離攻できる術があるといいのだが、こちとらデュラハンとコシュタ・バワーである紫炎。そんな術はない。


 何かないかと周りを観察してみるも、全力疾走中なので凄い勢いで景色が流れていくのだ。


 見つける事すら困難だし、何かあってもワイバーンが後ろから迫ってきているので止まることもできない。


 何かいいものでもないかと思っていると、下から紫炎の声が聞こえる。


「ヒヒン!」


 これは何か警告をする時の声だ。


 視線を前にやると、ちょうど横に突き出した太い枝が見える。


 このまま進めば綺麗に俺にぶち当たり、馬上から転げ落ちることになるだろう。


 俺はそう判断して姿勢を低く……しようとしたがやめた。


「ヒヒン?」


「少し速度を下げてこのまま走ってくれ」


 紫炎が怪訝そうな鳴き声を上げるが、速度を下げつつそのまま走るようにと指示を出す。


 そして腹のあたりにやってきた太い枝に対して、右腕を大きく上げて、


「せいっ!」


 手刀を下ろした。


 大きな石をも軽く割断するパワーが横枝に伝わり、乾いた音を立てて割れる。


 それを俺はすぐさまキャッチ。


 いい感じに尖った太い枝だ。


「ゴアアアアアアアアァァッ!」


 後方ではワイバーンが猛スピードでこちらへと接近してきた。


 俺達が速度を落とした事から、疲れた、もしくは弱っていると判断したのだろう。


 小さな樹木が身体や翼に当たろうが、気にせずにへし折って進んでくる。


 ここで仕留めると言わんばかりの気迫だ。奴の体力的にも限界なのだろう。


「このまま速度を落としつつ疾走!」


 速度を上げようとする紫炎に、そのまま速度を維持するように指示。


 開いていた俺達とワイバーンの距離がみるみる縮まっていく。


 あの位置からワイバーンがブレスを吐けば呑み込まれてしまうであろう。


 しかし、ワイバーンの疲労具合からその様子はなさそうだ。


 もしかしたら、まだブレスを吐く事ができるのかもしれないが、射程が短いのかもしれない。


 どちらにせよその距離まで近づかせることが俺の狙いなので問題ない。


「ゴアアアアァァッ!」


 身をくねらせ、翼を勢いよくはためかせたワイバーンが大きく咢を開けて迫っていた。


 全てを押しつぶすような凶悪な牙が怪しく光る。


 ワイバーンの生々しい口内が見えて気持ち悪い。


 爬虫類にしては醜悪な顔と、猛禽類のようにぎょろりとした黄色い瞳が大きく見える。


 焦らずに口内を観察するが赤く光ることはない。


 どうやらこの牙で俺達を仕留めることに決めたようだ。


 俺は太い枝を槍投げのように構えて、接近してくるワイバーンの口内へと思いっきり投げ込んだ。


 デュラハンのパワーによって打ち出された木の槍が、猛スピードで空気を切り裂きワイバーンの喉へと突き刺さる。


「ガギャアアアアアアアアァァッ!?」


 ワイバーンは悲痛な叫び声を上げて、たまらないというように身体をくねらせて樹木をバキバキとへし折りながら横道の方へと倒れ込んだ。


「よし! 今だ紫炎! 全力疾走!」


「ヒヒイィン!」


 俺と紫炎は一気に速度を上げて、森の中を駆けて行った。



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