聖女に絡まれる
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次、爆発ポーションで遊んだら、爆発ポーションを売りませんよ!? と、お姉さんに叱られながらも爆発ポーションを買った俺。
面白かったのに非常に残念だ。システィにもやってみたかった。
いや、システィなら意外に冷たくスルーするかもしれないな。基本的には落ち着いているから。
「……で、お前はいつまでいるんだよ?」
魔道具屋から出て、広場のベンチに座った俺の隣には、堂々と銀髪少女が居座っていた。
「デュークさんがきちんと私の話を聞いてくれるまでです。神殿の聖女として魔物らしき者を放置してはおけません」
きりっとした表情で聖女だと宣う少女。
このまま放置しておくと毎日絡んでくるのだろうか?
「俺は人間だっつうの。というかどうやって俺を見つけたんだよ。昨日のカフェの前を通らないようにして来たんだが?」
一体どこで俺が魔道具屋に向かっているとわかったのか不思議でならない。
この少女は俺よりも先に北区画の広場についていた。
ということは宿屋から尾行されていたとか? それとも冒険者仲間と話し込んでいる時か……?
「私は聖女ですよ? エリアル神殿の最上階から見渡せば簡単に見つけることができます。一人だけ濁ったオーラをしているので、私にはデュークさんの位置がハッキリとわかりましたよ!」
胸を張って得意げな笑みを浮かべる少女。
俺はベンチから見える神殿を眺める。
白亜の塔を思わせる神殿は王城の次に高い建物だ。当然その最上階にもなれば王都の建物や大通りなんてまる見えなわけで……。
もし、その通りだとしたら、王都にいるかぎりどこにいても俺の位置がバレるな。
プライバシーもへったくれもないじゃないか。
それにしても面倒くさい奴に目をつけられた。
どうにかならないだろうか? この少女ってば俺の事を魔物だと完璧に疑っているんだけれど。いや、合っているんだけれどね?
見極めた理由がオーラだとかふざけた理由なのだが……正解なのが悔しい。
ファンタジーなこの世界ならあり得るのだけれど、本当にこいつは聖女なのか? 本当にオーラって見えるの?
「不安になっていますね? オーラでわかりますよ」
ニマニマと笑う少女の顔が腹立たしい。この間広場で見た聖女とは似ても似つかないな。
やはり偽物に決まってる。聖女がこんな黒い笑みを浮かべるか。
「聖女だか何だか知らんが俺には関係ないから帰るぞ?」
「待って下さい。話を聞いてくれないのならこっちだって考えがありますよ?」
ベンチから立ち上がる俺の左腕を少女が掴んだ。
「考えってなんだよ?」
チラリと一瞥をくれると、聖女が再びニマニマとした笑顔を浮かべた。
……嫌な予感がする。
そんな事を思った瞬間、ゾワリとした感覚が身体に走り、少女の手が発光しだした。
「ッ!? 熱っつう!?」
光が俺の左腕に当たると同時に、感じた事のない灼熱感に襲われた。
デュラハンさんの自慢の防御力はどこにいったのだと叫びたい。
「何するんだよ!」
灼熱感から逃れるように少女の手を振りほどいた俺は、左手を押さえながら叫んだ。
「デュークさん。私の神聖な魔力を受けてダメージを負っていますね? オーラからして予想はしていましたが闇属性の魔物ですね?」
こいつ、いきなり魔力を放ってきやがったな。
めちゃくちゃ左腕が痛かったのは、アンデッドの弱点である神聖な魔力を当てられたからか。道理で痛かったわけだよ。
というか考えってこれか。自白しないなら、別の手段で証拠を突きつけると。何て腹黒いやつなんだ。
「どうしました? 人間なら魔力を受けたくらいでは何ともありませんよね?」
…………。
「……いやー、お兄さん女性に不慣れなものだから、ビックリしちゃったよ」
いかん、この言い訳では危ない人である。
「そうですか? では慣れるために私で練習をしましょう。これでは良い女性と出会いがあった時が大変ですからお付き合いします」
そんな危ない人のような発言を気にした風もなく、少女は俺の左腕に手を伸ばす。
勿論、俺の苦手な神聖な魔力を纏ったまま。
「熱い!」
本当、システィの回復魔法がお遊戯のようだ。比べ物にならないくらい熱い。
「むむむ、結構平気そうですね。……ドッペルゲンガーもしくはデュラハンでしょうか? 確かめるために兜の下をちょっと覗いてもいいですか?」
「は、はあ!? 嫌だし!? やめろよ!」
全身鎧、人間らしい行動、神聖属性が弱点等から当たりをつけたのだろうか。恐ろしい。
少女がはしたなくベンチの上で立ち上がり、俺の兜へと伸ばしてきたのでペシッと叩いてやる。
すると、少女は頬を膨らませて不満そうに言ってきた。
「いいじゃないですか、体の中がどうなっているか気になるじゃないですか!」
「な、何でだよ!? 中は普通の人間だっつうの! 鎧と鎧の隙間に手を突っ込もうとするな!」
ベタベタと俺の身体を触ろうとしてくる少女の腕を叩き落とす。
しまいには腕全体に神聖な魔力を纏わせてきたので、触るに触れず避けるしかない。
何て厄介な奴なんだ。
「まだ、しらばっくれる気ですか? あなたが魔物だって大声で叫びますよ? ここで聖女の権力を使って鎧を無理矢理ひん剥いてあげてもいいんですからね?」
「本当やめろよ! これは呪いの鎧なんだ! 下手に触ると呪いがかかるぞ!」
「そ、そんなハッタリ信じませんよ? ただ見られたくないから嘘をついているだけに決まっています!」
おお、結構動揺しているな。ここはもうひと押ししてビビらせてやるか!
「デュラハンは呪詛を与える魔物だぞ?」
「今、デュラハンだと認めましたね!?」
…………しまった! 自分で墓穴を掘ってしまった。
俺と少女の時が止まり、噴水の音だけが聞こえる。幸い今はほとんど人がいないために、誰も騒ぐ俺達を見ていない。
少女は勝ち誇ったような顔をして、どこぞの名探偵のように指をこちらに突き付けていた。
「……か、仮にだ!」
「ふん、仮にそうだとしてもデュラハンの呪いくらい、私の神聖な魔法で解呪してみせますよ」
俺の正体をデュラハンだと当たりをつけて余裕ができたのか、少女は動じない。
「ほう? この俺を見てもただのデュラハンだと思うか? こんなデュラハン今まで見たことがなかろう? 簡単には解けない未知の呪いかもしれんぞ?」
自分でも思う。こんな風に首を失くし、代わりに兜をはめて冒険者をしているデュラハンがどこにいるだろうか? こんなにも口が達者で暴れない魔物など見た事がないであろう。
こんなにも異端なデュラハンが少女の思う、デュラハンだと言い切れるであろうか。まあ、見た感じ兜をくっつけているし、呪いの力なんてないんだけれど。
そんな便利な力があったら魔物を呪い殺しているわ。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」
正体は見抜けたものの、未知な情報が多いためにできるとは言えないだろう。
少女が悔しげに表情を歪ませて手を握る。
おお、何かいいな。さっきまで虐められていた分の憂さが晴れるようだ。
「まあ、お前のような残念聖女じゃ、解呪どころか俺を浄化するのも無理な話だがな……」
悔しいが、納得できないが認める。神聖魔法を使えるこいつはエリアル神殿の聖女なのだと。
聖女と口にしたことで、俺は「ついに私を聖女だと信じてくれたんですね!」という感じの言葉を期待していたのだが……。
「上等です! そんなに言うなら見せてあげますよ聖女の力! ちょうど私の目の前に邪悪な存在がいることですし、跡形もなく消し飛ばすことで証明してみせますよ!」
聖女がキレた。
「ちょ、ちょ! ちょっと待て!」
俺が制止するも聞かず、聖女が髪を振り乱して大きく後ろへと飛んだ。
それから聖女の身体が微かに発光して、空気がビリビリと振動する。
どうやら聖女の神聖な魔力が集まっているっていうことは、魔法使いでもない俺にもわかる。
そして、それがかなりヤバいってことも。
「『永久を彷徨う哀れな者よ……』」
聖女の口から呪文が紡がれると翡翠色の光が集り、身体が聖なる魔力によって包み込まれる。
というか永久を彷徨う哀れな者ってアンデッドである俺のことか? 全く失礼な詠唱だ。
そんな事を一瞬思ったが、今はそんな場合ではない。
この聖女、市民の憩いの場である広場で浄化魔法をぶっ放す気だ!
正気ではない! ……と思ったのだが、浄化魔法ってアンデッドにしか効かない魔法な気がする。だから俺以外は問題ないのか。
それでも俺からすればとんでもない魔法なので一目散に聖女から逃げ出す。
「『浄化の聖女アリアンヌが 浄化の光を以って』――痛い!? 誰ですか! こんなにも可憐な少女の頭を叩くだなんて! げっ! リア!?」
「やっと見つけたと思ったら、このような場所で大規模浄化魔法を使おうとするとは。一体どういうおつもりですか? 今は人が少ないから良かったものの、神聖魔法を使えば聖女がここにいると言っているようなものではないですか。何のためのペンダントなのです?」
「いや、だって! 目の前に邪悪な存在がいたんですよ!?」
「………邪悪な存在? どこにですか? 王都の広場は今日も平和なものですよ」
「あんのクソデュラハンー!」




