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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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爆発ポーションを買いに

 

 自称聖女と宣う妙な少女と出会った日の夜。俺はマカロンと城門の警備をしていた。


 別に今は金欠ということでもないのだが、夜の時間潰しになるしお金も手に入る。その上、衛兵であるマカロンから王都の情報を聞けたりするので、ちょいちょい来ているのだ。


 闇色の空に浮かぶ三日月の光に照らされる中、俺はマカロンに尋ねる。


「なあ、マカロン」


「……マカロフだ」


「俺はごく最近王都に来たばかりだから知らないんだけど、聖女ってどんな人なんだ?」


「……マカロフと呼べ」


「人の話をちゃんと聞いて答えてくれよ」


「それはこっちの台詞だ!」


 まともに受け答えをしてくれないマカロンを窘めると、何故か激昂しだした。


 どうしたんだろう。衛兵の仕事が大変で疲れているのだろうか。


 カルシウムでも足りないのかもしれん。


 俺がそんな事を思っているとマカロンが疲れたように大きくため息を吐いた。


「エリアル神殿の聖女アリアンヌ様といえば、類まれなる魔術の素養と常人を遥かに上回るほどの魔力を持つ、優れた聖女様だと聞く。中でも神聖魔法による浄化魔法を得意としているが、治療に結界、解呪と何でもできる方らしい。飛びぬけた美貌と聡明さを持ちあわえており、誰にでも同じ態度で接するそうだ。孤児院にも頻繁に顔を出したり、市民の治療などを幅広く行っており、市民の憧れの的だ」


「……へ、へー、よく知っているな」


 寡黙なマカロンにしてはスラスラと言葉が出てきたな。


 正直俺もビックリだ。


「俺もエリアル教徒だからな。朝には毎日祈りを捧げている」


 あ、なるほど。エルドニア王国はエリアル教を国教としているくらいだから、信者も多いよな。


 ……飛びぬけた美貌と聡明さねえ。


 昼間に自分のことを聖女と言っていた銀髪の少女の事を思い出す。


 確かに綺麗な少女だったけど、フルーツジュースを噴き出したり、四つん這いで逃げたりしていたしな。


 全く違うな。あれはどこにでもいるやんちゃな残念少女だったな。


「偽物とは全然違うな」


「ん? 偽物なんているのか?」


 俺の何気なく呟いた言葉に、マカロンが反応する。


 聖女の名を語る、不届きな輩の情報を聞き出そうとしているのだろう。


 マカロンは敬虔なるエリアル教の信者で、衛兵だからな。


「いや、何か今日、自分の事を聖女だとか言う銀髪の少女にカフェで絡まれたんだ」


「……ふむ、聖女の名を騙る銀髪の少女か。聖女様は金髪だし全く違うな。今度見かけたら注意しておこう。いくら敬虔な信者であろうと聖女の名を語るのは駄目だからな」


 さすがは衛兵さん頼りになるな。


 またあの変な少女が現れないようにしっかりと取り締まってほしい。




 ◆



 次の日の朝。


 俺は王都の北区画へと買い物へ来ていた。


 懐に少し余裕の出来たシスティが食糧などの道具の買い出しに向かい、俺は自分が欲しいと思っていた爆発ポーション、ついでにシスティのためのマジックポーションやライフポーションを買うためだ。


 今日も朝から王都の大通りは様々な種族が行き交っており賑やかだ。


 鋭利な顔つきをしたエルフの男性に嫉妬したり、モフモフとした尻尾を生やした獣人に触れそうになったり、小柄なドワーフが大きな樽を片手で持ち上げているのに驚いたりと、ファンタジーな出来事が溢れる大通りは見ているだけでも飽きない。


 視界には色鮮やかな髪色で埋め尽くされており、とても綺麗だ。


 どうしてあんなに髪色が綺麗なのだろうか、不思議でならない。


 立ち並ぶ店はすでに朝の商売を始めており、多くの人々が動き回りながら客引きをしている。


 露店には朝から働く多くの人々が押し寄せて、朝食を買い求めていた。


 狭い路地の裏を覗けば、そこにはガラの悪い人間の冒険者が……なんだドレイクか。


 どうやら酔っぱらって寝ているらしい。大きないびきをかいており、凄く酒臭い。


 ファンタジー感がぶち壊しだ。見なかったことにしよう。


 気を取り直していつもの喧騒の中を掻い潜って歩いていると、俺と同様に買いだしに出ている冒険者の姿がチラホラと。


 歩きながら知り合いの冒険者たちに片手をあげて挨拶。


 時には止まって世間話をして、また道を歩く。


 こういう日々の交流が大事なのだ。時に思わぬ情報を得る事ができるかもしれない。


 緊急でパーティーを組むときにも楽だしな。


 知らない人間に命を預けるなんて誰もしたくないしな。


 もっとも、うちには外道魔法使いがいるので、俺と組んでくれる冒険者がいるかどうかが問題なのだが……。


 まあ、そんな事は置いておいて俺は北へと歩く。


 その途中で昨日変な少女と出会ったカフェがあったのだが、また出会ったりしたら面倒なので回り道をして魔道具屋を目指す。


 目指すはシスティが杖を買った広場近くの魔道具店だ。


 システィが爆破させた魔道具屋付近は、爆破したせいで行きづらいし皆どこかケチ臭いのだ。


 神殿に近いのが少し難点だが、うちのシスティが今後お世話になるので売り上げには貢献しておきたい。




 そして、北の広場にたどりつくと何故かそこには昨日出会ったばかりの銀髪少女がそこにいた。


「おはようございます! デュークさん!」


 にこやかに手を振ってやってきたが華麗にスルーして魔道具屋の扉へと手をかける。


「あ! ちょっと無視するなんて酷いですよ!」


 少女のそんな騒がしい声と共に、チリーンチリーンという涼しい音が鳴り入場。


 店の奥からお姉さんが出てくる。


「いらっしゃいませー。あら? 今日はシスティちゃんいないの?」


 どうやらシスティちゃんと呼ばれるくらい仲良くなっていたらしい。


「今日は別行動なんだ」


「そうなの? ところでシスティちゃんの調子はどう? 新しい杖を買ったから魔法の威力とか上がったでしょう?」


「魔法の威力は上がったんだが……」


「えっ? 何? 何かあったの? ……ついに誰か殺っちゃったの?」


 唸るような俺の声を聞いて、お姉さんが不安を露わにする。


 そんなに不安だったら、うちのノーコン魔法使いに魔法の威力が上がる杖を持たせないで頂きたい。


「……魔法が当たらない」


「コントロールに自信がないって言っていたから、魔力効率の良い杖で多く魔法を撃たせて、せめて一発でも重い一撃が当たればって思ったんだけど……」


 理に適っているのか適っていないのか分からない。


「ところで、後ろのお嬢さんは?」


 お姉さんに言われて振り返ると、初日の俺のように興味深く魔道具を見つめる少女が。


 今、興味津々を示しているのは俺が買う予定の爆発ポーション。


 フラスコの瓶が割れるほどの衝撃を与えると、爆発するという大変危険な代物。


 簡単に魔物にダメージを与えたり、驚かせたりできる使い捨ての戦闘道具だ。


 そんな爆発ポーションを触ろうとしている少女に……。


「触ると爆発するぞ!」


「う、うええ!?」


 俺の鋭い警告の声に少女が慌てふためく。


 指が微かに触れたせいか爆発ポーションが揺れる。


 触ってしまった不安感をさらに煽るように、さらに追い打ちを……。


「爆発するぞ! 伏せろ!」


「えええ! 嘘ですよね!?」


 俺の真剣な声に疑うことなく、両腕で頭を抱えてうずくまる少女。


 ………………。


 勿論爆発ポーションが爆発することはない。


 隣でお姉さんが俺の事をジトっとした視線で見ているが、面白いので無視だ。


「……えっ? えっ?」


 それからいつまでたっても爆発しないことに気付いた少女が、恐る恐る顔を上げた。


「ははははは! 爆発ポーションは瓶が割れる程の衝撃を与えないと爆発しねえっての!」


 俺の笑い声で騙されたと気付いた少女は、顔をカッと赤く染めて爆発ポーションを掴んだ。


「ひっ!?」


「おい! 冗談じゃないか! その投げようとしている物を元の場所に戻せ! 危ないだろうが! 店員のお姉さんもいるんだぞ!?」


 この店が。爆発ポーションごときで怪我をするデュークさんではない。だが、そんな騒ぎを起こせば出禁になってしまうだろ。


 ここでも出禁になっては堪らない。


 俺だけでなく店員のお姉さんがいることを思い出した少女は、渋々といった様子で爆発ポーションを元の場所に戻した。


 それによってお姉さんがホッとしたように息を吐く。


 普通の人からすれば十分脅威ですものね。


「デュークさん、店内ではふざけないで下さい。危険な道具もあるんですから」


「……すいません」


 お姉さんは短い悲鳴を上げたのが恥ずかしかったのか、説教する時、頬が少し赤かった。


 それにしてもいきなり爆発ポーションを投げようとしてくるとは思わなかった。


 ……いかれてやがる。


 チラリと少女の様子を窺うと、怪しげな笑みを浮かべて違うフラスコ瓶を見ていた。


「……回復ポーションの方がデュークさんに効きそうですね」


 やめてくれ。本当に。





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