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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
34/63

エルダートレント

 

「『ライトニング』ッ!」


 システィの威勢のいい声と共に雷が迸る。


 当たればエルダートレントの腕くらい吹き飛ばしてしまいそうな威力だが、それは先程から空中を駆けるのみだ。


「おい! お前何回目だよ! 俺はお前に通し芸をやれって言っているわけじゃないんだぞ!? 動く蔦や枝葉と全部躱しやがって曲芸師か!」


 俺が必死にエルダートレントから伸びる無数の蔦や枝を斬り落としているというのに、システィの魔法は一つも当たらない。


 あれほどの巨体は絶好の的だというのに、システィの魔法は綺麗にそれを躱していく。


 枝葉や動く枝や蔦に掠ることなくだ。


 むしろそっちの方が難しいだろうが。


「つ、次は当てるから……!」


 システィはそう答えると、再び呪文を唱えようとする。


 しかし、エルダートレントが後方より飛来するライトニングを鬱陶しく感じたのか、システィの方へと腕の一本を叩きつけた。


「ヒイッ!?」


 システィは魔法を中断して一目散にその場から離れる。


 それを追尾するようにエルダートレントの身体の向きが変わるが、俺がその隙に斬り込み腕の一つを叩き斬る。


 薪を割るような乾いた音が響き、地面へと落ちる腕。こんな気持ち悪い腕は薪にだって使いたくない。


「カアアアア!」


 腕の一つを落とされたせいか、エルダートレントが渇いた声を上げる。もっとも、痛がるというよりも苛立ち紛れという感じの声だ。植物だから痛みなど感じないのであろう。


 しかし、意識を俺へと戻すことはできた。


 脅威がある相手と認識されたのか、身体の向きがこちらへと戻る。


 その間にシスティは弧を描くように、エルダートレントの死角である斜め後ろに陣取っていた。


 俺は突き出される木の枝を躱し、大剣で斬り落としながら相手の意識を引きつける。


 躱した枝は後方にある木に刺さっていた。トレントとはやはり硬度が違うらしい。


 それでも俺の膂力とアダマンタイトの重さが乗った大剣にかかれば余裕で切断できるのだが、いかんせん数が多い。


 斬っても斬っても枝や蔦が飛んでくる。どうやらすぐに再生するようだ。


 お陰で接近することが難しい。


「『ライトニング』ッ!」


 システィが死角より放つ魔法。


 エルダートレントの頭部へと向かったが、それは一回目に空けた穴を綺麗に潜り抜けて、俺の頭上を駆け抜ける。


 なんというトンネル技。一度撃ち抜いた所をもう一度撃ち抜くとは……。


 場合によっては賞賛される高等テクニックだが、今の場合は全く賞賛できない。


「だから通し芸をやれって言ってないだろ! 普通に本体に当てろっつうの!」


「私だってそうしたいわよ! 勝手に魔法が躱すのよ!」


 ついにシスティが逆切れした。全くキレたいのはこっちだと言うのに。


 勝手に魔法が躱すとか聞いたことがない言い訳だ。お前は本当に魔法使いなのか?


 苛立ちながら迫りくる枝や蔦を振り払っていると、システィがとんでもない事を口走った。


「ねえ、ファイヤーボールを使ってもいいかしら? あれなら当たる気がするの」


 確かに植物系の魔物には火属性である魔法が有効的だ。一般の魔法使いの方々なら密閉した場所ではないかぎり率先的に使うであろう。


 だが、うちはノーコン魔法使いだ。ファイヤーボールがどこに飛んでいくかわからない。


 先程の通し芸のように外して、他の木へと着弾すれば瞬く間に火が燃え移るだろう。


 なので、システィには使ってほしくない。


「ダメだろ! お前絶対外すだろ! 山火事を起こすのはゴメンだ!」


「大丈夫よ! ファイヤーボールなら当たる気がするのよ。私を信じて!」


「それは無理だ」


 俺の足を絡めとろうとする蔦を振り払いながら、きっぱりと告げる。


 私を信じてなんて言葉をよく言えたな。


「何でよ!? さてはデュークってばアンデッドだから火を怖がっているだけでしょ!」


「違うわ! 俺は火を恐れないし弱点でもない。それはお前のファイヤーボールを食らっても平気な事から証明されている。俺が恐れているのは山火事を起こして被害をギルドに請求されることだ!」


 普通のアンデッド、主にゾンビやスケルトンは火を弱点としているが、デュラハンである俺はそうでもない。


 聖属性はやはり苦手だが、別に火は苦手というわけでもないのだ。


 その代わり、どうも大量の水が苦手だが。これはデュラハン故の特性なのだろう。


 デュラハンの存在自体が稀で文献に残っていないのか、システィが知らないだけかもしれんが。


 川や湖の水が苦手というのは絶対に言わない。あいつなら遠慮なく俺を突き落としてドボンさせるに決まっている。


「当たるから問題ないわ! もし燃え移ればデュークが切り倒せばいい話よ」


 どこから自信が湧いてくるのか、システィは杖を掲げて呪文を唱えだす。


 ま、マジかよあいつ。


 どうなるか分からない次の状況に対処できるよう、俺は鞭のように迫る蔦を切り払う。時々迫る枝は手刀で粉砕。


 これで俺の周りで蠢く蔦は減ったが、エルダートレントの蔦や枝はすぐさま再生してくる。


 チラリとシスティの様子を見ると、詠唱が完成間際だった。


 今にも魔法を放ちそうだが、システィの足下にそろりと迫る蔦があった。


 詠唱と魔力を練り上げることに集中しているのか、システィはそれに気付いていない。


「おい! 足元見ろ!」


「『ファイヤーボール』ッ!」


 俺の注意を促す声は、システィの威勢の良い声に遮られた。


 杖の先端から火球が現れるのと同時に蔦が足元に絡みつく。


 目標を拘束した蔦は強かに巻きつきシスティの足を引っ張る。それにより華奢で体重の軽いシスティはバランスを崩して、瞬く間にひっくり返る。


「うえっ?」


 システィのそんな間抜けな声と共に、杖から火球が発射された。


 体勢を崩したために杖がエルダートレントの遥か上へと向けられ、斜め上へと撃ち出された火球。


 これは外した。エルダートレントの上へと飛んでいくだろうな。


 そう思っていたのだが、火球は突如として降下してエルダートレントへと直撃した。


 爆炎を撒き散らした火球により、エルダートレントの枝葉に火がつく。


「カ、カカアアアアアアアッ!?」


 植物系の魔物であるエルダートレントが、弱点である火魔法を食らって大慌てになる。蔦や枝を無意味に振り回したり、ジタバタと足を動かす。


 火に包まれた背中を蔦で消し叩こうにも、蔦へと火が移ってくる始末。


 おお、これは可哀想に。


 ジタバタと動くエルダートレントからシスティの方へと視線を動かすと、そこでは後頭部を押さえて悶絶しているシスティがいた。


「―――ッ!? い、痛い! 頭が……ッ!」


 どうやら背中から倒れ込んだ時に後頭部を地面に打ち付けたらしい。


 全く運の良い奴め。


 もし前に倒れ込んでいたら、地面に火球がぶち当たり自滅するところだったんだぞ。


 というか転がされずに撃っていたら、前方数メートルで地面に直撃だったな。


 システィの無事に安堵しつつ、エルダートレントへと視線を戻す。


 すると、エルダートレントは地面に転がる事によって炎を消していた。


 ……何というか、器用な事をする木の魔物である。


 ちょっと行動が人間っぽくて親近感が湧いてしまったじゃないか。


 火を消し終えたエルダートレントは、もはやボロボロであった。


 生い茂っていた葉っぱは焦げてなくなり、枝もあちこち焦げて折れてしまっている。


 エルダートレントを取り巻くように蠢いていた蔦もほとんど焼失。


 すぐ再生するはずだが、依然としてその素振りは見えない。


 どうやら火だるまになって弱っているようだった。


「カアアアアアア」


 緩慢な動作で手を広げ威嚇するエルダートレント。元から乾いた声であったが、今はかなり弱々しく聞こえる。


 やるなら今がチャンスだ。


 俺は大剣を構えて勢いよくエルダートレントの懐へと駆け出した。



 無数の枝や蔦による攻撃と再生能力をなくしたエルダートレントに苦戦することはなく、俺はあっさりと倒すことができた。




 ◆




 エルダートレントを倒した俺達は数体のトレントを倒して王都へと帰還していた。


 そして、冒険者ギルドにてクエストの完了報告や報酬の受け渡しを済ませ、俺は一人商店街を歩いていた。


 目指す場所はシスティがお気に入りのカフェだ。


 懐の温まったシスティがカフェに行きたいと言い出したので、俺もそれに乗っかって行く事にした。


 飯や水を必要としない俺がカフェに行く理由は暇つぶしだけではない。


 たまにはこうして外食しているフリでもしないと、怪しまれるからだ。


 飯を必要としない俺は、冒険者同士の飲み会や宴に参加しない。


 参加すると飯を食う必要があり、それには兜を取る必要があるからだ。


 そうなるとすぐに魔物だとバレる。


 今では宴に参加しないノリの悪いヤツと思われているだけかもしれないが、一度も飯を食っている姿を見た事がないというのも変な話だろう。


 なので、こうしてたまには外食をして人間らしい姿を見せておく事も重要なのだ。


 そんなわけで俺はカフェへと先に向かっているわけだ。


 ちなみにシスティは荷物を置いたり着替えるために宿屋へと戻っている。リラックスした状態で店に来たいのであろう。


 俺は着替えなんて全く必要ないけどな。




 この間のカフェへとたどり着いた俺は、店内に入らずに外のテラス席に座る。


 フルーツジュースが美味しいと評判のカフェに、全身鎧姿の冒険者が入るのは少し憚れる。


 なので、俺はこうして外の席に座るのだ。


 お洒落な店内でのひとときも悪くはないが、こうして道行く人を眺めながらボーっとするのも悪くない。


 カフェの前の大通りには人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人が歩いているのだ。


 見ているだけでも退屈はしない。


 人々の様子を眺めていると、ふと前方のテラス席から妙な声が聞こえてきた。


 どうやら俺の他にもテラス席に座る人がいたらしい。


 そちらへと視線をやると、一つ空けた奥のテーブルに銀髪の少女が座っていた。


 白いワンピースを着た銀髪の少女は、ストロベリーやラズベリーが入ったジュースを飲み、恍惚の表情を浮かべている。


 スプーンで果実をすくって口へと運ぶ度に頬を緩ませ、足をプラプラと振っている。


 ここのフルーツジュースが相当大好きなようだ。


 見たところ年齢は十五歳くらい。何となく佇まいや作法が上品なために、どこかの貴族令嬢かもしれないな。


 お互いが向かい合っているように座っているせいか何となく気まずいが、今更移動するのも変だし、向こうは味わうのに忙しそうなので気にしてないだろう。


 そんな事を思っていると、グラスに口を付けた銀髪の少女と目があった。


「ぶふうっ!?」


 ただ目があっただけだというのに、少女は何故か盛大にジュースを噴き出した。


 汚ったねえ。隣のテーブルじゃなくて良かった。


 というか人と視線が合ったからって噴き出すとは失礼じゃないだろうか?


 俺の兜がずり落ちて首なし状態なら分からなくもないが、きちんと兜はついている。


 念のために背後を見るが何もおかしいことはない。


「ゴホッ! ゴホッ! ゴハッ……!」


 粗相をしてしまったが一応は淑女。むせながらも少女はハンカチで口元を押さえていた。


 俺はできるだけそれを見ないようにして願う。


 ……早くシスティが来てくれないかなと。


 少女が吹いてしまったからといって、嫌がるように避けるのも可哀想な気がする。


 システィが来れば自然に退避できるのだが。


 テラス席では無言で少女がハンカチでテーブルを拭き、俺が知らんぷりをするという何ともいえない雰囲気に包まれていた。


 幸いにも少女の白いワンピースには汚れがついてはいないが、テーブルの方はそうはいかない。ハンカチで拭くにも限度があるだろう。


 これで少女は汚れたテーブルから違う席へと自然に移動することができる。


 何せ少女が噴いたシーンを他人である俺が見ていたのだ。彼女だって移動したいに決まっている。


 俺がそんな風に思っていると、少女が予想通りグラスを手にして立ち上がった。


 少女は何事もなかったかのような態度で歩を進める。


 このまま店内に入るか離れた席に座るだろうと思っていたのだが……。


「すいません、ここいいですか?」


 何故か、少女は俺のテーブルへとやって来た。


 何でここに? 他にもテーブルは空いているというのに。意味が分からん。


「あー、人を待っているんですけど?」


 綺麗な少女とお話できるのは大変いいことだが、いかんせん怪しすぎる。


 俺一人だけなら暇つぶしに話し相手にもなるが、もうすぐシスティが来るのだ。断っておく。


 やんわりと断りの言葉を返すと、少女はにっこりとどこかで見た事のあるような笑みを浮かべた。


 そして、とんでもない事を口走った。


「貴方、人間じゃないですよね?」



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