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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
33/63

怪しい木め。さてはトレントだな!

 

 エルダートレントの討伐クエストを受けた俺達は、最近トレントの数が多いらしい北の森へと来ていた。


 鬱蒼とした森の中には多くの木々が立ち並び、薄暗いものとなっていた。


「これだけ木があるとトレントか普通の木か見分けがつかないな」


 長年の経験者になるとある程度観察すれば分かるらしいのだが、新米の俺達には全くわからない。なので、少しでも動いたり、襲いかかってきた時に反撃するのが一番であろう。


「薄暗いせいで観察もロクにできないのだけれど。じっくり見ようと近付いたら巻き付かれるとか嫌よ」


 割と薄暗い中でも問題なく視認できる俺とは違い、普通の人間で夜目の利かないシスティはどこか不安そうに杖を抱いて歩いている。


「まあ、そこは俺に任せろ。アンデッドだから暗い所でもよく見えるから」


 俺が暗闇でもバッチリ見えると言うと、システィが素っ頓狂な声を出した。


「え? 嘘!? ……ねえ、デューク。王都に来る途中の着替えとかって……」


 それから顔を赤くしモジモジとしだす。


「見えていたけど、見ないようにしていたから大丈夫だぞ」


 俺が淀みなく答えると、システィが安心したようにホッと息を吐く。


「そ、そう。良かったわ」


 まあ、何回かは青い下着や白い肌を目撃しちゃっているのだけれどな。


 例え真夜中であろうと昼間のように見えてしまう俺からすれば、ちょっと離れた茂みくらいでも普通に見えたりする。


 注意するのもこっちが覗いていたみたいだし言えるはずもなかった。俺だって男だし、脳裏に焼き付けるくらいはする。ないんだけれどね。


「着替える際はきちんと木陰に隠れてしろよな」


「つ、次の野宿の際には気をつけるわ。……というか! 何で私が謝んなきゃいけないのよ!」


 コクコクと恥ずかしげに頷いていたシスティが、ガバッと杖を掲げて激昂する。


「んだよ。見えちゃったもんは仕方がねえだろ。次に野宿する際はかなり離れるから」


「ええ!? でも、それはそれで魔物が襲って来たりしたら怖いんだけど……」


「面倒くせえな!」


 そんな風に話し合いながら、進むことしばらく。


「……ねえ、これってエルダートレントよ。きっと」


 システィが怯えながら杖で突いているのは、木のへこみなどのせいで不気味な表情をしているように見えるただの木だ。


 エルダートレントには不気味な顔のようなものが見えるらしいが、残念ながらそれは天然だ。


 それがエルダートレントなら、真っ先にお前は絡めとられてシバき倒されているだろう。


 立ち並ぶ木々を観察していると、奥にポツリと立っている木があった。


 そこの周囲には木はなく、少しだけ大きい木が寂しく一本だけが立っている。


 明らかに怪しい。


「おい、あの木が怪しいぞ」


 不気味な木を煙草で焼き入れするかのように杖でグリグリしているシスティを呼び寄せる。


 何をやってんだよお前は。


「……まるでエルダートレントが種を撒いて生やしましたと言っているようなものね。きっとあれはトレントだわ」


「よし、じゃあ近付いてみるか」


 俺とシスティは顔を見合わせて、ポツリと立ったトレントらしき木へと近付く。


 すると突然俺の目の前に何かが飛んできた。


「おわあっ!」


 慌てて身体を屈めると、ブンッと空気を薙ぐような音と共に何かが通りすぎた。


 通りすぎた何かは微かに俺の兜に当たったらしく、ポロリとシスティの胸へと飛び込む。


「ぎゃああああああああ!? デュークの首が飛んできた!」


 咄嗟に片手でキャッチしたシスティは大声を上げて、後方へと放り投げた。


「おい! 俺の兜を放り投げんじゃねえよ! 俺に首とか元からないから!」


 と、突っ込みを入れていると、今度は足元に枝が伸びてきたのでバックステップで下がる。


 それから伸びてきた枝を伝って視線をやると、そこには人間の顔のような木が枝を伸ばしていた。


 顔と言っても、貼り紙に描いてあるようなエルダートレントのように不気味な表情をしているわけでもない。窪みやへこみ具合のようなもので、何となくあれが目で、これが口で顔っぽいなと思えるようなものだ。


 それに俺達が距離を取っても全く動く素振りを見せない。ただ奇襲が失敗したせいか悔しげに枝葉を揺すっている。


「……動かないしトレントだな」


 普段から身近に感じる木であっても、うねうねと動く様を見ると結構気持ち悪く感じてしまう。何だろうか。これを見てしまったら、街中に生えている木が葉音を鳴らすだけで剣を向けてしまいそうだ。


「それに顔もあんまり気持ち悪くないしね」


 すっかり落ち着いたらしいシスティが隣でそんな事を呟く。


 システィはやたらと顔に拘るな。というか放り投げた兜を拾えよ。


 そんな事を思いながら、俺は後方に転がる兜を回収して装着する。


 こういう事があるから他の奴とはパーティーを組むのが怖い。普通の人が見れば死んだかと思うか、デュラハンだと思ってしまうだろう。


 あからさまに生えているトレントらしき木を見つけて気が緩んでいた。それまでにある木がトレントかもしれないという事を忘れていたのだ。次はこうならないよう気をつけなければ。


 兜を装着して戻ると、システィが何やら下を見ていた。


 俺も気になる視線を落とすと、システィの足下にゆっくりとだが枝が伸びてきていた。


 動けない代わりに枝を伸ばして絡めとろうとしているらしい。


 何だかタコの足のような動きだ。


 システィは足元に寄ってきた枝を無言で踏みつけた。何だか子供が動くアリを見て、何となく踏みつけたような感じだ。


 幼稚な行動にも見えるが、トレントの枝には痛覚があって怯むのか、簡単にへし折れるのか簡単に実験できる。


 システィの靴に踏みつけられた枝はパキリと音を立てたが怯む様子もなく、そのままうねうねと靴へと巻き付いた。


「うわ、ちょっとデューク斬って」


「はいよ」


 大剣を振り下ろすとストンと斬れたが、数秒もすると切り口から枝が伸び出した。


 どうやら少し斬ったくらいでは生えてくるようだ。


「で、あそこに動くことのできない的があるわけだが……当てられるか?」


 挑発するように言ってやると、靴に絡みついていた枝を取ったシスティが胸を張る。


「勿論よ! あのヘンテコな顔をぶち抜いてあげるわ! 新しい杖を買った私の実力を見てなさい!」


「言うまでもないが、ファイヤーボールはなしだぞ。山火事になる」


「わかってるわよ!」


 それからシスティは杖をトレントに向けて、呪文を唱える。


 そしてキッと視線をトレントへと向けて威勢よく叫んだ。


「『ライトニング』ッ!」


 杖の先へと雷が集り、トレントへと発射される。


 杖に嵌めこまれたマナ鉱石のお陰で魔力が増幅されているのか、いつもよりも太くて力強い雷だ。


 感心しながら見送っていると、雷はトレントに直撃――しないのがいつものシスティなのだが、直撃した。


「マジかよ!?」


 東の森での的当てでも全く当たっていなかったのに。どうせ動かないトレント相手でも外すに決まっていると思っていたのに。意外だ。これが新しい杖の力なのだろうか。


 杖の力でシスティのコントロール力が上がったのだとしたら、大変喜ばしいことだ。


「私にかかればトレントを倒すくらい楽勝……って、倒れてないわね?」


 ご機嫌な様子のシスティだったが、表情が戸惑いへと変わった。


 何故ならば、俺達の目の前にいるトレントが無傷で立っていたからだ。


 一体どうしてだろうか? ライトニングを食らえば木の身体をしているトレントならば焼け焦げているはずだ。さっきの強力なライトニングなら貫通して、倒れてもおかしくはない。


 だというのに、直撃したはずのトレントは『そんなもの当たっていませんよ?』という風にうねうねと枝を動かすのだ。


 おかしい、確かにライトニングはトレントへと吸い込まれるようにして当たったのに。


 俺達が首を傾げていると、地響きが鳴った。


「な、何!?」


「何だ!?」


 突然の地面からの振動に戸惑いの声を上げる俺達。


 まさかこの揺れをトレントが起こしているとでもいうのか!? 


 そんな事を思っていると、ゴゴゴゴゴという地響きがなり爆発するような音が、トレントの奥から鳴った。


 そう正確には最初に俺達が見つけた、ひと際大きい木からだ。


 その木がズシリと傾き、地中から大きな木が姿を見せる。


 それから細長い手らしきものが地を突き、勢いよく土を巻き上げて姿を現した。


「カアアアアアアアアアアアアアァァ!」


 全長八メートルはあるだろう大木が、腕を象った四つの枝を広げて乾いた声を上げる。


 手の指の数は四本で背中に蜘蛛を背負っているようにも見える。


 ずっしりとした横に太い大木。正面から見える表面には凹凸が激しく、不気味な老婆のように見えた。


 足元にはその巨体を支える太い二本の足が生えており、ドスドスと地に足をつけていた。


「エルダートレント!? 確かにあの木が怪しいとは思ったけれどいきなり当たりだったのかよ!」


 それにしても本体は地中に埋まっていたのか。……結構デカいな。


 というか何もしていないのにどうして出てきたんだ? 移動でもしたくなったのか?


「やったわよデューク! アレを倒せば百万キュルツよ! 私達運がいいわ!」


 驚きよりも討伐報酬の値段の喜びが勝ったらしいシスティ。


 いや、あれってば動くんだろ? あれだけ枝や蔦が生えていると絡めとられそうで怖いな。


 そんな事を思いながら、パキパキと木の音を鳴らしながら動くエルダートレントを観察する。


 観察するとエルダートレントの頭部分に生えている木が、焼け焦げて貫通しているのが目に入った。


 ……まるでライトニングで撃ち抜いたかのような。


「……おい」


「何よ? エルダートレントが見つかったのよ? ボーっとしていないで構えなさいよ」


「エルダートレントの頭の部分見てみろよ」


 俺が指さすと、システィが怪訝そうに視線を上げる。


「さっきまで俺達が怪しんでいた木があるな」


「……綺麗に穴が空いているわね」


「違うわ! お前がライトニングで貫通させた穴だよ!」


「ええっ!? でも私のライトニングはトレントに当たったはずよ!?」


「でも、目の前にいるトレントはピンピンしているし、当たった形跡がないじゃないか!」


 トレントがちゃっかりと枝を伸ばしてきたので、大剣で叩き斬りながら俺は叫ぶ。


「つまりお前はまた外したんだよ! 動かないトレントもとい的をな! 木の枝と葉っぱ全部躱して奥の木に当てるとかどんな神業だよ!」


 つまり、システィのライトニングはトレントを神業の如く通り抜け、奥に潜伏するエルダートレントを撃ち抜いたことになる。


 全く、コイツはどうして当てちゃいけないものや、変なものばかりに命中させるのだろうか。


「え? そんなに凄い? ……えへへ、ありがとう」


「褒めてねえよ」


 とは言ってみたものの、システィの魔法が偶然当たらなかったらいきなり奇襲を受けていた可能性もあるので、助かったといえば助かったな。こちらから奇襲をしかけることができたのだし。


「おい、取りあえずここは狭いからエルダートレントに近付くぞ」


 俺達のいる道では狭すぎて立ち回ることが困難だ。エルダートレントが突進してくるだけで道が塞がれる。


 エルダートレントの周りは開けているので、攻撃を躱しながらになるが俺達でも何とか立ち回ることができそうな広さだ。俺がエルダートレントの意識をできるだけ引きつけてやれば、何とか倒せると思う。


「うう、あれに近付くのは嫌だけど、ここじゃあ狭いものね」


 システィもそれに気付いたのか、覚悟を決める。


「じゃあ、行くぞ!」


 俺は目の前にいたトレントを斬り捨てて、エルダートレントへと走り出した。



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