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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
二章 聖女との邂逅
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システィさん、杖を買う?

 

「デューク入るわよ?」


 俺が鼻歌交じりに兜を布で磨いていると、システィがノックをしながら扉を開けてきた。


 返事も待たない間に開けてきた無礼者には口撃をしてやる。


「ちょっと待て! 今裸だから!」


「えっ!? そうなの!? ごめんなさい! ……ってデュークに肌なんてないでしょ!?」


 俺の今裸宣言を聞いて慌てて扉を閉めたシスティだが、俺がデュラハンだと思い出したのか扉を勢いよく開けた。


 白い肌が赤くなっているのは羞恥によるものだろう。きっと俺の裸という言葉を聞いて、色々想像したに違いない。


 というか、俺は何をやっているのだろうか。これでは少女にセクハラをしているみたいじゃないか。


「システィが俺の返事を待たずに入ってこようとしたからだ」


「別にいいじゃないの。デュラハンなんだし。着替えもしないし、食事も睡眠も摂ったりしないでしょ?」


 俺がデュラハンだと知ってからはこんな感じである。


 俺の兜や鎧の下には見るも無残な傷跡がたくさんあって……という設定が真っ赤な嘘だとわかってからこれだよ。


「おいおい、魔物だからってプライバシーを侵害していいってもんじゃないぞ。心は人間なんだからそこのところを大事にしてやれ。普段は魔法で俺の身体を痛めつけるんだ。心くらいは労わってやれ」


「……そ、そっちを出すなんて卑怯よ」


 自覚があるのか、気まずそうにささやかな反論をするシスティ。


「前は俺を気遣うように念押しにノックをしてくれたというのに。そして、いつかは一緒にご飯を食べようって窺うような視線を向けて」


「それは黙っていたデュークが悪いんでしょ! 忘れてよ! もう!」


 騙されていたとはいえ、改めて思うと恥ずかしかったのか、システィが頭を抱えて座り込む。


 俺がデュラハンという事を知らなかった時の事をいじるのは楽しいのだが、これ以上やると拗ねるので止めておく。


「それで、どうしたんだ? 身体の調子はもう大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫よ。額の怪我や打撲もほとんど回復魔法で治ったし、十分すぎるほど休んだわ」


 大丈夫とばかりに元気よく立ち上がるシスティ。


 そこにはどこにも包帯が巻かれている様子はなく、健康そうな身体をしている。


 オーガキングにやられた怪我はどれも軽傷だったために、聖女とやらに頼る必要もなく、自分の回復魔法の処置で済んだのだ。


 もっとも、あの時殴られたのが杖ではなく身体だったら、即死か良くて聖女のお世話行きだろうけどな。


 それから念の為システィは、ここ一週間はクエストを受けずに、宿で本を読んでいたりとゆっくりと過ごしていたのだ。


 ちなみにオーガキングの討伐報酬のお陰で、大剣のお金をきっちりと払う事ができた。


 オーガキングの討伐報酬は五百万キュルツ。


 それを半分に分けようとしたが、システィが断固として受け取らなかったので俺が四百万キュルツ、システィが百万キュルツとなっている。


 最初は一キュルツも受け取らないとか駄々を捏ねていたので、説得には苦労したものだ。


 俺には宿代以外は小さな買い物しかしないのでお金もほとんど減る事もない。


 なので、手持ちには二百万キュルツ以上が残っているので、今の俺には少し懐に余裕があるのだ。懐に余裕ができると、心にも余裕ができる。いいことだ。


「それよりもデュークこそ大丈夫なの? 棍棒が当たった時、凄い大きな音が鳴ってゴミのように飛んでいっていたけど。実はヒビが入っていたりして、全身が崩れて死んだりしない?」


「怖い事言うなよ! ……問題ない。全くの無傷だ」


 システィがサラッと怖い事を言うので、棍棒が当たった箇所を確認してみるが問題ない。いつも通りの鈍い光沢をしており新品そのものだ。


「あれだけの攻撃を受けても無傷って、どうやったら傷がつくのよ。まあ、それはいいわ。身体もゆっくり休めたことだし、今日からまたクエストと行きたいんだけれど……オーガキングのせいで杖が折れて使いものにならないの。だから買い物に行きましょ!」



 ◆



 そんなわけで、俺達はシスティの新しい杖を探しに王都の商店街を歩いていた。


 オーガキングが討伐されたお陰で、安心して商人さんが王都へとやってこられるようになったので以前よりも若干賑やかだ。


 大通りでは服屋や雑貨屋、果物屋と様々な店が立ち並び、今日も大きな声を出して客を呼び込んでいる。


 俺が人間の身体であれば、物珍しい食料なり服なりを買ったりするのだが、全身鎧の身体になったので買う必要はない。


 食事類は一切食べられないし、服は全身鎧があるので無意味。


 異世界の料理とか食べてみたかったのに、冷やかすことしかできないだなんて。


「ところで杖はどこにあるんだ?」


「魔法使い向けの魔道具屋さんが北の方にあるのよ。だから、北の方に向かっているわ」


 北の方か……。そっちは神殿が近いから見に行ったことはなかったな。


 そっちは聖女の住処だからできれば近付きたくないんだけれど。


 まあ、システィの杖を買うだけだ。神殿には無暗に近付かないし大丈夫だろう。


「……なるほど。じゃあ、そこは駄目だな。魔法使い御用達なんだろ?」


「何よ! 私が魔法使いじゃないって言いたいわけ?」


「ある意味疑っているのは確かだ」


 そこはかとなく北に行きたくないアピールをしたのだが、システィをムキさせてしまったらしく意地でも北の区画に行く事になった。


 北の区画にたどり着くと、今までのような雑多さは少しなくなり、整然とした雰囲気のものになる。


 ここまで来ると、白亜の塔のような神殿がより大きく見えて圧倒されてしまう。


 この神殿を作るのに一体いくらの歳月とお金がかかったのやら。


 王城といい神殿といい、エルドニア王国の国力は随分と高そうだ。


 周囲にはエリアル信徒らしい白いローブや修道服を着る人々の姿も多くなっており、俺は少し不安になる。


 神聖魔法とかおっかない魔法使えるのは聖女だけだよな? そこらにいる信者が『むむむ、悪しき存在め! 浄化してくれる!』とか言って襲いかかってこないよな?


「デュークってば何キョロキョロしてるの?」


「だってここってば神殿の近くだろ? 神殿と言えば聖なる女性、聖女がいるだろ? 神聖魔法とか使える物騒な奴の目の前にいると思うと、落ち着いていられねえよ」


「いや、アンデッド族であるデュラハンが大通りを闊歩している方が物騒よ」


「バカ言え、俺は善良な一市民だ。物騒であるはずがない。ところで神聖魔法ってのは聖女だけが使えるんだよな? そこらへんの信者が使えたりはしないよな?」


 俺は身を屈めてシスティに囁くように言うが、システィは少し呆れた風に答える。


「神聖魔法がそんなに大安売りされているわけないじゃないの。神聖魔法ってのはね、女神エリアル様に選ばれし者だけが使える特別な力なの。聖女しか使えないわよ」


 聖女しか使えないという言葉を聞いて安心する。これでそこらの信者達が神聖魔法を使ってくることはないな。


 聖水とか持ってそうで怖いけど。


「まずはあそこの魔道具店に入ってみましょう」


 なんて事を思いながら、俺達は近くにある魔道具店に入った。


「いらっしゃいませー」


 俺達が入るとカランカランと音が鳴り、店員の声が聞こえてきた。


 魔道具店の建物自体は大して広いものではないが、所狭しと物が置かれているため、雑貨店のような印象を受けた。


 狭いスペースを有効的に使い、様々な瓶や香草、ベルトやローブ、魔道具らしきものが置かれている。まさにいかにもっぽい雰囲気だ。


 体力回復ポーション、解毒ポーション、爆発ポーション。


 爆発ポーションって何だよ!? 火薬とか爆薬じゃないのか? 物騒なので怖くて触れないが、観察してみると明らかに水色の液体である。


 使用方法は……相手に投げつけて瓶を割るほどの衝撃を与え、爆発させます。


 わかりやすいけど、おっかないな。瓶が割れるほどの衝撃っていうのが曖昧で怖い。


 というか床に落とすだけでアウトじゃん。 


 それから奥の壁へと視線をやると、システィのお目当てである杖が掛けられている。


 システィと言えば、早速掛けられている杖を物色しているようだ。


 そこに店員が近付いて、何やら相談を始める。


「魔法が当たりやすくなる杖ってありますか?」


 んなもんあるかボケ。


「それでしたらこの命中力が上がる杖はいかがですか? この杖なら魔力が通しやすくコントロールが苦手な魔法使いだってバッチリ当たりますよ? 今ならお値段四百万キュルツ!」


「買います!」


「やめろバカ! そんな都合のいい杖があるわけないだろ! そんなの嘘に決まってる!」


 いきなり詐欺のような売り文句に、引っかかりそうになっているシスティを慌てて止める。店員の笑顔がうさんくさいぞ。


 というかお前の予算は百五十万キュルツだろうが。


「どうしてよ? 魔法がバッチリ当たるのよ!?」


 こんな凄い杖を見逃せないとばかりにシスティが目を輝かす。


「そうですよ? うちの杖にケチつける気なんですか? 失礼な人ですね。これだから脳筋な前衛は困りますねえ」


 こっちの店員はムカつくな。それならうちの外道魔法使いをけしかけてやろう。


「じゃあ、ここで試し撃ちしてみろよ! 試し撃ちできますってここに書いてるだろ!」


 俺は壁に書いてある『試し撃ちできます!』というプレートを叩いてやる。


 どうやらこの売り場の裏に試し撃ちスペースがあるらしい。そこで現実を見れば諦めるだろう。


「そうね。まずは試し撃ちをしてみましょ!」


「……え? ええ、いいですけど」


 早速とばかりにシスティが杖を掴んで、試し撃ちスペースへと走り出す。


 あいつは自分のノーコン具合を自覚していないのだろうか? いや、店員の売り文句を信じているのだろう。これで自分の魔法が当たると。


 まあ、いいか。


「ところで店員、外道魔法使いって知ってるのか?」


 俺は店員へと問いかける。


「そりゃ知ってますよ。何でも敵味方関係なしに魔法を撒き散らして、相手を倒すのだとか……」


「その魔法を撒き散らす外道魔法使いが、この店の裏で試し撃ちをしようとしているぞ?」


 俺がそう言った三秒後。魔道具屋の壁が爆ぜた。




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