1エピローグ デューク
オーガキングの討伐を終えた俺達は王都へと帰還していた。
システィからすればその場で聞きたい事が山ほどあったはずだが、オーガキングの咆哮を聞きつけて冒険者達が集まってきた為に、落ち着ける場所へと移動したのである。
俺の正体を魔物だと言う事なく。
そんなわけで、兜を装備しなおした俺とシスティは大通りのカフェのテラス席に座っていた。
王都の外やギルドはオーガキングの後処理のお陰で騒がしいので却下。
俺としては宿屋とかの方がいいのだが、システィがここを選んだのだ。
「……ぷはー、生き返る」
額に包帯を巻いたシスティがオレンジジュースを一気に飲み干し、ふーと息を吐く。
どうやら喉が渇いていたらしい。だから、ここを選んだのか。
額から流れていた血は、自分で回復魔法をかけて止血。それから自分で包帯を巻いてとテキパキと処置を行ったために問題はないようだ。
もう、そっちの道で食っていけるのではないだろうか。やけに怪我の対処に慣れているが、理由は怖くて聞けない。
というか、俺がデュラハンだという驚愕の事実を知った後だというのにマイペース過ぎるぞ。
「……さっきはごめんね」
俺がそんな事を思っていると、システィが神妙な顔つきでポツリと呟くように言った。
さっきとは勿論オーガキングとの戦いのことだ。
「あの時、私のせいでデュークが死んじゃったんだって思った。私の魔法のせいでデュークがオーガキングの攻撃を食らっちゃって、あんなに派手な音を立てて……吹き飛んだから……」
目に雫を溜めて俯くシスティ。
蒼い瞳からは雫が溢れて、次々と白い頬を伝う。
真面目な性分のせいか、責任感を人一倍感じるようだ。
いつも魔法をポンポンと俺に当ててはいるが、その後は決まって俺の身体を心配してくれていた。
そして、次こそは当てないように、次こそは魔物に当てて活躍できるようにと。
一人で特訓までして。
若干空回りこそしているけど……。
「でも、俺は普通の人間じゃない。デュラハンだからな。怪我一つしていないし、死んでもいないぞ」
オーガキングの棍棒で打たれた横っ腹を叩いて、大丈夫だとシスティに示す。
システィは俺のそんな言葉を聞いて、ゴシゴシと顔を拭って顔を上げた。
「そうよね。今まであり得ないパワーと防御力をしていたものね。何だかデュラハンだと言われて納得しちゃったわ。私の魔法だって当たってもピンピンしているし」
「だからって遠慮なく当てていいってことじゃないけどな」
可笑しいというふうに笑うシスティに、俺は念のために突っ込んでおく。
システィの魔法くらい平気なんだけれどね。システィのために言っておくのだ。
「……ねえ、デュークは本当に人間じゃなくて魔物なのよね?」
こうしてデュラハン、魔物と話し合えていることが不思議なのか、システィが改めて確かめるかのように尋ねる。
「そうだよ。俺は魔物だよ。ポダ村で手に入れた兜を装備して、人間を装っているデュラハンだ」
「だからあの時、頑なに兜の引き渡しを拒んでいたのね」
兜を軽く持ち上げて首が無い事を見せると、システィが納得したような顔をする。
そりゃそうだ。お互いの事も碌に知らない段階でデュラハンだとバレれば、間違いなく戦闘になっていただろう。
「でも、何のために装っているの?」
「この世界について知るため。そして自分の首を探すためだな」
俺がきっぱりと答えると、システィが目を丸くして。
「え? あっ、そうね。世界はともかく、デュラハンだったら自分の首を抱えているはずだものね。一体どこにやったのよ?」
財布どこに落としたのよ? みたいなノリで聞いてくるシスティ。
「こっちが知りたい! 最初からなかったんだよ!」
「何それー? デュークってばおかしい! 本当にデュラハンなの? デュラハンなのに首が手元にないって、新種の魔物なんじゃないかしら?」
俺の兜を指さして笑うシスティ。こ、この野郎。
「うっさいわ! こっちは大変なんだぞ! 首がなくて喪失感はあるわ、常に兜が落ちないか気を付けないといけないんだぞ!?」
ぶつかった程度では落ちないとわかってはいるが、落ちたが最期なので神経を使うのだ。魔物との戦闘だって、長い帽子を被った上で被弾しないように気をつけなければいけないようなものだ。やりづらくて仕方がない。
さらには、味方の魔法がいつ後ろから飛んでくるかわからないしな。
「そうよね。下手に魔物だってバレたら大騒ぎになるし。…………それなのに、私を助けてくれてありがとう。デューク」
「大切なパートナーだからな。死なれたら困る」
システィにとびっきりの笑顔を向けられて、気恥ずかしくなる俺。
「デュークはこれからも冒険者を続けたいの?」
「ああ、そりゃ勿論だ。この世界を知るにも、首を探すのにも人間として暮らした方が都合がいいからな……」
何の情報もないまま、この世界を歩くには危なすぎる。
未知なる魔物だっているし、危険な場所もあるのだ。あてずっぽうに探すわけにもいかない。
まずは、ここで冒険者として生活をしながら強くなり、お金を貯めてから探す方が絶対いい。
俺だって元は人間なんだ。定住できる場所くらい持ちたい。魔物が蔓延る森は嫌すぎる。
「……パーティーを解散してくれてもいい。だけど、俺の事は黙ってもらえると」
「何言ってんのよ」
俺が兜を下げて頼もうとすると、システィがそれを遮った。
「デュークは私の大切なパートナーだもの。例え正体が魔物であろうと解散なんてしないわ。これからも私のパーティーでいて頂戴」
そして、そんな事を笑顔で言って、手を差し出してくれるシスティ。
システィさんってば、ちょっと男前すぎるだろう。魔物である奴にそんな台詞を言えるだなんて。
デュラハンなのに俺ってば泣きそうになったよ?
ありがとう。恐れないでくれて。
俺はゆっくりと手を伸ばして、システィの温かな手に触れた。
次回少し短いですが、聖女です。
次回にて一章はひとまず終わりです。
二章もすぐに投稿できたらと思います!




