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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
27/63

俺はデュラハン。

 

「ちょっと、あっちで休んでろ! 息整えたらすぐに助けろよ? すぐだからな? 前振りなんかじゃないから!」


 今にも転びそうなシスティへと叫び、前を走らせる。


 対する俺は森の出口を抜けた数メートル先で反転。


 アダマンタイト製の大剣を勢いよく振り抜きオーガキングを待ち構える。


 すると、遅れてオーガキングが巨体で枝葉をへし折りながら森から出てきた。


「ゴアアアアアアアアアッ!」


 オーガキングは待ち構える俺へとギョロリと視線を向け、走った勢いを乗せつつ棍棒を振り下ろしてきた。


 勿論俺はバックステップで回避。


 棍棒はそのまま地面を叩き、巻き上がった石礫が俺の鎧を打ち付ける。


 俺が言うのもなんだが凄いパワーだ。その一撃はワイバーンの骨だって粉砕してしまいそうだ。


 俺のいた場所に小さなクレーターができ、土煙を上げる。


 デュラハンとしてのパワーには自信があるが、通用するかも分からないので様子見だ。あれだけ走って勢いをつけられては、力自慢である自分の力でも押し込まれるかもしれない。


 ゆらりとオーガキングが棍棒を持ち上げ、こちらを睨み付ける。


 黄色い爬虫類のような目が、野生の獣を連想させる。


 すげえ、怖いな。人型の魔物に殺意のようなものを向けられると、ここまで迫力があるのか。


 いや、ワイバーンの時は紫炎がいてくれたお陰で平気だっただけなのかもしれない。


 あれと戦うのか……。ん? いや、待てよ。相手はオーガキング、魔物の上位個体だ。


 魔物の上位個体の中には人間の言葉を理解する個体がいると聞く。ましてや俺も魔物であるデュラハン。もしかしたら、魔物同士通じる何かがあってこちらが頼めば退いてくれるかもしれない。


「もし、聞こえるか。そこのオーガキイイイイイイィィング!? って危ねえな!? いきなり棍棒振ってきやがって!」


 魔物同士歩み寄ろうとしたのだが失敗。俺の兜を狙って水平に横なぎをしてきた。


 俺は慌てて身を屈めてそれを回避。


 危うく俺の兜が綺麗に飛んでいくところだった。


 この魔物、人の急所を的確に狙いやがって。


「ゴアアアッ!」


 俺が心の中で毒づいていると、オーガキングが棍棒を振り下ろしてきた。


 大きく振り上げてきた棍棒に対して、俺は大剣で迎え撃つ。


 打ち下ろされた棍棒とアダマンタイト製の大剣がぶつかり合う。


 大剣から身体全体に衝撃が行き渡り、俺の立っている場所が少し陥没する。


「ゴアアアッ!?」


 力に自信があったのか、攻撃を受け止められて狼狽する声を上げるオーガキング。


 お互い全力ではないが、俺が一方的にパワー負けすることもなさそうだ。


 それにしても、これ人間だったらミンチになっている奴だわ。魔の森のクマ公と戦った時よりも遥かに重い衝撃だ。頑丈な身体が売りであるデュラハンの俺が言うくらいだ。相当なパワーをお持ちで。


 ……あなたでも俺の大剣を軽々と振り回せますよね?


 絶対奪われないように注意しないと。アダマンタイト製の大剣を振り回すオーガキングとか洒落にならない。


 とりあえず、システィへと注意が行かないように鍔迫り合いをして時間を稼がないと。多分アイツはまだ動けないだろうから。


 そんな俺の思いとは裏腹に、オーガキングは左足を出してきた。


「げえっ!」


 予想外の蹴撃に俺の身体が吹き呼ばされる。


 右手で大剣を握りしめて、左手で兜を押さえ落とさないようにしながら俺は地面を転がる。


 どちらも落としてはならない大切なものだ。そして失えばとても厄介な代物だ。


 決闘の最中に足蹴りを使うなど卑怯な!? という騎士みたいな台詞は言わない。


 今は殺し合いなのだ。卑怯だなんて言うつもりはない。相手は魔物なのだし。


 ただ魔物であるオーガキングが鍔迫り合いの時に、足蹴りをしてくるとは思わなかっただけだ。


 あんな体勢からの蹴りだったために力は入っておらず、俺の身体は何ともない。


 視線を上げると、オーガキングが追撃とばかりにこちらへと迫っていた。


「俺を踏み潰す気かよ!」


 俺は慌てて身を投げ出し回避。ヤバい、このままさらに追撃で棍棒を振り下ろされる未来が見える。


 そんな劣勢の中、後方から勇ましいシスティの声が。


「『ライトニング』ッ!」


 後方から飛んできた一条の光はバチバチと音を立てて、オーガキングへと迫り着弾――する寸前に方向を変えて俺の兜を直撃した。


 俺の胴体から面頬付き兜が飛んでいく。


「……あっ!?」


 アイツついにやりやがったあああああああ!


 嫌な予感はしてたんだよ。俺の兜の絵を描いた的にライトニングを当てる練習を見てから、いつか俺の兜を吹き飛ばすんじゃないかって! 


 身を投げ出していた俺はライトニングの直撃により、バランスを崩した。


 オーガキングの体重を乗せた踏みつけを躱す事はできたが、次の棍棒は無理だ。


 そして、オーガキングの棍棒が迫り、今まで感じた事のない衝撃に襲われた。


 いや、この感じは前に体験したことがある。前世でトラックに轢かれたような衝撃だ。


 金属と固いものが接触するような鈍い音を立てて、俺は吹き飛ぶ。


「デューク!?」


 システィの悲痛な叫び声が聞こえる。


 その間にも俺はボロ雑巾のように地を転がっている。


 デュラハンである重量系な俺でもこんなに吹き飛ぶのだ。普通の人間だったらもっと飛んでいるだろう。いや、その前に全身の骨や内臓が砕かれて死んでいるか。


 でもデュラハンだ。脇腹にオーガキングの棍棒を食らおうが死ぬことはないようだ。


 地面を転がる勢いが止まり、うつ伏せになった俺だが未だに意識はハッキリとしている。


 即死というわけではなさそうだ。


 まあ、そもそもデュラハンにとっての死が、どういう状態で迎えるすら分からないが、今は置いておく。


 まずはうつ伏せのままで自分の身体の状態を確認。


 脇腹辺りを叩かれたわけだが、鎧がへこんだり、砕けてもいない。アンデッドのせいなのか防御力が高すぎるせいなのか痛みもないようだ。


 さすがはデュラハン。オーガキングの棍棒を一撃喰らったくらいでノックダウンする身体ではないようだ。


 身体が問題ないのは嬉しい事なのだが。困った。


 今、俺の身体には面頬付き兜が無いし、手元にもないのだ。


 あれほどの攻撃を食らって立ち上がれば人間としておかしいし、今立ち上がれば首が無い全身鎧の魔物。デュラハンだとバレる。


 そうなったら終わりだ。


 もう、二度と王都には戻ることはできないだろう。


 デュラハンとは危険なアンデッドだ。発見されしだい各冒険者ギルドにて討伐クエストが発注される。場合によっては騎士団が派遣されたりするほどだ。


 俺はデュラハンであって、人間ではない。


 一度姿を見られることがあれば、服を変えたり変装することはできないのだ。


 そうなれば、俺は逃げるように王都を去らねばならない。


 こんな姿になったせいだ。人間の姿なら……。


 そんな最悪な事態にならないようにするには……。


 そう、このまま死んだふりをしておけば、バレないだろう。


 このまま死んだふりでもしてオーガキングが通り過ぎるのを持っていれば。


 ――そうするとシスティはどうなる?


 ………………。


 地に突っ伏した今でも、オーガキングの足取りが一歩一歩とシスティの下へと迫っていっていることがわかる。


 首元や胴体がシスティの方へと向いていないお陰で、首が無いことはバレていないが、現在の状況を判断することも難しい。視界の端に辛うじて映っているくらいだ。


「デューク!? デューク!?」


 システィが必死に俺の名前を叫び続けている。


 自分のライトニングのせいで、俺が死んだとでも思っているのだろうか。


 涙声のような声だ。


 俺はデュラハンだから、この通り生きている。とは言えないが、人間なら明らかに致命傷の一撃だ。そんな奴置いてさっさと逃げればいいのに。


 システィはお世辞にも優秀な魔法使いとは言えない。


 魔法使いなのに肝心の魔法が全然当たらなくて、牛から逃げきれるような体力もない。スピードもない。頑丈な俺とは違い、身体も貧弱。


 落ち着いているようだけど、子供っぽくて、負けず嫌いで努力家で。


 そんなどこにでもいる少女だ。


 俺のような一撃を受ければ即死することは間違いないだろう。


「『ライトニング』ッ!『ライトニング』ッ!」


 システィの悲鳴のようでいて、どこか激昂するような声が響き渡る。逃げることでなく、戦う事を選んだらしい。


「ゴアアアアアアッ!?」


 雷が迸り、オーガキングから苦悶の声が漏れる。


 どうやらシスティにしては珍しく、魔法が二連続で当たったようだ。


 本当に運がいいやつだ。こんなピンチの時に当たるだなんて。特訓の成果ってやつか?


 前衛があっさりとやられて、絶対絶命のピンチでありながらも、システィは逃げることなく戦い続けている。


 大した身体能力もないくせに。


 必死になって走り回っている。魔法を相手に放っている。生き残ろうと必死に足掻いている。逃げる選択肢だってあるのに。


 魔法使いとは魔法を放つのに、詠唱を必要とする。


 当然魔法使いはその間無防備となり、敵に攻め込まれる隙となる。


 その時間を稼ぐように相手を寄せつけないのが前衛の役割だ。


 それがなくなった今では、自分の足で移動しながら、相手の攻撃を躱しながら詠唱する必要がある。


 俺は魔法使いではないので、よくわからないのだが。移動しながら詠唱をして、魔力を練り上げるのはかなり難しいらしい。


 実質、システィの息を切らせながら放った魔法は、いくつもが外れ地面を巻き上げている。


 そんな状態でオーガキングの攻撃を凌げるはずもなく、相手の振るった棍棒がシスティの杖を捉えた。


 杖を離すまいと握っていたせいか、その衝撃がもろに伝わりシスティの身体が草原を転がる。


 それは偶然なのか、俺の近くに転がってきた。


 視界の端に見えるシスティの額からは血が流れていた。杖の破片か、地面の石で切ってしまったのだろう。


 そのまま気絶したのかと思いきや、システィの指がピクリと動き、うっすらと瞳を開けた。


「……ごめんね。デューク……」


 システィの口からそんな言葉が漏れる。


 一体、俺は何を考えていたのだろうか?


 強大な魔物であるオーガキングが怖いから?


 デュラハンであることがバレたくないから? 


 冒険者ギルドに討伐対象として追いかけられるのが怖かったから?


 自分の身が大事だったから?


 ――いや、違う。


 大切な仲間に、システィに魔物だとバレて嫌われたくなかったからだ。


 身体能力が高い身体の魔物でも、所詮は心は人間。


 なんて醜いことか。


 何て弱いことか。


 そんな自分の弱い心のせいで、システィは今にも死にかけている。


 嘲笑の籠ったオーガのつんざく声が近付いてくる。


 きっと今にも最後のとどめとばかりに棍棒を振り上げているのだろう。


 デュラハンだから何だと言うんだ。


 日本にいたときだって、自分の意思で少女を救うという選択をして死んだんだ。どうして今回になって目を背けているんだ。


 情けないことしてるんじゃねえよ俺!


 大切な仲間が死にかけてんだろ!


 気付けば俺の身体は、あの時と同じく自然に動いていた。


 すぐ傍に転がっている大剣の柄を手に取り、振り下ろされる棍棒を受け止める。


「ゴアアアッ!?」


 アダマンタイト製の大剣とデュラハンの膂力が、いとも容易くオーガの棍棒を弾いた。


 デュラハンとなって初めて全力のパワーを出したが、オーガキングのパワーくらい余裕だな。


 感慨深く感じる中、弾かれた反動でオーガキングがよろめくように後ろへと下がる。


「――えっ? ……デューク? ……どうして……?」


 地に伏した体勢のまま絞り出すような声を上げるシスティ。


「デュ、デューク!? ……く、首が!?」


「……ああ、俺は魔物。デュラハンだからな」


「……デュ、デュラハン? え? 人間じゃない?」


 困惑するシスティの声を背に受け、俺は大剣を肩に担いで前へと進む。


 悠然とした足取りで。


 もう戻れない。でも、後悔はしない。


「ゴアアアアアアッ!」


 己の力に自信があったせいか、後退したオーガが激昂の声と共に棍棒を振り上げる。


 俺と同じ、技もへったくれもなく力任せに叩きつけるだけのもの。


 俺はそれを大剣で軽々しく受け止める。


「ガアッ!?」


「力比べなら自信があるぞ?」


 そんなバカな!? という風に目を見開くオーガに挑発の声を投げかける。


 それからオーガは棍棒を振り上げ、二撃目、三撃目、四撃目。


 胸、肩、肩、脇腹へと襲い掛かる棍棒を、大剣を動かして受け止める。


 こんな力だけでフェイントも技もない攻撃、怖くない。


 それにパワーだって俺の方が上。自重する意味がなくなった以上、全力のパワーを込めることができる。


 そして、五撃目とばかりに振り上げられた右腕に、俺はありったけの力で振り抜いた大剣を走らせる。


 斬り上げた刀身は、オーガキングの右腕をさっくりと吹き飛ばす。


「ゴアアアアアアアアアッ!?」


 肩から勢いよく血が噴き出し、オーガが絶叫を上げる。


 舞い上がり、地へと落ちた腕がトカゲの尻尾のようにのたうち回る。


 うへえ、気持ち悪い。


 尻尾くらいなら可愛いものだが、オーガの腕程になると気持ち悪いな。


 どれだけ生命力があるんだか。


 のたうち回る腕から視線を戻し、前へと進む。


 そこには苦痛の声を漏らしながら、何とか立ち上がるオーガの姿が。


 左手で右肩を抑えるが、血は止まらない。


 フラフラとした足取りだが、目の光を失ってはいないようだ。


 ギョロリとした爬虫類の瞳でこちらを必死に睨んでいる。


 俺が大剣を片手に近付くと、オーガキングが最期の力を振りしぼるように左手を振り上げた。


 武器がなくなれば爪で、爪がなくなれば角で、牙で。


 コイツは最期まで戦う事をやめないだろう。


 そんな直感の下、俺はオーガキングの胴体へと大剣を力任せに振るった……。



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