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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
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次への期待

 

 煙が上がる方角へと走っていくと、何故か聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「『ファイヤーボール』ッ!」


 声を聞いて、猛スピードで走っていた足を止めてゆっくりと近付く。


 声と煙が上がった場所は開けた場所のようで、そこだけぽっかりと木が生えていなかった。


 地面には芝のような雑草が生えているだけの見通しの良い場所。


 そこには予想通り、システィが立っていた。


 木の木陰から様子を窺ってみるが他に人影もおらず魔物の姿もない。


 つまり、テンプレな新しい出会いはなかったというわけだ……。


 俺は木に掴まりながら、ガックシと膝を折る。


 なんたる事だ。さっきまでの期待を返して欲しい。


 確かにシスティは可愛らしい女性冒険者だけど……だけど、既に知り合いなんです。


 俺は新しい出会いを求めていたというのに。


 しかし、あいつってばこんな森の中一人で何をやっているんだ?


 今日は身体を休めたいって言っていたのはシスティだと言うのに。アレの日だから体調が悪いのではなかったのか?


 改めて様子を窺うと、システィの険しい視線の先には的のような物が地面に突き刺さっていた。


 いかにもその辺に落ちていた木をぶっ刺して、その辺に落ちていた釘で刺して固定しましたといった感じだ。


 システィと木製の的との距離は大体十五メートルってくらいか。


 もしかして、ここで魔法の練習でもしているのか?


「『ファイヤーボール』ッ!」


 俺が首を傾げる動作をして不思議に思っていると、ちょうどシスティが威勢のいい声を上げて杖を的の方へと向ける。


 それから杖から火球が生み出されて、真っすぐに飛んで的を砕く――ことなく、キレのいいスライダーのように右斜めへと逸れていった。


「もう! どうしてそっちに行くのよ!」


 システィが杖をブンブンと振っていきり立つ。


 ……システィ、お前の魔法は既に完成しているのかもしれない。


 誰がファイヤーボールをあそこまでキレよく曲げられるであろうか……。


 というか、さっきからずっと魔法を撃っていたのに壊れた的が立っていないってことは全部外しているのか。


 見れば、そこかしこの地面がファイヤーボールに焼かれたらしく、土が剥き出しになっていた。


「……今日のファイヤーボールは調子が悪いのかもしれないわね」


 システィはというと、少し落ち着いたのか手をアゴに当てて考え込むようにして呟いていた。


 ファイヤーボールに調子にクソもないだろうがと突っ込んでやりたいが、ここはグッと堪えてシスティの練習風景を眺める。


 それからシスティは気を取り直すように深呼吸をしてから、詠唱を始めた。


「『ライトニング』ッ!」


 システィの気合いの込もった声が上がり、杖の先からバチバチと雷が迸る。


 雷は杖から放たれた瞬間、真っすぐに進むことなく、放物線を描くようにカーブして俺の隠れている木へと直撃した。


「あっ……!」


 あっぶねえ! と言いかけた口を閉ざし、俺は姿勢を低くして隠れた。


 ライトニングが直撃した木は、プスプスと煙を上げて中身を剥き出しにしていた。


 表面は赤く赤熱しており、焦げている箇所も見受けられる。


 俺ってばこんな魔法をシスティにぶつけられていたんだな……。


「……当たらないわね。これじゃあデュークに魔法を当てる事ができないじゃないの。昨日だってデュークに馬鹿にされたし……」


 おい、お前の目的は魔法のコントロール力を上げて、魔物を狙い撃てるようになることだろうが。システィのコントロール力のなさを思い知らせるために昨日は挑発したが、断じて俺に当てさせるためじゃないぞ! 目的が違うだろうが!


 シュンとしているシスティを叱りつけてやりたいが我慢だ。俺がしゃしゃり出てシスティの練習を邪魔するわけにはいかないからな。


 せっかくシスティがコントロール力をつけようとしているのだ。俺に手伝えることはないし、ここはシスティの努力を暖かく見守っておこう。


「的にデュークの絵でも書けば当たりやすくなるかな?」


 やっぱり叱りつけてやっていいだろうか?



 ◆



「……的に俺の絵を描いたら、一発で当てた所が腹立つな」


 システィは俺の絵を的に描くと、ライトニングで的を一発でぶち抜きやがった。


 それでシスティは大喜びし、さっきの感触を忘れまいとライトニングの魔法を放ち続けた。舞い上がるシスティを見ていると、次のクエストの時に俺の兜をピンポイントでぶち抜かれないか心配でならない。


 それは洒落にならん。


 結局それ以外に当たったのはもう一発だけであるが、システィは実に満足そうであった。ライトニングが的に二発当たっただけでも、システィにとっては良い成果なのだろう。


 俺からすればあんなに撃ち込んでいたのに、たった二発しか当たっていなくて絶望していたが……。


 それからシスティは日が暮れる頃まで練習を続けて、王都へと帰っていった。


 何だかんだ最後まで見ていた俺はシスティに声をかける事なく、遅れて森から出た。


 視線の先にはシスティが駆け足で道を走っているのが見える。


 練習で疲れているはずだが、無事に成果を上げたので足取りは軽そうだ。システィの青いポニーテールが元気よく背中で跳ねている。


 しかし、システィが自主的に魔法の練習をしていたとは驚いた。


 昨日馬鹿にされたのがそんなに悔しかったのであろうか?


 クエストが終わった後に用事があるとか言っていたけど、昨日も練習していたのではないだろうか? いや、その前からこっそりとここへきて練習していたのかもしれない。


 落ち着いた雰囲気の割には負けず嫌いなところがあるのは知っていたが、まさかこんな森の中に一人で来て練習をしていたとは……。


 まあ、今のところ成果が出ているとは言い難いのだが。


 本当に休養が欲しかったのかもしれないが、実はこっそりと魔法の練習をしたかったのかもしれないな。


 やたらと申し訳なさそうだったし、妙に早口だった。


 練習して上手くなったところを見せて俺を驚かせたかったのかもしれない。


 次の討伐クエストが楽しみな反面、怖い気持ちもあるな。


 ◆


 システィを見送ってから、人気のない草原を進む俺。


 すでに日は暮れて、空が茜色から紫紺の色へと移り変わろうとしている。


 周囲を見渡して誰もいないことを確認した俺は、マントをはためかせて叫んだ。


「来い! 紫炎!」


 俺が紫炎の事を念じながら叫ぶと、目の前の地面から闇色が煌き、浮かび上がるようにして紫炎が現れた。


「ヒヒイインッ!」


 今日も元気にいななき声を上げて前脚を振り上げる。


 紫炎は相変わらず元気そうだ。前回は突然システィが現れたせいか、帰すのが適当になってしまった。


 今日は時間があるので、その分もきちんと労ってやるように首を撫でてやる。


 べ、別に忘れていたのが申し訳なかったとか、そういうんじゃないからな?



 それから俺は紫炎の背中に跨り、草原を駆ける。


 日が暮れた草原には冷たい風が吹き込み、辺りの雑草がサラサラと揺れる。


 辺りに魔物や人の気配はなく、紫炎の走る音だけが響いていた。


 紫炎が突き進む度に冷たい空気が鎧を撫でるように当たって気持ちがいい。


 鎧の隙間にまでヒューヒューと風が通るので、爽快感は半端ない。


 まるで風呂上がりのような涼しさだ。


 辺りはすでに闇色に染まっているが、アンデッドな俺からすれば昼間のように見えている。


 不思議な感覚ではあるが、便利なものだ。


 そうやって駆けていると平原をあっという間に通り抜け、森の中へと入っていく。


 鬱蒼とした森の中は、この世界の最初のスタート地点である魔の森の事を思い出させる。


「……あの時は、走る度にゴブリンが横道から」


「ギイッ!」


 言葉通り、現在飛び出してきたゴブリンへとキックをかます。


 ゴブリンはゴロゴロと転がっていき動かなくなる。


「……さっきのように飛び出してきて大変だった」


「ギイッ!」


「って多いわ!」


 感慨深げに呟く俺の事を邪魔するゴブリン達。迷うことなく俺はデュラハンキックをかましてやる。


 さすがは夜の森の支配者たる魔物達。夜と昼では凶暴性と遭遇率が断然違うな。


 紫炎の足音が大きいせいで集まっているのかもしれないけど。


 何だか牛の首を絞めたり、ゴブリンを馬上から蹴とばすのに慣れたりと、俺の冒険者としてのスキルは偏っていると思うんだ。


 こう、せっかく大剣を手にしたんだから、大剣の扱いを上手くなりたいな。


 まあ、ゴブリンは小さいから蹴る方が楽なんだけれど。


 そんな事を思っていると、俺達の進路を塞ぐようにして立つブルーベアーがいた。


 俺が紫炎の手綱を少し引っ張って躱すように合図。


 もちろん道を塞ぐクマが俺達をみすみす逃がすはずもなく、腕を振るってきたが、俺が紫炎のスピードに乗せて大剣を胴体めがけて振るう。


 重さと勢いがのった大剣は、クマの肉体を容易く切り裂き両断する。


 後方では何かがどさりと落ちるような音がしたが気にしない。


 きっとグロテスクな光景が待っているに違いない。


「大剣の重さと紫炎のスピードを合わせれば、大して振らなくてもすっぱりと斬れるんだなぁ」


 感慨深げに大剣を眺めてから血のりを振り払う。


「よし、このまま魔物を倒して突っ走るか!」


「ヒヒンッ!」


 俺の言葉に紫炎が嬉しそうにいななく。


 久しぶりに走れる事が嬉しいのだろう。


 俺は魔物を屠りながら小一時間、夜の森を紫炎と共に駆け抜けた。



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