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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
22/63

そこにはきっと可愛らしい女冒険者が……!

 

 まさかトカレフ隊長が俺達の近くを巡回していたとは。


 いや、臨時で俺が入っているのが心配だからわざと近くを巡回していたのだろう。


 そのために、揉み合って騒いでいる俺達の声を聞きつけて即座にやってこれたのだ。


 何とか誤魔化して色街の方へと意図的に行こうとしていたのではなく、ただ純粋に色街の方を巡回しようとしていた俺をマカロンが止めていたという風に持ち込む事ができたのは幸いだった。


 マカロンもしょうもない事で怒られたくなかったらしく、話を合わせてくれた。


 真面目な顔してシレッと嘘をつくマカロンの様子を見て、感謝しながらもコイツは油断ならないと思った。衛兵にもこういう特技が必要なのかもしれないな……。


 訝しむトカレフ隊長から解放され、夜の巡回を無事にマカロンと終えた俺は、日当を受け取り帰路へとついた。


 早朝の澄んだ空気の中、紫紺色の空が消え去り、空が白じんでいく。


 大通りの商店街では、朝早くから開店準備を始めていたり、食材を搬入する馬車が行き交ったりと徐々に賑やかになってきた。


 さっきまでは欠伸交じりに準備していた人がポツポツとしかいなかったが、今ではそこかしこから声が上がる程だ。


 この世界には魔道具という便利な灯りがあるが、娯楽も少ないので就寝時間も早い。


 魔道具だって無料ではないのだし、暗くなったら早く寝ようとするのは普通なのだろう。


 だから人々はこんなに朝早くから元気でいられるのだろうな。


 そんな事を思いつつ、歩いているといつもの宿屋へと到着。


 女将に会うと、「今日は朝飯食わないのかい?」とか言われるので物音をできるだけ立てずに二階へと上がっていく。


 システィを起こしてギルドへと向かうにも少し時間が早いので、俺はシスティの部屋を素通りして自室へと戻った。


 自分の身体ともいえる鎧を布でくまなく拭いて手入れをしていると、結構な時間が経ったのか、システィが扉をノックしてきた。


「デューク起きてるー?」


 どうやら昨日の帰り道の不機嫌さは一応飛んでいっているらしい。


 いつも通りのシスティの声だ。


「起きてるぞー」


「入っていい?」


「大丈夫だぞ」


 俺がそう答えると、いつも通りの格好をしたシスティが扉を開けて入って来る。ただし、今日は杖を持っていなかった。


 別に一回目の返事でも入って来て良かったのだが、俺が最初に言った怪我をしている設定を気遣ってか、システィは俺にきちんと聞いてから入って来る。


 その優しい気遣いに良心が痛まないでもないが、こっちだって退けない理由があるので仕方がない。


「デュークってばいつも早起きよね。意外と朝に強いのかしら」


「朝も夜も俺は強いからな」


 アンデッドは眠くならないので、朝も夜も最強です。


「今日もクエストに行くか」


 いつも通りに言葉を発したのだが、システィが申し訳なさそうな顔をした。


「あのデューク、今日なんだけれどお休みにしない? ほら、昨日だって遠くの丘陵地帯まで往復したわけだし、身体を休める必要があると思うのよ」


 なるほど。俺達が王都に着いて二週間近くになるが、身体を休めた日は結構少なかった。


 ブルーベアーを討伐した後と、ドワーフから大剣を受け取る前の日くらいだろうか?


 それ以外にも休める日はあったのだが、王都でお買い物をしたり、店を回ったりと半日潰れた日もあるので、休めたかどうかは微妙だ。


 疲れを知らない俺は特に疑問もなく活動していたが、普通の人間の少女であるシスティには結構キツかったのかもしれない。


 環境の変化や慣れない王都で色々と疲れだってあっただろう。


 システィってば平気そうな顔をしていたし、そんな事に気付きもしなかった。


 俺も異世界に来て慣れない王都であまり気遣う余裕がなかったとはいえ、何と情けないことだ。


「そうだったな。システィの体調を気遣ってやれなくてすまん。俺ってば体力がある方だから、あんまり疲れをしらなくてな」


「え? いや、そうね! 冒険者として身体は基本だから今日はお互いに身体を休めることにしましょう。ごめんね? デュークはお金を稼ぎたいのに」


 俺の返答にシスティが少し予想外と言った顔をする。


 失礼な、俺ってば相手を思いやることができる紳士だぞ?


 というか、最後の言い方は俺がお金の亡者みたいに聞こえるので止めていただきたい。


「じゃあ、そういう事で今日は自由に過ごして、明日からまた頑張りましょう」


 と言って、システィはそそくさと扉を閉めて去っていく。


 何だかいつもよりも早口のような感じで変だったな。


 まあ、できるような雰囲気を出して変な行動をするのはいつもの事だから気にしない事にする


 さて、これで今日の日中は暇になってしまった。


 夜からは昨日と同じクエストを引き受けるので問題ない。どうやらあのクエストは毎日のように貼られているとトカレフ隊長も言っていたし。


 今日はどう過ごすとしようか……。



 ◆



 とはいっても、心を休める必要はあっても身体を休める必要はない俺。


 午前中、ゆっくりと本を読んで室内で過ごした後は、やはりお金を得るために、昼からは荷物運びの雑用クエストをこなした。


 俺の身体能力にかかればどんな重い荷物であろうとあっという間に運ぶことができ、簡単に荷物運びのクエストは終わった。冒険者なんて辞めて、うちに来いという言葉をもらったが丁重に断った。俺が紛れるには冒険者が一番なんだ。


 それに異世界に来たと言うのに、荷物運びとか夢が無いし、首を見つけることだってできないだろう。


 そんな感じで同じようなクエストを昼に二件こなした俺は、夕方前になり暇を持て余した。太陽はどんどんと下ってはいるが、まだ日は落ちていない。


 夕方前になるとこういった雑用クエストが少なくなってしまうためだ。


 他のクエストは夜の巡回クエストと重なったりするし、合わないものだったりするので却下。


「うーん、疲れない身体ってのは便利だけど、結構時間を持て余すなあ」


 俺は道の端にあるベンチに腰を掛けて呟いた。


 普通だったら疲れた体を癒すために風呂に入ったり、お菓子を食べに行ったり、自分でご飯を作ったりするのだけれど、どれも必要がないしな。


 自分では食わないし料理を作る意味もない、汗だってかかないので汚れることはない。


 一応きちんと毎日鎧を拭いてはいるが、すぐに終わるし、第一外でやる行いでもない。


「うーん、どうやって時間を潰そうかなー」


 そんな風にぐったりと腰を掛けていると、一台の馬車が道を通った。


 馬車かー。車やバイクでドライブにでも行けたら時間は潰せるし、気分転換になるなあ。


「おお! そうか! 俺には紫炎がいたじゃないか!」


 ガバッと突然立ち上がり声を上げる俺に驚く人がいたが気にしない。


 それにしてもすっかり忘れるところだった。俺には紫炎がいるから気軽にドライブにいけるじゃないか。


 いや、でも夕方にはクエスト帰りの冒険者とかが歩いているかもしれないな。


 暗くなるか人気のない所までは歩いて、そこから紫炎に乗ることにしよう。




 ◆



 大剣を取りに宿屋へと戻った俺は、ギルドにて巡回のクエストの受注を済ませると颯爽と王都の外へと飛び出した。


 思えば、一人で王都の外を出歩くのは初めてだった。


 王都の周りに広がる丘陵地帯を眺めながら俺は歩く。


 どうせあとで紫炎に乗るのだから冒険者が通りそうな大通りは避けた方がいい。


 とは言っても、夕方に王都の外を歩いている冒険者なんてほとんどいないのだけれど。


 夜になると視界が悪くなる上に魔物が活発になって危険なのだ。こちらは視界が悪いというのに、向こうからは問題なく目で視認されたり、匂いで位置を特定されたりと明らかに分が悪いのだ。


 誰もそんな時にクエストを受ける者はいない。人間は魔物と違って基本的な能力は弱いのだ。誰だって有利なステージで、状況で戦いたいに決まっている。命が懸かっているなら尚更だ。


 俺ってばアンデッドだから夜目が利いてくっきり見えるのだが、魔の森の時のようにひっきりなしに襲われるのはゴメンだ。


 夜にはどんな魔物が出て来るかわからないからな。


 そんな感じに大通りの道を避けて適当に歩いていると、森の方から突如爆発音が響いた。


「び、びっくりしたぁ」


 心臓ないけど、飛び出るかと思ったぞ。


 俺が突然の爆音に身体をビクつかせていると、再び一発、二発と爆発音が響き、煙が上がっていく。


 もしかして、これは誰かが魔物と戦っていたりしているのだろうか?


 その中には可愛いらしい女の子の冒険者がいたりしちゃって、颯爽と駆けつけた俺が助け出して仲良くなったりするイベントでは?


 異世界にきてそういうテンプレに遭遇しなかった俺だが、ついにその時がやってきたのか!


 いや、そうに違いない。


 俺は煙の上がる森の中へと走り出した……!




今日はもう一話更新できるかと。

聖女の出番が近くなってきました。

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