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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
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マカロンと夜の巡回

50万PV突破! ありがとうございます!

 

 すっかり不機嫌になったシスティとクエストの達成報告などを済ませると、本日はギルドにて解散となった。


 俺は夜の巡回任務を受けるためにギルドへと残ったが、システィは用事があると言ってトボトボとどこかへと消えていった。


 魔法が全て外れてしょぼくれていたので、今日は美味しいものでも食べに行っているのかもしれない。


 そうだとしたら羨ましい限りだ。


 俺だって仕事終わりに酒を呑んで、美味しいものを食べてわいわいしたいぞ。


 しかし、この身体ではなあ。


 自分の身体を眺めて、俺は深いため息をつく。


 試しに、前世で食べた数々の料理を思い浮かべてみる。


 焼肉、ラーメン、唐揚げ、天ぷら、お寿司……。


 人間だった頃は思い浮かべただけで、涎が出ていたというのに今は全く食欲が湧かないな。


 空腹を感じないというか、満タンでもないし。常に万全の状態なのだ。


 これなら、俺ってば偉い仏様になれるんじゃないかってくらいだ。断食とか余裕だ。


 まあ、今はそんな事よりお金だ。


 クエストが終わって冒険者達が宴会ムードの雰囲気を醸し出している中、俺は掲示板へと向かう。


 夜の巡回任務。夜の王都の巡回と城門の警備。


 朝と変わらない様子で残っているな。


 まあ、こんな深夜から働くバイトみたいなクエストは誰も受けないのであろう。


 普通にお金が欲しかったら、日中に討伐クエストでも受けた方が遥かにお得だからな。俺は日中と深夜に両立できるから問題ないけど。


 俺は颯爽と貼り紙を剥がし、受付へと向かった。



 ◆



 夜の巡回任務が始まるのは深夜前。


 日が暮れるまでの間に雑用クエストがないかと探したが、どれも中途半端だったりして、いいのが無かった。


 なので、街中をぶらぶらとしたり宿に戻ってぼーっとしたりと思い思いに過ごした。


 すると時が過ぎるのは早いもので、いつの間にか日が暮れていた。


 ここだけを見れば典型的なダメ人間に思えるが、俺は日中に討伐クエストをこなしているので問題ないのだ。


 宿の外へと出れば、多くの人々が呑めや歌えの大騒ぎをしている。


 そんな喧騒をどこか羨ましい気持ちで眺めながら大通りを歩き、俺はクエストの集合場所である広場に向かった。夜も仕事です。



 そこには既に多くの衛兵達が集まっており、これから巡回の仕事をするのだという事が一目でわかった。


 俺と同じようにやってきた衛兵達は夕方の巡回メンバーらしく、仲間たちに気さくに声をかけて奥へと消えていった。


 ギルドからきちんと話は伝わっているらしいので、偉い人に声をかければいいと思うのだが。誰が偉い人なのかわからない。


 誰に声をかけたらいいんだ?


 そんな風にキョロキョロと周囲を見渡していると、見た事のある男を見つけた。


 というか、視線が合った。


「おーい! マカロン!」


「「マカロン?」」


 俺がマカロンに手を振ってやると、衛兵達がざわめき出した。


 俺は知り合いであるマカロンに手を振ったのだが、奴は視線をぷいっと逸らして知らんぷりをしやがった。


 マカロン何無視してんだよ。今目があったよな? 衛兵に用がある時は自分の名前を出せばいいって言っていただろうが。


「マカロンって誰だ?」


「何か可愛らしい名前だな。女か?」


「あたしたちの中に、マカロンなんて可愛らしい名前している女はいないけど?」


 やがて衛兵達は、俺が手を振る方角へと視線を向け……。


 そこには真っ赤な顔をして顔を背ける、マカロンの姿があった。


「あー! 何だマカロンってマカロフの事か!」


「んだよ、名前を間違えているだけか。誰かと思ったぜ。一文字違うだけでこんなにも印象が変わるんだな」


「おーい、マカロン! お友達が手を振って呼んでるぞ?」


 一人の男がマカロンの名を呼ぶと、途端に衛兵達が笑い出した。


 何だ、あいつってば神経質そうな顔しといて結構人気者なんだな。


 俺が感心しながら手を振ってやると、マカロンが耳まで赤くしてツカツカと近付いてきた。


「どうしてお前がここにいる? ここは衛兵が夜の巡回へと赴くための集合場所だぞ? あと、俺の名前はマカロフだ! いい加減に覚えろ!」


 胸倉を掴まんばかりの勢いで顔を近づけて言うマカロン。俺の身体が鎧でなければ胸倉を掴んでいたに違いない。


「いや、ギルドで巡回クエストを受けたからやってきたんだけど。ギルドから聞いてない?」


「……何? お前がこのクエストを受けた酔狂な冒険者だったのか」


 俺が決して冷やかしにきたのではない事をアピールすると、マカロンの表情が少し落ち着く。


 酔狂とは何だ。酔狂とは。


「ギルドから話は聞いている。お前が我々のクエストを受けてくれた冒険者デュークだな? 俺は隊長のトカレフだ。冒険者カードを見せてくれ」


 チョビ髭を生やした少し偉そうな口調の衛兵が出てきた。がっしりとした体格には筋肉がしっかりとついている。


 この人が隊長らしいので、俺は冒険者カードを渡す。


「うむ、問題ないな。じゃあ早速クエストをやってもらおうか。とは言っても特に説明がいるほどのものでもない。夜に怪しげな行動をする輩がいれば尋ね、注意を。実際に犯罪まがいの事をする奴がいれば捕まえるだけだ。まあ、王都は平和なもんだから滅多にそんな事はないがな」


 がははと笑いながら俺に冒険者カードを渡してくるトカレフ。見た目の割には結構気さくな人らしい。


「まあ、我々は人々の安全を守るためにいつでも全力で仕事を全うするのみだ。ただ歩いていればいいと思っていたり、寝たりできると思うなよ?」


 案に楽な仕事と思ってサボるなよ? と言ってくるトカレフ。


「心配いりません。しっかりと働きますとも」


 だってこちとら寝れないしな。王都を散策しながらお金が貰えるなんて、俺からすればご褒美だぞ。


「まあ、さぼってたら俺か他の衛兵がシバくがな。とりあえず、お前らは知り合いのようだし丁度いいな。マカロン! お前がデュークと組め!」


 隊長であるトカレフから厳かな口調で言われると、いつもの癖なのかビシッと敬礼をするマカロン。


「はっ! 了解であります! はっ、いえ、自分はマカロフです!」


 広場は賑やかな笑い声に包まれた。



 ◆



 月明かりと僅かな街灯の光に照らされる王都。


 大騒ぎしていた人々の声は徐々になくなり、ほとんどの人が眠りにつく。


 賑わっていた店から次々と光が消え、大通りは静寂に包まれている。


 見上げれば夜空には多くの星々が見えて、とても綺麗だ。灯りの殆どない異世界の夜空は透き通るように輝いていた。


「……お前のせいで俺の名前が……」


 そんな光景をぶち壊すように、隣でブツブツと言いながら歩くマカロン。


 全く、一緒に歩いている俺の気持ちになってほしい。


 それに最後に自滅したのはマカロン自身じゃないか。


「何ブツブツ言ってんだよマカロン」


「マカロン言うな。マカロフだ」


「はいよ、マカロン」


「マカロフだ!」


「夜中に大声を出すな。人々の迷惑になるだろ?」


 全く、ネタだというのに分からん奴め。これくらいあっさりと受け入れるくらいの柔軟性は、生きていく中で必要だと思うぞ?


「……もういい。お前の相手をしていてはこっちが疲れる。どうせ興味本位で一日受けてみただけだろ? 冒険者がこのようなクエストを毎日受けられるはずがないからな」


「いや、俺ってば、しばらくこのクエストを受けるから。よろしくな」


「何故だ!? お前、冒険者としての仕事はどうした?」


 きっぱりと告げる俺に、マカロンが目を見開く。


「勿論、日中もクエストを受ける。理由は金がないからだ!」


 金欠という状態はあまり好きじゃない。金に余裕がないと心にも余裕がなくなるものだから、早めに借金は返しておきたい。


「そこまで困窮しているのかお前は。……もしや外道魔法使いに搾取されているんじゃ……」


 後半はブツブツと言っていたせいか聞こえなかったが、食費などもかかっていれば困窮していたに違いないな。野次馬冒険者のように昼飯は酒場でセットメニュー。夜は安酒を呑み、ボロイ宿に泊まって寝る。


 俺にとっては宿代しかいらないので、そのようにはならんがな。食事も水も不要だし。


 そんな俺の中での唯一の欲望は、プライベート空間は心休まる快適な空間で過ごしたいというもの。


 なので、現在は結構なお値段のする宿に泊まっているのだ。


 だが、結構な値段のする宿屋と言えど、所詮は多くの他人が住む宿屋。


 飯を食わないでいると、女将に「今日も飯は食わないのかい?」と聞かれるし、他にも多くの客が泊まっているので夜は静かに過ごさないといけない。


 正体がデュラハンである俺からすれば、他人がいる時点で安心できない。


 なので、誰も住んでいない俺のための一軒家が欲しいのだ。そこでのびのびとしたい。


 それにはやはり金が必要だ。


 異世界に来てもやはり世の中お金なのかねー。


「おい、そっちは色街だぞ」


 俺が考え事をしながら歩くと、マカロンが制止の声がかかる。


「……巡回任務だから仕方がない」


 こんな身体になってしまっては使用不能ではあるが、異世界の色街には大いに興味がある。


 きっと綺麗な女性達がたくさんいるに違いない。獣人とかエルフとか色々いるに決まっている!


 どうせ散歩するなら、綺麗な女性達が多くいる場所を歩きたい。そう思うのは男なら当然だろう?


 それに色街にも多くの人々がいるのだ。そんな場所の安全を守るのは勿論、俺達衛兵の仕事だ。そう、仕事なのだ。


「待て! そっちは俺達の管轄じゃないのだ! 戻って来い!」




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