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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
19/63

王様ペンギン

 

 王都のそばにある丘陵地帯のその奥。


 エイギルバッファロー達があまり棲息していない場所にまで俺達はやってきていた。


 前方には森が広がっており、この先は森なのだという事がわかる。


 それくらい奥に来ており、振り返れば王都の城門が遥か遠くぼんやりと見える。


 ここに今回討伐対象になっている王様ペンギンとかいう、ふざけた魔物がいるらしい。


 システィの話を聞く限りは、大きなペンギンのような魔物という事がわかっている。


 海鳥の癖にどうしてこんな陸地にいるのだとか突っ込みたいが、魔物に突っ込んでもどうしようもないことは身を以って知っているので気にしない事にする。


「ここら辺に王様ペンギンがいるはずよ」


 立ち止まったシスティが手に持った杖で地面をコンと叩いて言う。


 俺も立ち止まって周囲を見渡してみるが、ペンギンらしき姿は見受けられない。


「……いないみたいだな」


 ペンギンという事もあって余り強い魔物ではないが、このクエストは緊急性、急いで解決して欲しいというクエストのために報酬が良い。


 その理由は、丘陵地帯にいる牛たちを冒険者達が狩り過ぎたために、奥にいた王様ペンギン達が王都の近くにまでやってくるようになったのだとか……。


 俺達が牛釣りを考案してしまった為に引き起こされたものなので、何となく気分が悪かったというのが引き受ける大きな理由だ。


「そうね。でも、何だか最近は魔物が多く出るって聞いたから王様ペンギン以外の魔物にも注意しておいてよね」


「おお? それは初耳だな。ギルドの受付嬢が言っていたのか?」


 副業のクエストを眺めていて、今回の受注手続きはシスティに任せていたしな。


「ええ、何でも他の冒険者達もこの辺りでクエストを受けて、多くの魔物と遭遇しているらしいのよ」


 できるだけ他の冒険者の会話には耳を傾けていたつもりなのだが。聞いたことのない情報だ。


 森の中に入れば、魔の森のようにたくさんの魔物と出会うというのは当たり前だが、丘陵地帯で多くの魔物と遭遇するのは珍しいな。


「森から魔物が出てきてるってことか?」


「ブラックウルフとか見たって人もいるらしいし、そうなんじゃないかしら?」


 牛釣りのせいで、森の魔物が丘陵地帯に出てくるようになったとは思いたくない。


 というか、本当に違うよな?


「まさか、牛釣りのせいで森の魔物も出てくるようになったとか?」


「いや、さすがにそこまでは……ないとは言い切れないけど」


 システィの脳裏にも同じ考えが過ぎっていたのか、複雑な表情をしている。


「けれど、森の魔物は滅多なことじゃ出てこないし、きっと違うわよ」


「そうだな」


 俺達はきっとそうだ。俺達のせいではないと言い聞かせるように頷いて、探索を開始した。



 ◆



「あれが王様ペンギンか。想像していたよりもデカいな」


 見通しの良い丘陵地帯なだけあって、王様ペンギンとやらはすぐに見つかった。


 全長は二メートル近くあり、俺より大きいか同じくらい。


 お腹のところだけは白い毛が生えており、あとは真っ黒のフワフワとした毛が生えている。


 顔の眉部分に黄色い毛が生えているのと、垂直な胴体のせいでどこか偉そうに見えるのが腹立たしい。


 通常のペンギンのサイズの二倍以上あるのだが、ここまで大きいとあまり可愛く見えないな。


 何かここまで大きいと鳥人みたいな。


 幸い手足が短くてフワフワしている毛に包まれているお陰で、そこまで気持ち悪くはないが。


「王様ペンギンが二体いるだけで、他の魔物の姿は見えないわね」


 システィが周りを見渡しながら呟く。


 あそこまで大きいと二羽というよりも、二体の方がしっくりくるな。


「まあ、念のために森の方向には注意しておくことにしようぜ」


「ええ、そうね。もし、他の魔物がやってきても、今日はドワーフからもらった大剣もあることだし何とかなるわよ」


 お前がその台詞を言うと、ロクな事にならない気がするので止めて欲しいのだが。


 ここに来る途中で素振りをしたり、実際に魔物を倒したりして調整しているのだが、俺は剣の達人ではないので過度な期待はしないでもらいたい。


 しょせんは身体能力に任せて振り回しているにすぎないのだから。


 このクエストが終わったら誰かに教えてもらおうかな。ドレイクが大剣を使っていた時があるとか言っていたし。あいつに教わるのは癪だが。


 そうこう言っている間に王様ペンギンもこちらに気付いたらしく、奇声を上げて短い手を威嚇するように広げ出した。


 それから二体はドタドタと暴れるようにして、こちらへと接近してくる。当然スピードは遅い。


 しょせんはペンギン。飛べないし歩く事も困難な奴等だ。


 そんな奴等がどうして陸地にいるのかは知らないが、とんだカモだ。


 俺のアダマンタイトの大剣で叩き斬ってやる。


 俺は背中にある柄へと手を伸ばして一気に引き抜く。


 重厚な金属音が鳴り、大きな刀身が鞘から放たれる。


 適度な重さが俺の手にかかるのが頼もしい。


 調子を確かめるかのように大剣を一振りし、俺はペンギンめがけて走り出した。


 このまま行けば機動性の高い俺が、容易にペンギン達を切り刻んでやることができるだろう。何せ相手は走る事さえ覚束ない魔物なのだから。


 優雅にマントをはためかせて走っている俺に対して、ペンギン達は荒々しく腕を振って走る。


 それはもう空をも飛ばんとする勢いでバタバタと手を振り――そして、ペンギンの身体がフワリと浮いた。


「はあっ!?」


 あの巨体が、ペンギンがその身を宙へと浮かべた事に驚き、俺の足が止まる。


 なんと、ペンギンが浮いているのだ。


「こ、ここのペンギンは飛ぶのか!?」


「ペンギンなのよ? 飛ぶに決まってるじゃない」


 予想もしていなかった事態に戸惑いの声を上げるが、システィがさも当然と言う風に言ってきた。


「飛ぶなら飛ぶって早く言えよな!」


 ビックリするし、相手が飛べるというアドバンテージはデカいぞ。


「ええ? デュークがペンギンっていう生き物を知っている感じだったから、そこまで言わなくていいと思ったんだけど?」


 いや、確かにペンギンは知ってるって言ったけど……いや、前世のペンギンと異世界のペンギンが同じだろうと考えていた俺が悪かった。


 これからは軍隊アリであろうが、ただのアリだと思いこまずにしっかり聞いておこう。


「それより王様ペンギンが来るわよ! ちゃんと構えて!」


 システィの声に現実へと戻ると、バタバタと腕を動かしたペンギンがこちらへと接近していた。


 何だか飛ぶというよりは浮くという感じに近いな。


 それからペンギンは俺達のいる場所めがけて落下。


 俺達はその場から急いで離れて回避。落下の衝撃で地面がズシリと揺れる。


 体重の重い俺は平気だが、体重が軽いシスティは衝撃で少し足元がふらついていた。


「グワアアアッ!」


 身を震わせて腕を大きく広げるペンギンへと俺は突撃する。受け身になっていると何をしてくるかわからない。


 ペンギンの一体が身を屈めて、大きな嘴を突き出してくる。


「うおっ! 結構速いな!」


 ついばむという簡単な攻撃なのだが、これが意外と速いのだ。突き出したら瞬時に戻し、再び突き出す。


 ただ単純な攻撃なのだが、その攻撃スピードが恐ろしく速い。


 まるで槍使いを相手にしているようである。


 愚直なまでに突き出してくる嘴を躱し、嘴へと横から大剣を思い切り叩きつける。


 嘴を大剣の腹で容赦なく叩いた事により、ペンギンが悲鳴を上げて大きくのけ反り、倒れ込む。


 しょせんはペンギン。ちょっと押してやれば簡単に倒れ込むじゃないか。まあ、規格外の重さの大剣を叩きつけられれば誰もが倒れると思うけど。


 倒れ込んだペンギンへと馬乗りになり胸へと大剣を突き刺すと、ペンギンはビクンと短く痙攣をして動かなくなった。


 大剣そのものに重さがあるお陰で簡単に突き刺さったな。


 ふっくらとしたペンギンの腹の上でそんな事を思いつつ、俺は視線をシスティの方へと向ける。


「『ファイヤーボール』ッ! 『ファイヤーボール』ッ!」


 逃げながら魔法を放つシスティだが、その火球は浮いているペンギンに一つも当たっていなかった。


 相変わらずのコントロールのなさだ。


 別に今から応援に駆けつけて、俺が戦ってもいいのだがシスティの練習のためにも見守ることにする。


「ちょっとデューク!? そっちが終わったんなら早くこっちに来なさいよ! 『ファイヤーボール』ッ!」


 走りつつ、詠唱を完成させて魔法を放つ一連の流れは完璧である。


 移動しながら魔力を練り上げて、詠唱をし、魔法を発動させることは難しいらしいのだが、システィはそれをしっかりとこなしている。


 ただし、一つも魔法は当たっていないが……。


 神様はどうして彼女にコントロールという才能を与えなかったんだろうか。不憫でしょうがない。


 と、嘆いていると気になることがあった。


「おい! というかお前! ファイヤーボールを五回放っているけど当たってねえじゃねえか! 前に五回に一回は当たるって言ってただろ!?」


 そうゴブリン退治をした時に、システィはファイヤーボールなら五回に一回は当たるとかぬかしていた。


 ファイヤーボールを既に五回放っているが、一つも当たっていないじゃないか。


「は、走りながら撃つと命中力が下がるのよ! こ、これは魔法使いとして当たり前の事なのよ?」


 少し焦ったような声を出すシスティ。


 本当かぁ? サバ読んだんじゃねえのか?


 それでも腕のいい魔法使いは、走りながらでも八割は当てるんだろうなと思う。


 このまま、システィが魔法を当てるまで見守っていたい気持ちもあるが、システィが息切れしそうなので俺が片付けることにする。



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