現実は厳しいものだ
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台座から勇者の如く、大剣を引き抜いた俺。
誰も一人で抜く事ができなかった大剣を一人で引き抜いた事により、俺は多くのドワーフ達から賞賛の声と拍手をもらった。
こういうのってドワーフに気に入られて「無料でもってけ!」ってなるイベントだよな?
誰もまともに使う事ができない武器だし、余興にしか使われていなかったから、当然そうなると思っていた。
なのに、あいつときたら「浪漫だけで食っていけると思うな。浪漫割引してやるから少しは金を払え」と言ってきた。
何が浪漫割引だよ。一気に現実に引き戻された気分だ。
どれだけ引かれているか知らないが、ドワーフの提示した額は俺の手持ちである八十万キュルツを遥かに超える、二百万キュルツだった。
高いとごねると、潰して他の製品の材料に回すとか言ってきた。
勿論、浪漫を追い求めるドワーフがそんな事はしないとわかってはいたが、アダマンタイトでできた高性能な大剣。
他の店に行っても、これと同等の重さの大剣もないので分割払いで払う事にした。
払う事になった決め手の一言はシスティによる、実際は何千万以上もするという一言。
それが俺を素直にさせた。
そんなわけで俺は絶賛金欠中なのである。
「とにかく、楽に大金を稼げるクエストを見つけるぞ!」
数日後。手入れと鞘の新調を終えた大剣をドワーフから受け取った俺は、朝早くからギルドへと来ていた。
「お金がないのはわかるけど、そんな都合のいいクエストなんてあるわけないじゃないの。そういう事ばかり言っていたら、いずれああなるわよ」
クエストボードへと向かう中、システィが一つのテーブルを指さした。
そちらへと視線をやると、野次馬冒険者達が仲良くテーブルに突っ伏していた。もはや顔面をテーブルにうずめていると言っても過言ではないくらいに。
「ああー、眠い。今日もロクなクエストがねえな。もっと楽に稼げるクエストとかねえのかよ。立ってるだけでお金が貰えたりとか、綺麗なお姉ちゃんと話しているだけでお金が貰えるとか……」
「全くだ。ギルドはもっと俺達にいいクエストを紹介するべきだ」
「エイギルバッファローの時は良かったよな。デュークに囮になってもらえば、楽に仕留める事ができたもんな。いやー、あのクエストは美味しかったね」
「それが、今じゃ一頭につき八千キュルツだろ? しかも、納品したらセットメニューがステーキだけになるしよ」
「「「「はぁー……」」」」
朝からこちらの元気まで奪っていくようなだらけっぷりだ。
あれは悪い例なのだと思うが、金欠中の俺からすれば同意できる事が多い。
ギルドももっと割のいいクエストを俺達に紹介するべきだ。
まあ、俺は飯も食べない身体だから牛釣りで稼いでもいいのだけれど、そうすれば酒場のセットや宿屋の料理がステーキになり、他の冒険者から袋叩きにあってしまうしな。
背中にはどっしりとした重みが加わった俺だが、懐は酷く寂しいのである。
「おお? デューク! 背中に背負ったソレ、新しい武器でも買ったのか!?」
野次馬冒険者から視線を切って、クエストボードへと行こうとした俺だが奴等の一人が声をかけてきた。
一人が気付くと、他の三人まで同時に顔をこちらに向けてくる。
顔をテーブルに押しつけたままの状態で見てくるもんだから、気持ち悪いなんてもんじゃない。お前達顔潰れすぎだろう。
「大剣か。まあ、お前の体格だったら当然だな。どれどれ、俺は前衛の戦士で力には自信があるんだ、ちょっと持たせてみろよ」
一人が立ち上がって寄って来たが、他の奴等は傍観するだけらしい。口を半開きにして、潰れた顔面でこちらを見ている。やめろ、その顔でこっち見んな。
ただ普通に触らせるのもつまらないために、俺は野次馬冒険者にこう言ってやる。
「いいぜ。お前がこの大剣を持てたら一万キュルツをやるよ」
「マジかよデューク! お前ってばバカなのか? こんなのドレイク様にかかれば余裕だぜ! 今更なしって言ってもダメだかんな?」
瞬く間にやる気を出して腕まくりをする野次馬冒険者。
というか、ドレイクっていう名前だったのかコイツ。
「ああ。勿論だ。その代わり持ち上がらなかったら、ドレイクが一万キュルツ払えよ?」
「勿論だとも。ルールはそれだけだな?」
ドレイクが不敵に笑って聞いてくる。
何だ? この悪だくみをしていますよという顔は。
「ああ、そうだよ」
「うはは、デュークってばやっぱりバカだな? 少しでも持ち上がれば俺の勝ちなんだぜ? よーし、今日の晩飯代は頂きだぜ!」
ああ、なるほど。随分と屁理屈のような事を言うが問題ないな。
なんせそれは普通の人間だと一ミリも持ち上がらんし。
「うおおおおお! デュークに金巻き上げられたあああぁ!」
「ははは、毎度アリ」
予想通り一ミリも上げることができなかった、ドレイクが涙目で仲間のテーブルの方へと走り去っていく。
それに対して俺は、貰った金貨を指で挟んで見送ってやる。
「……お金がないからってやり過ぎよ。ドワーフでも持てない武器なのに、持ち上がるわけないでしょ」
隣にいるシスティが呆れと非難が混じったような声を出す。
「もしかして、これって結構儲かる商売なんじゃ。挑戦者に五千キュルツくらい賭けてもらって、持ち上げられなかったら終わり。成功者が出るまで挑戦料金が成功報酬に加算されていき、次々とお金に目がくらんだ挑戦者がやってきて……」
「お金に目がくらんでいるのはデュークの方よ。そんな事をしたらドワーフに言いつけるからね」
俺の素敵かつ大胆な商売だったが、システィの一言で潰された。
そんな事をしたらドワーフ達が怒りそうだ。浪漫割引なしとか言われたら本格的にヤバいのだ。
「わかった、わかったってば! もうやらないから」
髪を翻して歩くシスティの後ろを、俺は慌てて追いかけた。
クエストボードを眺めると、今日もボードを埋め尽くさんばかりの貼り紙がある。
「せっかくだから、この大剣の振り心地を試せる討伐クエストがいいなー」
俺の新たな相棒の感触を確かめるように、背中から突き出た柄を握る。
こうして自分だけの武器を持っていると、本当にファンタジー世界の冒険者になったみたいだ。
まあ、実際にファンタジーな世界だし冒険者なんだけどね。まだ駆け出しだけど。
ちなみにシスティの短剣は返却してある。自分の武器が手に入ったし。
何かあれって高級そうな雰囲気だしてるから扱いづらいんだよ。壊したらいけないオーラが出ているというか。
そんなことで、今は代わりに剥ぎ取り用の安物ナイフを腰に装備している。これで十分だ。
「そうね、せっかく武器を手に入れたんだしねー」
討伐クエストという形で方向性が決まった俺達。
たくさんある貼り紙へと視線を巡らせていく。
とは、言ってもそれだけじゃお金が足りないしな。何か一人でもこなせる副業的なものはないだろうか?
どうせ俺ってば夜は眠らないんだし、何か夜にできる内職的なものを受けよう。
うん、不眠の俺と相性がばっちりじゃないか。
これで夜の長い時間が潰れるし、お金も手に入る。まさに一石二鳥だ。
そう考え、討伐クエストはシスティに任せて副業となるクエストを見ていく。
紙の加工、箱の組み立て、バリ取り、縫製作業、造花づくり……。
安い、安すぎる。一個当たりの単価が一キュルツだったり、数百キュルツ程度じゃないか。
数百キュルツのものなんて、一個作るのに時間がかかったりスキルが必要だったりする。
なかなか現実は厳しいな。
これだったら夜にできるクエストを受けた方がいいんじゃないか?
色街の店の警備員、とある商人の護衛、居酒屋の臨時店員……ロクなやつがないな。
さすがは何でも屋の冒険者。バイトみたいに何でもあるな。
しかし、夜のクエストはどれもこれも問題に巻き込まれそうだ。連行される事態は避けたいので却下だ。
全く、いいクエストはないのかよ。そんな風に視線を巡らせていくと、一つの貼り紙が目についた。
「お?」
急募。夜の巡回任務。夜の王都の巡回と城門の警備。
おお、これって衛兵のマカロンがやっていた仕事だよな?
夜の王都を散歩するだけでお金が貰えるって結構美味しい仕事だよな? 王都の地理や情報にも詳しくなるし。
深夜から朝までで報酬は一万五千キュルツ。
いいじゃないか、討伐クエストのついでに受けておこう。
「これなんてどうかしら? 王様ペンギンの討伐!」
俺が夜の巡回クエストを受けるのを決めたと同時に、システィが威勢のいい声を上げて一枚の貼り紙を手に取った。
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