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俺はデュラハン。首を探している  作者: 錬金王
一章 首無し騎士の冒険者
15/63

牛釣り

 

 王都から東にある森林地帯。


 ここにブルーベアーが棲息しているとのことで、俺達はやってきていた。


「いたわ、ブルーベアーよ」


 そして、茂みに隠れる俺達の向こう側には、ずんぐりとした体型の青いクマが座り込んでいた。


 どうやら今はお食事中らしく、何かの木の実を食べている。


 向こうはこちらに気付いていない様子だ。先制攻撃は貰ったとも言えるだろう。


「それじゃあ、私が最初にライトニングを撃ち込むから、それからデュークが斬りこんでね?」


 なるほど、ということは不意打ちによる奇襲は失敗で、いきなり俺とクマの一騎打ちだな。


「はいはい、頑張れー。システィならやれるさ」


「ちょっと棒読みで言うのやめてくれない? あからさまに期待されていないみたいなんだけれど!?」


 俺の応援の言葉にシスティが憤慨した様子で掴みかかってきた。


 その通りだから棒読みなのだが。むしろ、当たったらラッキーな宝くじみたいな感覚だ。絶対に当たらないとわかりながら、挑戦してみるあの感じ。


 ちょっとした余興に近いのかもしれない。


「大丈夫。クマとの一騎打ちは慣れてるから任せろ!」


「それって私のライトニングが外れるってことよね!?」


「ちょ、お前! 声がデカいって!」


 そんな風にシスティが暴れて声を大きな声を出したせいで、クマが食事を止めて首をキョロキョロと動かし始めた。


 全くもう、システィがくだらないことで大声を出すから。


 当の本人はと言うと、手で口元を覆って三角座りで大人しくしている。


 最初からそうしてくれれば良かったのに。


 それからしばらくして、クマが警戒を緩めて食事を再開しだしたところで俺達は動き出す。


 クマが途中で遠吠えみたいなのを上げた時は、俺達の存在がバレたかと思ったよ。


 システィがすっと立ち上がって、小さな声で呟くように詠唱をし始める。


 その間に俺は膝立ちになり、いつでも飛びかかれるように準備をしておく。


 勿論システィの足下で待機だ。


 いや、だって前に進んだり、茂みを迂回したりしたらライトニングが飛んでくるかもしれないじゃないか。


 それからクマがこちらに気付く事なく、システィの魔法が完成する。


 それからまなじりを吊り上げ、杖をクマの方に突き出し、


「『ライトニング』ッ!」


 威勢のいい叫び声と共に、杖の先端から青白い一条の閃光が発射される。


 それと同時に俺は茂みから飛び出す。


 システィから放たれた雷撃は、クマの目の前でカクンと折れ曲がり左方向へと流れていく。


「……あっ」



 まるで、そちらの方向に避雷針があって、吸い寄せられていくようだ。


 俺は予想通りの結末に、心の中でため息を吐きながら、クマとの一騎打ちの流れを頭の中で構築していたのだが……。


「ガアウゥッ!?」


 突然、左方向から獣の悲鳴のような声が上がった。


「なっ!?」


 思わず足を止めてそちらを見てみると、黒焦げになって倒れるもう一体のクマがいた。


 先程何か遠吠えのような声を上げていたのは、仲間を呼ぶ声だったのだろうか。


 目の前にいるクマの番だったのかは知らないが、どうやらクマはもう一体いたのだ。


「狙い通りよ! デューク! 今のうちにやっちゃいなさい!」


 システィがさも狙ったかのような口ぶりで叫ぶ。


 どうやら俺の相棒は運だけは強いらしい。何にせよ俺はシスティの運の強さに助けられたわけだ。甚だ不本意だが。


 この後、システィがどや顔で「私がライトニングで隠れていたブルーベアーを狙って撃ち抜いたのよ!」とかしつこく言ってくるに違いない。


 最初に見つけたクマは倒れたクマの近くへと移動し、庇うようにしながら唸り声を上げてこちらを威嚇していた。やはり番だったのか、戦闘態勢はばっちりらしい。


「よし、システィ! 狙い通りならもう一回ライトニングを撃ってみろ」


「えっ? 何でよ?」


 上機嫌だったシスティが真顔になる。


「狙ったんだろ? それならもうアイツだって狙えるよな? 隠れてるクマを狙って撃ち抜くくらいの命中力を持つ、システィさんなら目の前にいるクマぐらい余裕だろ?」


 このまま調子に乗らせたままシスティを帰してやるものか。


 お前はいかに運に恵まれているだけかという事を教えてやる。


「……え? え、ええ……勿論よ。狙ったわ! 私にかかれば目の前にいるブルーベアーを魔法で撃ち抜くくらい造作もないわ!」


「外したら、今度赤い布を持ってエイギルバッファローから逃げる囮役な」


 やはり今日のクエストを見たところ、あれが結構儲かるのだ。


 王都から近い平原だし、数が多いから一気に報酬が手に入る。


 念のため、あと二回はやっておきたいくらいだ。


「ちょ!」


「できんのか?」


「で、できるわよ!」


 俺は最大限の嘲笑を込めた声で言ってやると、システィは顔を真っ赤にして詠唱を始めた。


 俺はシスティが詠唱をする間に、クマに短剣を向けてプレッシャーをかけてやる。


 クマが警戒しながらも、太い腕をこちらに振ってくるが余裕のバックステップで躱す。


「いくわよ!」


 システィが詠唱を完了したのを見て、俺はクマから大きく離れる。


 システィの杖先がバチバチと帯電し、目の前にいるクマに向けられる。


 そして、張り裂けんばかりの叫び声を上げた。


「『ライトニング』ッ!」



 ◆




 それから数日後。


「うわあああー! デューク! デューク! もう無理なんですけど!」


 王都の近くの平原でシスティがケープの代わりに赤いマントを付けて全力で走っていた。それはもう必死に。


「おいおい、頑張れよ! まだ五頭しか釣れてないぞ! もっと牛たちを興奮させるためにスピードを上げてマントを揺らせ! そう、お前の後頭部で揺れてるポニーテールくらいだ!」


「そ、そんなこと言ったって、も、もうこれ以上速く走れないのよ!」


「それでもだ! 牛たちが十頭以上いないと自滅はしてくれないって他の冒険者が言ってただろ!? 楽に倒すために頑張れ!」


 そう俺達がクマを討伐しに行っている間に、冒険者は文字通りに冒険してくれたらしく、様々な情報を持ち帰ってくれたのだ。


 最初の俺達のように牛たちを興奮させて自滅させるには、より勢いよくマントを揺らして牛たちを興奮させる必要がある。


 そして、最後にマントを投げ捨てて大惨事を引き起こすには、最低十頭は必要なんだとか。


 引きつける以前に追いつかれて突進されたり、息切れしたところを突進されたりと、その日は多くの冒険者が神殿に駆け込んで治療をしてもらったらしい。


 冒険者達が体を張って貴重な情報を持ち帰ってくれたおかげで、俺達はこうして安全で効率よく討伐ができるのだ。


「ハア……ハア……も、もう無理よ。限界よ!」


「十頭以上連れてこなかったら、俺助けねえぞ?」


 息も絶え絶えになって走り回るシスティにきっぱりと告げる。


 人間、本当に限界な時は叫ぶ元気すらないのだから。


「ご、ごめんって! ライトニングの魔法を当てちゃったの謝るから! か、代わってよ!」


 ほら、まだ叫ぶ余裕があった。


「違う違う。謝るとかじゃなくて、罰ゲームだから」


「も、もう! 無理だから! そっち行くから!」


 俺がシスティの謝罪をあっさりと流すと、システィは急にスピードを上げてこっちへと向かってきた。


「ちょ、バカ! おい、止めろ! こっちに来るなあっちに行け! あっちに行ったら許してやるから」


「罰ゲームだから関係ないんでしょ!」


 この野郎!


 俺が遅れながら走ると、システィが全力で走ってきて背中に飛び付いてきた。


 こ、こいつ!


「ほら、デューク走って! 急いで! 牛たちが来るから!」


「くっ、くそ!」


 俺はシスティにしがみ付かれた状態のまま、全力で走り出す。


 デュラハンの力を以てすれば、軽いシスティを背負ったまま走ることぐらい造作もない。


「わあー! 速い速い! それに次々とエイギルバッファローが寄って来るわ! 凄い!」


 お前さっきまで息も絶え絶えだったよな!?


「おい見ろ! デュークがバッファロー釣りをやってんぞ!」


「本当だ! すげえ、二十頭以上いるぞ!」


「よっしゃあ、お前ら! 何とか合流してデュークになすりつけんぞ! あいつは化け物みたいな体力してるし大丈夫だ! 皆擦り付けちまえ!」


 と、周りにいた冒険者達が次々と牛たちを擦り付けてきた。


「ちょ! お前ら! 来るなって!」



 この日、エイギルバッファローは五十頭以上討伐された。



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