プロローグ
少女は男に追いかけられていた。
だが、その鬼ごっこは最悪な形で終わろうとしていた。
少女を確実に殺そうとして投げられたナイフが、男との距離が縮まるたびに襲い掛かってきていたからだ。
満身創痍の状態で逃げ切れるはずもなく、少女は地面に倒れてしまった。
襲い掛かってくる『死』という恐怖。
その恐怖と連動するように走馬燈のようなものが脳内によぎった。
ほんの少しの時間だったけれど、出会い、仲良くなった少女の姿が思い浮かび、笑いあった思い出が浮かんでは消えていく。
(何で…。私は……、死んじゃうの?)
だんだんと薄れていく意識の中で、少女は考える。
ろくに思考することも出来ないというのに。運命を変えたいとでも言うように。
少女は迫りくる終わりに抗いたかった。まだ、こんな場所で、こんなところで死にたくはなかった。
だから少女は掠れた声を絞り出す。
「誰か、助けて…、痛い、痛いよ…。苦しい…。死に……、たく、ない」
倒れたままただ静かに小さく少女は呟いた。
体のあちこちに刺さっている十数本ものサバイバルナイフから、少女の体を流れる鮮血が伝い、地面に赤い染みが出来ていた。
「かみさま…、だれでもいいから……。わたし、を、たす………て」
ぼやけた視界の中で寝言でも呟くかのように痛みに侵された熱い吐息とともに言葉を零す。
「わたしは………やりたいこと、が、あ、るの…」
(あ、れ……?やりたいこと…って、なんだっけ…)
ふいに出た言葉に疑問を持ちながら、重くなってきていた瞼をゆっくりと下ろしていく。
徐々に暗くなる視界の中で、少女はいつの間にか自分を守るように立つ黒いコートを着た少年をその視界の中にはっきりと捉えた。
(…………き、て、くれた、んだ、ね…)
少女にとってその少年は大事な存在で、好意を寄せている存在でもあった。
そして少女は安堵の表情を浮かべ瞼を完全に閉ざし、深い眠りへと落ちていった。
そこに、恐怖など一ミリも無かった。
初めて小説家になろうにて投稿させていただきました。
面白い、読んでいてわくわくする作品にしていきますのでよろしくお願いします!