表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/45

34

「真田、わかったのか?」


 駄目だ。今、顔をあげたら、何か言ったら、本当に泣いてしまう。


『悲しい気持ちが心を支配しそうになったら、別のことを考えればいい』


 目を閉じると、昨日、階段の上でハルちゃんに言われた言葉を思い出した。


『別のことって、例えば?』


『楽しいこととか、嬉しかったこととか。もっと単純に、夕飯のおかずはなんだろうでもいいんじゃね? そうすりゃ、桜井くんに何言われたって、泣き出すなんてことはないだろ』


『そんなに簡単に頭切り替えられるわけないじゃないか。もし、また桜井にあんなこと言われたら、俺、マジで泣いちゃうよ』


『だな……じゃあ、その悲しい気持ちを怒りに変えろよ。それなら出来るだろ? 何で俺ばっかりこんな思いしなくちゃいけないんだってさ』


「何で、」


 桜井には聞こえないように、囁くような声で呟いた。


 悲しい気持ちを怒りに変える。


『お前は誰に何言われても、素直に受け入れて、黙っちまうからな。たまには俺は悪かねぇ! ざけんなっ! てキレてみろよ。お前にだって、言いたいことがあるんだろ?』


 言いたいことなら、星の数……には及ばないけど、それでもたくさんある。


『確証はないけどさ、それで、何かが変わるかもしれないぞ』


 大きく息を吸って、吐いて……覚悟を決めて、顔をあげる。


 いぶかしげな顔をした桜井と、目があった。


「真田、人の話聞いてんのか?」


「ムカつく」


「は?」


「お前ら、みんなムカつく」


 桜井の目が戸惑うように揺れる。


「馬鹿だ阿呆だ愚図だって、なんだって人のことそんな平気で傷つけるようなこと言えるんだよっ!」


 一拍黙り、桜井はおずおずと、


「……いや、それ言ったの俺じゃないし。倉本だし」


「お前えだっておんなじようなもんだよ! 『嫌い?』って聞かれて、『嫌いだよ』ってどんだけ冷徹なんだよ! 少しくらいフォローしようとか思わないのかっ!?」


「き、嫌いなもんを嫌いって言って、何が悪いんだよ!?」


 突然怒りだした俺にたじろいでいた桜井が、果敢に応戦してきた。負けてたまるか。


「悪いよ! 俺だって人間なんだから、傷つくときは傷つくんだからな! 人の気も知らないでずけずけ好き勝手なこと言いやがって……だいたいにして何だよ、昨日から自分ばっかり迷惑被ってるみたいな顔して、俺だってお前のせいで散々嫌な思いしてるっての!」


 一瞬、気のせいかもしれないけど、桜井が少しだけ怯んだ気がした。悲しそうな、諦めたような、そんな表情が見えた気がした。


「俺がいつお前に迷惑かけたってんだよ? ほら吹いてんじゃねーよ!」


「お前が気付いてないだけで、俺だって苦労してんだよ! そんな俺の影の苦労も知らないくせに、被害者面すんな!」


「ほぉ。それが本当なら、謝ってやるから言ってみろよ。俺が何お前に迷惑かけたって?」


 売り言葉に買い言葉。勢いで言ってしまった。本当はそんなこと口にするつもりはなかった。


「言えないのか?」


 口を閉ざす俺に、桜井は勝ち誇ったような子をする。


「どーせその場の勢いで出た、でたらめなんだろ? 嘘つくならもっとよく考えてから言えっての。馬鹿が」


 心底馬鹿にしたような言い方に、本気で頭にきた。


「桜井とつるむようになって、友達なくしたよ」


「そんなのお前の性格の問題だろ?」


「みんな桜井が怖いからだよ。桜井が周りに敬遠されてるように、桜井と一緒にいる俺までみんなに敬遠されるようになった」


 桜井は冷めた目で俺を見る。


「ついこの前まで普通に話してたクラスメイトが、だんだん俺を避けるようになった。何で桜井と一緒にいるんだよ? 脅されてるのか? って心配してくれた奴も、俺が自分の意思でやってるんだって話すと、信じられないって顔して、離れていった。先生には桜井と何があった、悩みがあるなら相談しろってやたら声かけられるようになったし、廊下を歩けば他のクラスの奴らに指さされてヒソヒソコソコソ噂話されるし。俺だって何も悪いことしてない。ただ桜井と一緒に、園芸部設立目指して活動してただけなんだぜ? それなのに、何でこんな思いしなくちゃいけないんだ。俺が何したんだよ」


 桜井とちゃんと話をする前は俺だってあっち側の人間だったんだから、当然の報いだと、諦めてた部分もあった。でも、決して辛くないわけじゃなかった。


「俺を避ける奴は多かったけど、花菱や隣の席の女の子は今までと変わらず接してくれたし、一人だけだけど、他のクラスにも友達みたいな奴もいる……なにより、桜井がいるから、大丈夫だ、頑張ろうって思ってたのに」


 桜井のために、桜井と一緒に園芸部で活動するために、頑張ってたのに。それなのに。


「その桜井に嫌われてたって、それじゃあ俺は、今まで何のために頑張ってきたんだよ。俺のこの半年は何だったんだよ」


 じわじわと涙が溢れ、視界が霞む。


 まだまだ言いたいことはいっぱいあるのに、悲しさが怒りから涙に変わって、うまく言葉にできない。


「嫌いなら初めから突き放せばよかったんだ。それなのに、嫌われてなくてよかったなんて言って、友達になれるかもなんて勘違いさせて、俺の反応見て笑ってたんだろ? お前も相当性格悪いな、倉本の比じゃない。倉本のこと悪魔だなんて言ってたけど、お前だって悪魔の素質十分だよ!」


「ちょっと待て! いくらなんでも俺だってそこまでひどいことは考えてなかったぞ! 倉本とは一緒にするな!」


「うるせぇっ! もうお前の言うことなんて信用しない。桜井も倉本も関口もみんな嫌いだ! お前ら全員大嫌いだっ!」


 もう無理、もう我慢できない。その場にうずくまり、わーわー声をあげて泣きじゃくった。


 終わった。いろんな意味で、終わった。これでおしまい。園芸部は解散。桜井とも絶交。俺は納得いかないけど、悔しいけど、悲しいけど、仕方ない。もう、これ以上どうしようもないんだから、諦めるしかない。


 最後の方、自分でも何言ってんだかわからなくなってたけど、いいんだ、終いなんだから。これでいいんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ