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「しかし、腑に落ちないんだよな」
二本目の煙草をとりだし、ハルちゃんは言った。
「何が?」
「桜井くんの言動が」
ハルちゃんは難しい顔をして、火のついてない煙草をくわえた。
「園芸部が廃部になったのは海生のせいだって言うわりには、弁明しようとしないのは何でなんだろうな」
「……そんなの、関口に何を言ったって無駄だってわかってるからだよ」
関口は桜井が嫌いだから、桜井の言うことは何一つ信用しない。桜井が目障りだから、園芸部だって認めてくれなかったし、廃部・活動休止まで追い込んだんだ。
「でも、桜井くんて、一年生の頃からずっと一人で園芸部設立を目指して頑張ってたんだろ?」
「そうだよ。たまぁにクラスメイトに手伝ってもらってたみたいだけど」
そういえば、去年の秋に裏庭で倒れていたあいつはどうしてるんだろう。俺が桜井とつるむようになってから、姿を見てない。
桜井と同じクラスなのは確かなんだけど、顔もはっきり覚えてないし、名前も知らない。
「周りに白い目で見られても、関口に呼び出されても、嫌がらせみたいな雑用任されても、文句一つ言わず、頑張ってきたんだ」
「そこだよ」
ハルちゃんが俺の鼻先に煙草を突きつけてきたから、思わず仰け反る。
「そこまで思い入れの深い園芸部を、簡単に廃部にされて黙っていられるか? 何が何でも守ってみせる! とか思うのが普通じゃないか?」
そう言われれば……そうかもしれない。
「ましてや廃部の原因は嘘の証言による、まったくの濡れ衣だぜ? ぶさけんなっ! て思わねーか?」
「もしかしたら、俺が生徒指導室に行く前に、事情を説明してたのかもしれない。でも、信用してもらえなかったから、桜井は諦めたのかもしれないよ?」
「なきにしもあらず、だな」
煙草を弄ぶハルちゃんは、何だか納得いかないという顔をしている。
「……もし倉本くんのリークにより、事情を聞かれた桜井くんが、お前の名前を出したとしたら、彼が先生に信用されていないとしても、いつも一緒にいるお前が呼び出されないはずないと思うんだけどな」
「呼び出しって、関口に?」
ハルちゃんは他に誰がいるんだよって呆れたような顔をして、
「だって昨日、あの店にいたお前以外の3人は、関口先生に呼び出しくらってるんだろ?」
「――あ、」
俺が桜井とあったのは生徒指導室の前。ちょうど桜井は部屋から出てきたところだった。それで、桜井が帰ったあとに、今度は校内放送で倉本が呼び出された。最後に、昇降口で出会った花菱も、関口に呼び出されているからと言っていた。
あの時、あの場所にいた俺以外の3人は、みんな関口に呼び出されている――なら、俺は?
俺も一緒にいたのに、何で俺は呼び出されなかったんだろう?
ハルちゃんと二人で先に逃げたから、関係ないと思われた? でも、関口に告げ口したのは倉本だ。倉本の性格なら、俺がいたことも話したはずだし、そうすると、やっぱり俺だけ呼び出しくらってないのはおかしいわけで。
何で? どうして? 関口に呼び出されなかったのは、いいことなのか、悪いことなのか?
今日一日の出来事が、猫がじゃれた毛糸玉みたいにごちゃごちゃに絡み合っていく。
駄目だ。ゆっくり、ゆっくり、考えて、ほどいていかないと。
「海生は、誰の言葉でも素直に受け入れるから、ややこしくなるんじゃないのか?」
ようやく煙草に火をつけたハルちゃんが、煙と一緒に、そんな言葉を吐き出した。
「何?」
「たまには見方を変えてみろよ。目で見えるもの、耳で聞こえるものが全てじゃないんだから」
ハルちゃんの言ってることが、よくわからない。見方を変える? 目に見えるものが全てじゃない? 何だそれ?
「……えーと、具体的に何を、どうすればいいの?」
「発想の転換だよ。花菱くんだって言ってたじゃないか、つまりな、」
右手の指に煙草を挟んだまま、ハルちゃんは顔を近づけ、耳許でささやいた。
発想の転換。確かに、この発想はなかった。けど、
「本当に、そんなことあるのかな?」
「さあな。俺は桜井くんじゃないから。本人に直接訊くしかない」
「もし、ハルちゃんの考えが間違ってたら?」
「その時は諦めろ、だろ?」
「だよね」
結局、どっちかしかないんだ。
仲直りできるか、駄目で諦めるか。
無駄かもしれない、まったく見当違いかもしれない。でもやっぱり、何にもしないで引き下がるより、精一杯悪あがきしたい、と思う。
「駄目だったら、その時はまた、胸貸してやるから、泣いて忘れろ」
あっけらかんといい放つハルちゃんの言葉に、今更ながら自分が何をしたのか気付き、恥ずかしくなって、それからはもう、ハルちゃんの顔を見れなかった。
やっぱり、俺って情けないし、カッコ悪い。




