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「何熱くなってるの? というか、おまえもこーゆー怒り方出来たんだね。桜井と一緒にいた影響かな?」


「お前のせいだよ」


「何が?」


 首を傾げる倉本。わざとらしい仕草。それが余計に俺をイライラさせる。


「全部っ、何もかもっ、お前のせいじゃないかっ! 園芸部がなくなったのも、桜井が離れていったのも、お前がいたから、お前が余計なことしたからっ」


 倉本が余計なことしなければ、倉本が俺たちにちょっかいださなければ、園芸部は廃部にならなかったのに。


「返せよ。俺らの――桜井の園芸部を返してやってくれよっ! もういいだろ? 十分楽しんだだろ? 人をおもちゃにするのもいい加減にしろっ!」


 何で俺が、俺らが、こんな思いしなくちゃいけないんだ。悪いことなんてなにもしてないのに。


 俺が目障りだって言うなら、もう、それでいいよ。


 おとなしくしてるから、これ以上傷つけるようなことしないでくれ。


 俺の訴えを倉本は黙って聞いていたが、目を伏せ、


「手、放してくれる?」


 と静かに言った。


 乱れた制服を直し、倉本は改めて俺をまっすぐ見上げる。笑ってはいなかった。その表情はいつになく真剣だった。


「馬っ鹿じゃないの?」


「なっ」


 何を言い出すかと思ったら、またこいつはっ。


「あのなっ」


「園芸部が潰れたのも桜井が離れたのも僕のせいだって? あたりまえじゃないか、僕がそうしたくてやったんだから。僕はおまえらが大嫌いなんだよ。園芸部だって目障りで仕方ない。だから潰してやった。それでも僕は、お前だけには、巻き込まれたくなかったら、あの不良から離れろと何度も忠告してやったんだよ。忘れたとは言わせない。それでいて今更僕を責めるのか? 忠告を素直に聞き入れなかった愚か者が何を言ってんだかねえ。だいたいにして、今回のことだって、手をくだしたのは僕だけど、原因を作ったのはお前自身じゃないか。責任転嫁もいいとこだよね。ずっと桜井に嫌われてたことも気付かずに親友面して、ほんっとにお目出度い奴だよ。さぞあいつは迷惑だっただろう。僕が園芸部を廃部に追い込んだからこそ、桜井はあつかましいお前から解放され、お前は真実に気付くことに出来たんじゃないか。それはすべて僕のおかげだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない。特に真田、お前にはね」


 息継ぎする間も無く、倉本はべらべらと理屈を捲し立てた。


 やっと終わった、と思った時には、何故だか俺の方が息が上がっていた。酸素が足りなくてくらくらする頭を片手でおさえながら、深呼吸を三回。


 そんな俺を見て、倉本は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「言いたいことがあるなら、遠慮なくどうぞ」


「……もう、いいよ」


 すっごい開き直り方。こいつに口で敵うわけないってわかってたのに、何をしてるんだ、俺は。


 さっきまでの体の中にあった弾けたような怒りは、あっという間にしおしおとしぼんでしまった。


 怒りのあとに残ったのは虚無と悲壮と脱力だけ……三つもあればだけって言わないか。


 その時、なんとも間の抜けた校内放送の「ぴんぽんぱんぽ~ん」というチャイムの音が耳に飛び込んできた。


『2年C組 倉本くん。関口先生がお呼びです。至急、生徒指導室まで来てください。繰り返します』


「ああ、そうだ。生徒指導室に行くとこだったんだっけ」


 俺を一瞥して、


「もうここにいる理由もないだろ。さっさと家帰って勉強しなよ」


 それでも俺がぼーっと突っ立っていると、「かまってらんない」と言わんばかりに肩をすくめ、倉本は廊下の奥へ歩いて行った。


「……どっちがちょっかい出したんだかね」


 最後にそんな言葉が聞こえた気がしたけど、それがどういう意味なのかはわからなかった。




「かいせーっ!」


 どたどたと騒がしい足音をたてながら花菱が走ってきた。


 すのこに足をとられたが、なんとか体勢をたてなおし、そのままの勢いで、体当たりするように俺のところへ突っ込んできた。


「海生!」


「花菱」


「さっき桜井くんに会ったよ。園芸部解散になったって」


「ああ……うん」


 せっかく花菱が興味持ってくれたのに、俺のせいでこんなことになって、申し訳ないと思ってる。


「海生、」


 花菱は、ぎゅっと俺の制服をつかみ、走ってきたせいで上がってしまった呼吸を整えながら、言い放った。


「大丈夫だから」


「大丈夫?」


 て、何が?


「海生は素直だから、誰の言葉でも受け入れちゃうところがあるけど、海生が落ち込むことなんてないんだからね。ぜんぜん、何一つないから」


「……ありがと」


 よくわからないけど、花菱はきっと桜井から話を聞いて、俺を心配し、駆けつけてくれたんだろう。


 大丈夫なことなんて、それこそ何一つないけど、わざわざ飛んできてくれた花菱のその優しさが嬉しい。


「大丈夫だからね」


 ニッコリと俺を安心させるように、微笑み、花菱は言った。


「何とかするから」


「何とかって、花菱が?」


「僕だけの力じゃどうにもならないけど、でも絶対何とかして見せるから。だから海生は元気だして」


 俺はわけがわからず、花菱をまじまじと見つめてしまう。


 お惚け花菱に何とか出来ることがあるのか?


 そもそも、何とかするって、具体的に何をどう何とかするんだ?


「ごめんね、僕も関口先生に呼ばれてるからもう行かなきゃだけど、本当に大丈夫だから、元気だしてね!」


 来たときと同じように、どたどたと騒がしい足音をたて、花菱は走り出した。


「それからっ」


 と思ったら立ち止まって、振り返った。


「レオと桜井のこと、嫌いにならないであげてねっ!」


 そしてまたどたどた走りながら、今度こそ花菱は去っていった。


 桜井も倉本も元々俺のことが嫌いなんだから、嫌いにならないでも何もないだろうに。



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