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「何でっ!?」
桜井の腕をがっしっとつかむ。
突然の俺の行動に桜井はぎょっとしたように振り返った。
「何で? 何で園芸部が解散することになった? 理由は? 関口に何か言われたのか? 何を言われたんだ? 何で俺に一言も相談しないんだ?」
息継ぎもせずに一気に捲し立てたら、苦しくなって、くらくらした。
桜井は目の前で荒く息をする俺のことを目を丸くして見ていたが、すぐにまた視線をそらした。
「別に……お前には関係ないことだから」
関係ないって、
「関係ないわけないだろっ? つい一昨日まで一緒に部活動してた仲間なんだから、納得いく理由を聞かせてもらわないと」
桜井は頭をかきながら、めんどくさいって言うみたいに息を吐いた。
「関口に園芸部解散を命じられたんだよ」
「だからそれは何で? 何で急に?」
「何でって、だいたい想像つくだろ?」
桜井はそう言うけど、俺にはさっぱり、わからない。
「もしかして――桜井が不良だから、か?」
おそるおそる喋ったら、桜井は自嘲するみたいに軽く笑って、
「やっぱり、真田も俺のことそう思ってたんだな」
「……あ、ごめん。気分悪くしたよな。そんなつもりはなかったんだよっ! 本当に、マジでっ!」
「やぁ、まぁ今更だからいいんだけど」
桜井はまたしても俺に背を向けた。
余計に怒らせてしまったかと、おろおろしてたら、
「よかったねー、真田。桜井と会えたんだ」
と、俺の背後から、聞き覚えありまくりなうえに、今のこの状況ではあまり聞きたくない声が聞こえてきた。
無視しようかとも思ったが、そんな馬鹿な考えは瞬時に脳内から排除し、代わりにとびきりのスマイルを顔に張り付けて振り向いた。
「やあ、倉本」
嫌な顔したら、また何を言われるかわかったもんじゃないからと、わざと愛想よくしたのに、そんな俺の思惑とは逆に倉本は顔をしかめ、
「何ヘラヘラ笑ってんの? うっとおしいからやめてくれない?」
と言ってきた。
もう二度と、こいつに笑顔で挨拶なんかしてやらねえ! と心に決め、拳を握る。
「時に、君たちこんなところで何をしている?」
「別に何も」
「そうかなあ? 何だか言い争いをしていたように見えたけれど」
倉本はニコニコ笑い、「何をしていたの?」と再度訊ねてくる。
「だから別に」
「真田は黙れ。桜井、答えろ」
何で倉本って、こんな威圧的な命令口調で喋るんだろう、そんな言い方されたら気弱な俺は本当に黙るしかないじゃないか。
「テメェには関係ねえ話だよ」
倉本が現れて、桜井の不機嫌バロメーターが上昇する。
「君には関係なくても、僕には興味がある」
「お前の好奇心を満たしてやる義理はない」
「随分と強気だね。まあ、僕はかまわないけど」
倉本はなんだか意味深な言い方をし、フッと微笑む。
桜井は桜井で鋭い目で、倉本を睨み付ける。
そして俺はというと――いつもと同じ、何もできず黙って外野から様子をうかがうだけ。
今日の桜井はなんだかおかしい。
教室を出る前に感じた、嫌な予感、倉本の企みはすでに実行されてしまったんだろうか?
「――昨日のことで、関口に呼び出しくらったんだよ」
どれくらいしてからか、桜井が静かに、というより、何かを圧し殺したように言った。
「昨日のこと?」
「真田は先に帰ったから知らないだろうけど、花菱が見知らぬ男にからまれてたんだよ。ハルを何処へやったとかわけのわからんことわめきながらね」
それって、もしかして、いや、もしかしなくても、皆川さんのことだ。
「花菱が絡まれてるとこに居合わせてよ、間に入ったら何か逆ギレされて、あんまりにもうっとおしいもんで、ちょっとどついたら派手に倒れやがった」
あの後、皆川さんは目を覚まして、花菱に食って掛かったわけか。
「もしかして、それが原因で園芸部が……?」
桜井はムスッとしながら首を縦に振る。
「でもっ、悪いのは花菱に絡んできた相手なんだし、それで桜井が責められるのもおかしいじゃないか」
「目撃証言があってな、関口は、俺が相手をはったおし、無抵抗な相手にさらに殴りかかろうとしているところを、花菱に抑えられていた、と聞いたらしい」
「なんだよ、それ」
桜井がそんなことするわけがない。事実と全然違う。そんないい加減な証言ってない。
「桜井、抗議しよう!」
「証人がいる以上は無理だよ」
「でも、そいつが見たのって、桜井が相手を突き飛ばしたとこだけじゃないか……花菱から聞いてるかもしれないけど、もとはと言えば俺がいけないんだし、何でそんな状況になったのか、俺が始めから説明すれば」
「お前の話なんか誰が信じるんだよ」
そっけない言い方。
俺を見上げる桜井の顔は、何だかすごく疲れていた。
「お前が何を言ったって関口は信用しない。お前が俺のことを庇うために作った話だと思われるのがオチだよ」
「そんな」
それじゃあ、俺はどうすればいいんだろう。
ハルちゃんを守るためにとった行動が、結果的に園芸部解散に追い込んでしまった上に、桜井に嫌な思いをさせてしまったなんて。
「お前たちに出来ることはもう何もない。諦めなよ。いいじゃないか、遅かれ早かれ園芸部は廃部になる運命だったんだからさ」
横から口を挟む倉本を無視して、桜井に向き直る。
「そうだよ、あの人。桜井が突き飛ばした皆川さんは、俺のイトコの友達なんだ。あの人から関口に本当のことを話してもらおう」
「いいよ。何かもうめんどくさいから」
「皆川さんだって素直に謝ればわかってくれるよ」
「本当にいいんだって」
「何でだよ。せっかく、ここまで二人で頑張ってきたのに、」
「いいって言ってるだろっ! いい加減うざいんだよっ!」
桜井の怒声が、人気のない廊下に響き渡る。
驚きで、すぐには声が出せなかった。




