表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/45

26

 ハルちゃんとの勉強が功をなしたのか、いつもより多く答えを書けた気がする。最終日の数学もこの調子で頑張らねば。


 朝はテスト直前の最終確認とかで静かに勉強していたため、話をするような雰囲気じゃなかったけど、HRが終わると皆あちこちでグループを作り、テストの出来の報告を始めた。


「花菱、倉本」


 一番前の席で帰り支度をしながら喋っている花菱と倉本に声をかける。


 花菱は驚き、倉本は不機嫌そうな表情をこちらに向けた。


「あ、話し中にごめん。昨日は先に帰っちゃって悪かったな。花菱には面倒かけたし、あの後、大丈夫だったか?」


 花菱と桜井には昨日のうちにメールを送っておいたんだけれど、返事が来なかったからちょっと不安だった。でも見たところ花菱にも倉本にも外傷はなさそうだし、普通に学校に来てるってことは大丈夫だったということなんだろう。


「僕は全然平気だよ」


 花菱は首を横に振り、ぎこちなく微笑んだ。花菱がこんなふうに笑うなんて珍しい。


「そうか。ならよかった」


「うん。でも、桜井くんがね」


「桜井? 桜井に何かあったのか!?」


 いくら桜井が喧嘩慣れしてる不良といえど中学生、やっぱり力では皆川さんには敵わなかったのか?


 メールが返ってこなかったのはひどい怪我をしたからなのか!?


「そうじゃないんだけど、あの」


 口を開きかけた花菱を倉本が手で制す。


 口許を歪め、冷たい目で俺を見上げた。


「花菱の回りくどい説明を聞くより、桜井のクラスに行った方が早いと思うけど?」


「ああ、うん。そうだな」


 回りくどい説明っていったい何があったんだろう。


 倉本は何か知ってるんだろうか。


「楽しみにしてるから」


 ニッコリと笑みを浮かべ、倉本は言った。


「え、何を?」


「桜井と真田の友情がどれ程のものか、僕に見せつけてよ。僕に、『ああ、この二人には敵わないな』って思わせたら、もう園芸部には関わらないからさ」


 倉本が何を言っているのかはよくわからなかったけど、こいつが何かよからぬことを企んでいて、それに桜井が巻き込まれそうになっているということは、なんとなくわかった。


 嫌な感じがする。何だかよくわからないけど、早く桜井に会わないと、会って顔を見ないと、この嫌な感じがずっと付きまとうような気がして、俺は教室を飛び出した。





「なあ、桜井いる?」


 前のドアから出てきた三人組の中に知った顔を見つけ、声をかける。


「あ? 桜井? んなのテメェが知らねーのに俺らが知るわけねーだろ」


「同じクラスだろ。教室にいないのかよ」


「何か、授業が終わるなり、関口先生と一緒に教室出ていったよ。生徒指導室じゃないかな」


 隣にいた顔色の悪い奴が教えてくれた。


「あのバカ、まぁた何かやらかしたんか?」


「よく知らないけど」


「ありがと、とりあえず、生徒指導室行ってみる」




 生徒指導室、別名・関口先生のお説教部屋。


 関口は気に入らない生徒(?)を生活指導の名目で呼び出しては、この部屋でみっちり二時間はネチネチ嫌みも交えながらお説教をするらしい。


 俺はそうでもないけど、桜井はすでに常連。今日もやっぱりねちっこく何かしら説教されてるんだろうか。


「失礼しました」


「あ、」


 ちょうど生徒指導室の前で部屋から出てきた桜井とばったり会った。


「桜井! よかった探してたんだよ」


 桜井を見つけた喜びから、安堵の笑みを浮かべる。


 対して桜井は、口を開きかけ、思いなおしたように一度閉ざすと「何か用?」とだるそうに言った。


「……用って言うか、昨日、先に帰っちゃったから謝りたくて」


 何だろう? 気のせいか、桜井、機嫌が悪そうな。


 今の今まで関口に説教されてたんだから、機嫌が悪いのも当たり前か、な?


「それに、花菱から聞いてるかな? 俺のことで、正確には俺のイトコのことだけど、桜井にも迷惑かけたんじゃないかって気になってさ」


「そりゃどうも。でも別に何にも迷惑被ってないから」


「そう、なんだ」


「それだけか? 鞄置きっぱなしだから教室戻りたいんだけど」


「ああ、うん」


 やっぱり桜井、何か怒ってる?


 いつもの桜井はこんなそっけなくない。いや、確かに人前だと結構そっけない時あるけど、今、ここにいるのは俺と桜井の二人だけだ。


 誰かに見られてるわけでもないのにわざわざこんな突き放すような言い方する必要ない。


 すたすたと歩き出す桜井を追いかけて、いつもと同じように少しだけ後ろから話しかける。


「桜井、何か俺に対して怒ってる?」


「別に」


「何かいつもと雰囲気違うよな」


「俺はいつもこうだけど」


「そんなことないよ。いつもの桜井はもっと、こう、柔らかくて優しい、というか」


 この表現が正しいのかどうかはいまいち不安だが、他にいい言葉が見つからなかった。


「それはお前がそう思ってただけだよ」


 桜井は前を向いたまま喋る。


「それ、どういう意味?」


 桜井どうしちゃったんだろう。


 何でこんな急にわけのわからないこと言い出すんだ。


「真田」


「は?」


 真田、て。何で名字呼び? 今まで、海生て呼んでたのに。


「言うのを忘れてたんだが、」


 足を止め、桜井は向こうをむいたまま、俯きがちに喋る。


「園芸部は解散することにした」


「え?」


「だからもう裏庭に来る必要ないから」


 「じゃ、そういうことで」と返事も聞かずに、桜井は俺を置いて歩いていく。


 ちょっと待てよ。他に何か言うことあるんじゃないか? なぁ、桜井。ちょっと待てったら……ちょっと待てっ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ