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 次の日。昇降口につくなり突然腕を引かれ、上履き突っ掛けた状態で、一番近くのトイレ、よりにもよって職員用トイレに連れ込まれた。


 この時間は職員会議中だから、先生方に見咎められる心配はないとは思うけど、


「でもやっぱり見つかるとまずいと思うぞ」


 俺をここに連れ込んだ張本人・桜井は俺の言葉に苦笑いして、


「恐喝してるって勘違いされるかもな」


「そうじゃなくて。生徒の職員用トイレの使用は禁止されてるだろ」


「そういう意味か」


 桜井はふっと柔らかく微笑んだ。


「で、何の話だ?」


 わざわざこんなとこに連れてきたんだから、他の人には聞かれたくない話があるってことだろ。


「たいした話じゃないんだけどさ、今日の部活のことなんだけど」


「あ、もしかして花菱のことか?」


 昨日のあからさまに嫌な顔をしていた桜井のことを思い出した。


「桜井がそんなに嫌なら、花菱には遠慮してもらうよ?」


「そうじゃない。今日は部活なしって伝えたかっただけ。けど、それは生徒会長が来るからわざと部活やらないとかじゃないからな」


「わかってるよ。今日はやることないんだろ?」


 やることないなら集まったって仕方ないもんな。


「三日月祭の準備もあるしさ。たまには休みもいいかなって」


「そうだな。じゃあ花菱には俺から伝えとく」


「悪い」


 俺は別に気にしないのに桜井は二人一緒はまずいから、時間差つけて出ようと、外の様子を見ながらおそるおそる先に出ていった。


 一分待って、俺もそっとトイレから顔を出し、誰もいないのを確認してから外に出た。


 桜井と一緒にいて恐喝されてるって誤解されるのも嫌だけど、たかだか職員用トイレに入っただけで注意を受けるのも嫌だもんな。


「真田 海生」


 背後からフルネーム呼びされて身体が固まる。振り向こうとしたらぎゅっと腕をつかまれた。


「そのまま聞きなさい。君は今、職員用トイレから出てきたが、あそこは生徒の使用禁止なのは知っているよね?」


 ああ、やっぱり見られていた。でも不幸中の幸いというべきか、関口先生の声ではなかった。まだ若そうだし、生物の山田先生とかかな?


「少し前にB組の桜井もあのトイレから出てきたよ。彼にも話を聞こうとしたが声をかけたら逃げられてしまった。お前たち、トイレの中で何をしていたんだ?」


「別に何もしてません」


 ただ話をしていただけ、やましいことなんか何もない。


「何もないなら何で桜井は逃げたんだ」


「そりゃ先生に怒られると思ったからじゃないですか?」


 すごいくだらない規則だけど、生徒は職員用トイレ使用禁止て決まりだから。実際は中に入って話をしただけで、トイレは使ってないんだけど。


「何か隠してるんじゃないか」


「別に何も隠してません。てか、先生、この体勢なんか変じゃないですか」


 普通、お互いに向き合って話をするもんだろう。何で先生はそのまま聞きなさいなんて言ったんだろ。


「こうしたほうが圧迫感あるだろ」


「はい?」


 捕まれた右腕、空いてた左腕もひかれ、後ろで強く捻られる。


「いっ!」


「黙ってきけ。真田、お前、本当はあのトイレで桜井とよからぬ計画をたてていたんじゃないのか」


「してないです、手離してください」


「じゃあ桜井に恐喝でもされたのか?」


「されてませんから」


「口止めされたのか?」


「だからされてませんて」


「嘘をついたっておまえのためにならないぞ」


 誰だか知らないけど、この先生、頭おかしいんじゃないのか?


 背後を見ようとちょっと首を動かしたら、さらに強く腕を捻られた。


「痛いっ」


「じゃあ何をしていた? 何か話くらいはしただろ」


「話はしましたけど、たいしたことじゃないですよ。今日の部活はなしになったからっていう連絡です」


「連絡? それだけのためにわざわざ職員トイレに隠れたのか?」


「そうです、桜井はそーゆーヤツなんです。嘘なんか吐いてませんから、手ぇ離してくださいよっ」


 どんっと背中を思い切りどつかれて、勢い余って転びそうになる。


 なんとか前に手を突いて、体勢を立て直すと、聞き覚えのある嫌味な声がした。


「誰が先生だよ。こんな先生いるわけないじゃん」


 もしやと思い、背後を確認。目眩がして、よろよろと壁に身体を押しつけてしゃがみこむ。


「倉本だったのかよ……」


「おはよう、真田」


 倉本は何にもなかったみたいに爽やかな朝にふさわしい清々しい笑顔で挨拶をした。


「全然わからなかった」


「途中で気付くと思ったんだけどなぁ。声聞いてわかんない?」


「だっておまえ、声変えてただろ」


 普段聞いてる倉本の声とはまったく違った。


「僕ね、演劇部に入ってるんだ。ま、それだけが理由ってわけじゃないけど、演技と声色を変えるの得意なんだよね」


 「それから人を騙したりからかったりするのもね」とつけたして、倉本は三日月型に口元を歪める。


「どういうつもりだよ」


「別に。君ら二人がこそこそ職員トイレに入っていくのが見えたから待ってただけだよ。何してるんだか気になったからね」


「だったら普通に声かければいいじゃないかよ」


「かけたさ。言ったろ? 君の相方の時代遅れのヤンキーに逃げられたんだよ。『ねぇ』の一言でギロって睨まれて、『そこで何してたの?』の言葉でパッと走り去っていったよ。この僕が声をかけてやったっていうのにね。まったく無礼極まりない」


「まさかと思うけど、その腹いせに俺にあんなことしたとかじゃないよな?」


「いいや。腹いせなんかじゃないよ。ただ単に真田をからかってやりたくなっただけさ」


「あーそー。それは朝っぱらからご苦労様です」


 うざいんだよ暇人が! って思ったけど、そんなこと言ったら何をされるかわかったもんじゃないから口にはしなかった。



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