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このお話は、こちらに連作短編・3年D組みんな仲良しのスピンオフ的な物語になります。


3年D組をご覧いただかなくても、わかるようになっております。


以前こちらのサイトに別HNで掲載していた作品に、修正を加え再度公開することにしました。


少しでも楽しんで頂けたら、時間つぶしにでもして頂けたら、幸いです。



 ハルちゃんの話をしよう。


 ハルちゃんというのは、俺のイトコで四つ年上の女の子。レースのついたふわふわの服とか、可愛らしいワンピースなんかが似合う、とっても女の子らしい女の子だった。


 特に印象に残っているのはハルちゃんの長い髪。背中まであったハルちゃんの髪は黒くて艶やかで、きれいだった。


 なのに、ある時、ハルちゃんが、突然髪の毛をばっさり切ってしまった。


 俺がまだ幼稚園に通っている頃、ハルちゃん一家が家に遊びに来てたときのことだったはず。


 何があったのかはわからない。でも、何かがあって、ハルちゃんは髪を切り、こんな宣誓をしたのだ。


「あたし、今日から女の子やめて、男の子になる。もう髪だって伸ばさないし、ワンピースも着ない。これからは男の子として生きていく」


 その時のハルちゃんの凛とした態度を今でも覚えている。


 だけど、あれ以来ハルちゃんたちが家に来ることはなくなり、その間一度も会うこともなかったから、『ハルちゃん』の存在を日常的に思いだすことはなかった。


 それなのに何故か。突然、本当に突然、何の前触れもなく、ハルちゃんが家にやってきた。





 三月。もうすぐ行われる三日月祭の準備のため、放課後、教室で飾り付け用の花を作っていた。


 ちなみに三日月祭というのは俺の通う学校で毎年三月、卒業式の前々日に行われる、三送会のことだ。


 三送会と言うよりはミニ文化祭と言ったほうがわかりいいかも。一年・二年の各クラスで出し物(ステージで発表する合唱や演劇だったり、模擬店だったり)を準備して、卒業して行く三年生に感謝の気持ちを込めて、それを披露する。


 うちのクラスはもともと何か飲食店を出す予定だったんだけど、生徒会の審査に落ちて、今回は展示係になった。


 展示係。三日月祭から卒業式までの三日間、校内を紙で作った花や、ちぎり絵や在校生からのメッセージや三年生の思い出の写真やらで飾りつけをする係。校内と言っても主に三年生が使っていた教室前の廊下や体育館など限定された場所だし、大きなものを作るんでなければただひたすら紙を切ったりちぎったり貼ったり折ったりするだけだから楽と言えば楽。地味と言えば地味。


「こう言ったらあれかもしれませんけど、俺、部活に入ってたわけでもないんで今の三年生に世話になった覚えとかないんですよね。正直、卒業するなら勝手にしてくれって気分です」


 同じ花係の紫音さんに愚痴をこぼすと、紫音さんは可笑しそうに笑いながらも同意してくれた。


「そう思ってる人いっぱいいますよ。だけどこうして放課後はちゃんと居残って花を作るんだから、真田くんは真面目ですね」


「真面目っていうか、サボる勇気がないだけなんです」


 一番楽そうな花係を選んだのに、それでサボったら他の係の奴らに後で何言われるかわかったものじゃないし。


 そう言おうと口を開きかけると突然、軽快なメロディが鳴りだした。


 本当は学校に携帯電話を持ってきちゃいけない決まりだから、慌てて音を止める。


 気まずくなって紫音さんを見る。目が合うと、「大丈夫、私も持ってきてますから」と言ってくれたのでちょっとほっとした。


 ディスプレイには新着メールの文字。差出人は母ちゃんだった。内容は『大至急帰ってきなさい』の一言だけ。いったい何だっていうんだ。


「どうかしました?」


 紫音さんに今着た母ちゃんからのメールを見せる。


「何があったかわかりませんが、とにかくすぐに帰った方がいいですよ」


「いや、家の母ちゃんのことだから、そんな大した用事ではないと思います」


「でも『大至急』てつけるくらいですから、絶対何かあったんだと思いますよ。ここは私がやっておきますから、お母さんのためにも早くお家に帰ってあげてください」


 紫音さんにそう言われ、俺もなんとなく不安になり、作業を切り上げて帰ることにした。



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