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9-6

 峠を一気に下り、凱旋がいせんした僕の視界に、救急車の姿が飛び込んできた。

 伊織が中に運び込まれてゆく。


 ガクガクと体がふるえ、顔が真っ青になり、目がうつろになっているようだ。


「伊織っ⁉」


 僕はガレオンから飛び出して、救急車の中に駆け込んだ。 

 細い腕に点滴がほどこされるが、誰にも怪奇現象を止めることは出来ない。


「なんで……どうして?」


 どうやら、ゴーストカーは消えていないようだ。

 むしろ黒魔術が完了に近づいている。


「伊織っ!!」


 彼女の手をにぎると、か細い声が聞こえてきた。


「良かった……。ハヤトが勝ったんだね。おめでとう。私はもう思い残すことは無いから……このままずっと走り続けて」


「嫌だっ! そんな願いは聞けない。僕は……伊織がいなければ走れないんだ」


 勝っても負けても、応援してくれる人がいたからこそ。

 どんな時でも、支え続けてくれた家族や仲間たちがいたからこそ。

 僕はここまでやってこれたのだ。


「だからずっと、そばにいて欲しい。僕の傍に……」


 ようやく気持ちを伝えることが出来た。



 ……でも、少し遅すぎたようだ……。


「ハヤト」


 伊織はとてもうれしそうに微笑ほほえんだが、そのまま意識を失ってしまった。


「伊織っ。……伊織?」


 必死に呼びかけるが、もう目を開かない。


「体力的にも、とっくに限界を超えていたようです」


 近くにいたドクターがつぶやくと、僕は精一杯、頭を下げた。


「お願いします。どうか伊織を助けて下さい」


 しかし、医療では手のほどこしようがないと医師たちは首を振る。


「そんな……」


 すると、リオンが、まっすぐな視線でにらみつけてきた。


「ハヤト。伊織を助けられるのは君だけだ。今すぐゴーストカーを送り返せ! トンネルの中にいるんだろう?」


「……でもっ。僕にはもう……シャドウが見えないんだ」


「本当にそうなのか? 心から対戦を望めば、出てくるかもしれないだろう」



 てっぺん峠のふもとには、長いトンネルがある。

 そこには、シャドウと呼ばれる黒い車が現れる。

 その車は、僕にデスゲームを仕掛けてくる。



「……試してみるしかないだろうな」


 海堂さんに背中を押された。


「ハヤト君。どんな時も冷静に、勝負どころを見極めるんだぞ」


 オーナーは、アドバイスをくれた。

 そして、リオンには強い想いをたくされる。

 

「僕の代わりに、伊織を助けてくれ……頼む」


 水島にも熱い視線で送り出された。


「山吹君のお兄さんは、勝負から逃げるようなドライバーじゃないはずよ」



 ……僕はもう逃げられない。


 胸が痛い。心臓が痛い。足がふるえる。

 プレッシャーに押しつぶされそうで、心が悲鳴をあげている。


 それでも……。

 どうしても、やらねばならない時がある。

 どんな強敵が相手でも、挑まねばならない闘いがある。


 言い訳するな。


 イメージしろ……最高の結果を。

 自分に魔法をかけろ……必ず勝てると。


 そして『今』という瞬間に全力で挑め。


 勝っても負けても、勝負はいつだって1度きり。

 一欠片ひとかけらの後悔も残さないように戦うしかない。


(僕は……)


 伊織を失いたくない。絶対に!

 臆病おくびょうな心が、何よりも強いパワーを生み出してくれる。


 ダークレッドのガレオンに乗り込むと、深夜のトンネルに向かって走り出した……。

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