9-1
その頃、水島涼が走っているスプリントレースでは……。
「ヒャハハハハ~ッ」
先頭を走る野堀の車が、バンディットの車に張り付かれ、あれやこれやと妨害を受けていた。
右から突っ込んできたかと思えば、お次は左。
コーナーでイン側に潜り込まれたら、すぐさま回避行動に移らなければ、碇の車がアウト側まで膨らんできてコース外に弾き出されてしまう。
「ったく。碇がいると走りずらいんだよなぁ。アイツはぶつける前提で走っているから、このままだと俺のカンパネラが傷だらけになっちまう」
(……邪魔だ!)
とは思うが、直接車をぶつけるわけにもいかない。
わざと車を当てた場合、ペナルティを受けたり、失格にされてしまうこともあるからだ。
でも、さすがに野堀もイライラし始めて、目には目を……というイケナイ気分になってきた。
(直接、手を下さなければいいんだろう?)
この島で生まれ育った野堀にとっては、全ての道路が庭のようなものなので、電信柱の1本だって知らないものは無い。
(ようし。ココから先は障害物競争にしよう)
「碇君。遊んでやるから、フルスピードでついて来な~」
野堀の車はクラクションを鳴らすと一気にスピードを上げ、バンディットの車を引き連れてゆく。
***
「……もしかして、そのまま2台で逃げ切ろうっていうの? そんなの、ボクが許さないよ!」
野堀たちの後ろを走っていた涼まで、アクセルを強く踏み込んで追従し始めた。
しかし、最後尾を走っている車部の海老名だけは、接触トラブルを警戒して、広めに車間距離をあけたまま走り続けている。
前の車たちの様子をうかがいながらタイヤを温存して、隙あらば後半になってから追い抜こうという作戦なのだ。
アクセル全開の涼が、前の2台との距離を詰めていくと、野堀の車が派手にコースアウトした。
バンディットの車と接触した様子は無かったが、自ら道路脇の畑に突っ込んで、泥をまき散らしながらコースに戻ろうとしている。
(……何をやっているんだ?)
ナイトレースが行われている道路はかなり暗いので、スピードを出しているとハンドルをきり損ねてしまうこともあるのだが……。
それにしたって、自滅するなんてストリートキングらしからぬ凡ミスだ……と思っていると、野堀の車を道路に戻すまいと追撃しようとしたバンディットの車が、道路と畑の境目に立っていた低い柱に激突して跳ね返ってきた。
その木製の柱には電灯がついていなかった為、ギリギリまで見えなかったのだろう。
「うわっと⁉」
間一髪、涼は急ハンドルをきって、弾かれてきた車をかわしたものの、大きく体勢を崩してしまい、道路脇の茂みに突っ込んでしまった。
「こんな所で、コースアウトしてる場合じゃないのに!」
とんだトバッチリをくってしまった。
でも、車同士の接触なんて彼女にとっては日常茶飯事。
精神的なダメージを受けるどころか、火に油が注がれたくらいの勢いで土をまき散らしながら、強引にアクセルを踏み続けて道路に復帰する。
「ボクは絶対に負けられない!」
前方の車がコースアウトしている隙に車部の海老名が2番手に浮上したが、わざわざ車間距離をあけて走っていたのがアダとなり、オーバーテイクのチャンスを逃してしまい、先頭でコースに戻った野堀のカンパネラだけがすまし顔で逃げてゆく。
「くっそ~。野堀の奴め。ふざけた真似をしやがって。こうなったらもう片っ端から潰してやる」
後方でスピンしていた碇の車が、けたたましいクラクションを鳴らしながら追い上げてきた。
「……なんだかボクより厄介そうな車が戻ってきたね」
海老名と涼の後方に、凄まじい殺気を放つバンディットの車が迫ってきた。
「お前ら全員、俺の前を走ったことを後悔させてやる!」
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「あぁ……なんてこった。碇には、野堀さんを潰して欲しかったのになぁ」
バンディットとまともにやり合っていたら、コースアウトか、車が壊されてしまう可能性が高い。
「もう1台のカラベルも、いつどんなタイミングで仕掛けてくるか分からないキラーマシンだしなぁ」
2番手を走っていた車部の海老名は、サイドに車を寄せて、2台の車に道を譲った。
決勝戦ではリタイアしてしまうとポイントが全く入らないため、あくまで安全策を取るようである。
しかし、血気盛んな涼と碇は、野堀を追いかけるためにペースを上げ続けた。
「1人だけ、逃がすわけにはいかないよ!」
涼は順調に野堀との差を縮めていたが……。
「へっへっへ。まずは1匹目」
カラベルを風避けに使いながら加速を続けていたバンディットの車が、真後ろから突っ込んできた。
ガツーンとコースから弾き出され、道路から飛び出す際に車体が跳ねて頭を打ってしまい、ヘルメットを被っている首と脳に衝撃が走る。
「ちょっとっ、何するんだよ!」
体も嫌という程シートベルトに食い込んだが、いつもは自分の方が相手を吹っ飛ばしているので、この程度の当たりでは怯まない。
涼はその場で車の向きを反転させてコースに戻ったが、あっという間に最下位に転落していた。
このままゴールしてもノーポイントなので、リタイアしたのと変わらない。
「くそっ」
なんとしてもポイントが欲しい。
でも、前に出ようとすれば、山賊の餌食になってしまう。
海の上は海賊の狩場だが、陸地は山賊の縄張り。
タダでは抜けられそうにない。
再び2位に浮上した碇は、先頭の野堀にはもう追いつけないと判断して、左右に車体を振り回しながら、後ろの2台を妨害し始めた。
「オラオラ。さっさとブレーキを踏んで、失速しちまいな」
先頭を走る野堀の車は見えなくなってしまい、ココから先は残りの3台で泥試合をしなければならないようだ。




