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シャドウ ~真夏の幻影~  作者: 古月 ミチヤ
第8章 大雨
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8-5

「リオン君。医者の説得は難しいし、女の子を1人で運ぶのは無理だろう。俺は残りの2種目に参加しないといけないから……その気があるなら、親父おやじに頼んで介護車両を用意してもらおうか?」


 車椅子ごと運べる車があれば、てっぺん峠のふもとまで、伊織を連れていくことが出来るかもしれない。


「今なら2人の後輩付きで、大サービスだ」


「……ぜひ、お願いします」


 リオンが頭を下げると、野堀は携帯を取り出して、すぐに連絡を取り始めた。


「あ、親父? ちょっと仕事を頼まれてくれないか。もちろん、レース関連の重要事項だから……」


 リオンも、すぐに動き出した。


「海堂さん。僕は病院に戻ります。ですから、次のスプリントレースに出て下さい」


「……だけど、この日の為にキャラックを改造したんだろう? 俺がハヤトを呼びに行こうか」


「いえ。これは僕の仕事です」


 伊織を助けるためには、絶対に諦めるわけにはいかないし……今夜、リオンはレースを選んだが、ハヤトは伊織を選んだ。


 男として、その選択はどうなのか? という疑問は残るが、恋愛バトルはハヤトの勝ちだろう。

 伊織のために、リオンがしてやれることがあるとしたら……。


「僕は必ず、ハヤトを連れてきます」

 

「リオン君。すぐに病院を出られれば、最後のヒルクライムには間に合うはずだ。俺たちは移動に時間をかけて、少しでも開始時刻を遅らせるから」


 野堀は、


「次のスプリントレースのスタート地点まで、時速30キロで移動しよう」


などと無茶を言いだした。

 リオンたちが慌ただしく去っていくと、海堂はすかさず、


「そんなにノンビリ走っていたら、後ろが詰まって大変な事になりますよ」


と忠告したが、陽気なストリートキングは聞き入れない。


「せっかくの楽しいゲームがご破算はさんになるよりマシだろう? それに、スプリントでは海堂君にも頑張ってもらわないと」


 次のレースで野堀が30ポイントを獲得すると、合計70点で再逆転されてしまい、現在50ポイントのシードラゴンは、2番手でゴールしても同点に並ぶのがやっとである。


 もし万が一、海堂が0ポイントに終わってしまうと、最終戦で1位になっても、野堀がコースアウトでもしない限り、逆転不可能になってしまうのだ。


 ストリートキングになれる可能性を残したままハヤトにつなぐ為には、最低でも3位以内でゴールしなければならないのだが……海の上では無敵の海堂も、陸の上での追いかけっこは、あまり得意ではない。


(マズイな。予選のタイムもギリギリだったし、スプリントに出てくるのは、ベテランのエースドライバーばかりだ)


 すっかり頭をかかえていると、見覚えのある顔が近づいてきた。


「その役目……ボクに任せてもらえませんか?」

 

 ブルーのレーシングスーツを着ている水島涼だ。


「なっ。コイツは大事な一戦だから、リタイアしてノーポイントで終わるわけにはいかないんだぞ」


「分かっています。でも、ボクが山吹君のために出来ることは、これくらいしかありませんから」


 キラーマシンのような彼女を起用するかどうかは大博打おおばくちだが……スプリントのコースを走り込んでいた水島とカラベルのコンビなら、結果を出せる可能性もある。


「……もう気持ちの整理はついたのか?」


「はい。ご迷惑をおかけしました」


 水島涼は、すずしい顔でニコリと笑った。

 ただし、これまでの戦績では、半分くらいの確立でリタイアや失格になっているし、彼女が受けたペナルティーの数も数えきれない。


「必ず、ゴール地点まで走り抜くと約束できるか?」


「もちろん。ボクのドライバー生命を賭けてもいいですよ」


 海堂が迷っていると、近くでやり取りを聞いていた野堀が、嬉しそうに笑いだした。


「なんだか面白くなってきたね」


 島を半周するスプリントレースには、毎年、他の車をコースからはじき出すバンディットの壊し屋……いかり呉羽くれはが出てくるし、車部・部長の海老名えびなたけるもエースドライバーである。


 闇夜のステージで繰り広げられるのは、1発退場もありえる四輪よんりんバトル。

 ポイントが少ないバンディットは強引に1位を奪いにくるだろうし、激闘げきとう必至ひっしの状況で、どこまでポイントを稼げるか……。



「悪いけど、手心を加えるつもりはないよ。オレは、露木のかたきをとらないといけないからね」


 野堀がニヤリと笑うと、海堂はため息をつきながら、オーナーの指示をあおいだ。


「社長……どうしますか?」


 色々予定が狂って、もうメチャクチャだ。

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