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「リオン君。医者の説得は難しいし、女の子を1人で運ぶのは無理だろう。俺は残りの2種目に参加しないといけないから……その気があるなら、親父に頼んで介護車両を用意してもらおうか?」
車椅子ごと運べる車があれば、てっぺん峠のふもとまで、伊織を連れていくことが出来るかもしれない。
「今なら2人の後輩付きで、大サービスだ」
「……ぜひ、お願いします」
リオンが頭を下げると、野堀は携帯を取り出して、すぐに連絡を取り始めた。
「あ、親父? ちょっと仕事を頼まれてくれないか。もちろん、レース関連の重要事項だから……」
リオンも、すぐに動き出した。
「海堂さん。僕は病院に戻ります。ですから、次のスプリントレースに出て下さい」
「……だけど、この日の為にキャラックを改造したんだろう? 俺がハヤトを呼びに行こうか」
「いえ。これは僕の仕事です」
伊織を助けるためには、絶対に諦めるわけにはいかないし……今夜、リオンはレースを選んだが、ハヤトは伊織を選んだ。
男として、その選択はどうなのか? という疑問は残るが、恋愛バトルはハヤトの勝ちだろう。
伊織のために、リオンがしてやれることがあるとしたら……。
「僕は必ず、ハヤトを連れてきます」
「リオン君。すぐに病院を出られれば、最後のヒルクライムには間に合うはずだ。俺たちは移動に時間をかけて、少しでも開始時刻を遅らせるから」
野堀は、
「次のスプリントレースのスタート地点まで、時速30キロで移動しよう」
などと無茶を言いだした。
リオンたちが慌ただしく去っていくと、海堂はすかさず、
「そんなにノンビリ走っていたら、後ろが詰まって大変な事になりますよ」
と忠告したが、陽気なストリートキングは聞き入れない。
「せっかくの楽しいゲームがご破算になるよりマシだろう? それに、スプリントでは海堂君にも頑張ってもらわないと」
次のレースで野堀が30ポイントを獲得すると、合計70点で再逆転されてしまい、現在50ポイントのシードラゴンは、2番手でゴールしても同点に並ぶのがやっとである。
もし万が一、海堂が0ポイントに終わってしまうと、最終戦で1位になっても、野堀がコースアウトでもしない限り、逆転不可能になってしまうのだ。
ストリートキングになれる可能性を残したままハヤトに繋ぐ為には、最低でも3位以内でゴールしなければならないのだが……海の上では無敵の海堂も、陸の上での追いかけっこは、あまり得意ではない。
(マズイな。予選のタイムもギリギリだったし、スプリントに出てくるのは、ベテランのエースドライバーばかりだ)
すっかり頭をかかえていると、見覚えのある顔が近づいてきた。
「その役目……ボクに任せてもらえませんか?」
ブルーのレーシングスーツを着ている水島涼だ。
「なっ。コイツは大事な一戦だから、リタイアしてノーポイントで終わるわけにはいかないんだぞ」
「分かっています。でも、ボクが山吹君のために出来ることは、これくらいしかありませんから」
キラーマシンのような彼女を起用するかどうかは大博打だが……スプリントのコースを走り込んでいた水島とカラベルのコンビなら、結果を出せる可能性もある。
「……もう気持ちの整理はついたのか?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
水島涼は、涼しい顔でニコリと笑った。
ただし、これまでの戦績では、半分くらいの確立でリタイアや失格になっているし、彼女が受けたペナルティーの数も数えきれない。
「必ず、ゴール地点まで走り抜くと約束できるか?」
「もちろん。ボクのドライバー生命を賭けてもいいですよ」
海堂が迷っていると、近くでやり取りを聞いていた野堀が、嬉しそうに笑いだした。
「なんだか面白くなってきたね」
島を半周するスプリントレースには、毎年、他の車をコースから弾き出すバンディットの壊し屋……碇呉羽が出てくるし、車部・部長の海老名猛もエースドライバーである。
闇夜のステージで繰り広げられるのは、1発退場もありえる四輪バトル。
ポイントが少ないバンディットは強引に1位を奪いにくるだろうし、激闘必至の状況で、どこまでポイントを稼げるか……。
「悪いけど、手心を加えるつもりはないよ。オレは、露木の仇をとらないといけないからね」
野堀がニヤリと笑うと、海堂はため息をつきながら、オーナーの指示を仰いだ。
「社長……どうしますか?」
色々予定が狂って、もうメチャクチャだ。




