8-3
セカンドゲームは、海の上のステージで行われる。
2人が港につくと、小船に乗せた灯篭が幾つも波間を漂っており、決戦の舞台を優艶に照らしだしていた。
海はユラユラと揺れる淡い光に包まれているが、海の上に突き出ているコース上は真っ暗である。
海堂は、美しい景色を見ながら、タバコをくわえ、ゆっくりと白い煙を吐き出した。
(確か……2年前もこんな感じだったな)
土壇場でトラブルが起きて、いくら待ってもヒサトが来なかった。
(あの人なら必ず来てくれる)
そう信じていたのに、結局、最後まで現れなかった。
『……ごめん、勇那。どうやら行けそうにない……。いきなり後ろから突っ込まれて……体が挟まってるんだ。……もう……駄目かもしれない……』
2年前。
ヒサトが最後に電話をかけた相手は、海堂だった。
約束を守れない事が申し訳ないと……。
本当は、家族にも連絡したかったのだろうが、通話中に意識を失ってしまったようだった。
あの時の衝撃は忘れられない。
鋼の心臓と言われる海堂でさえ、2年経った今でもやりきれないのだから……ハヤトに無理してでも走れ、なんて事は言えないのだ。
(無理なものは無理だってことを理解してやるのが、俺の務めか)
海堂は、
(嵐になりそうだ……)
と思いながら肩をすくめた。
現実の空は快晴だが、リオンは納得できずに暴れるだろうし、伊織の容態次第では、ハヤトが完全にリタイアしてしまうだろう。
シャドウが見えなくなってから、彼は明らかに精彩を欠いていた。
(もしかすると、ハヤトを走らせていたのは……)
本当に、ゴーストカーだったのかもしれない。
――この先、伊織まで失ったら、どんな結末が待っているのだろう?
恐ろしい予感がして、身震いしながら2本目のタバコに火をつけた。
熱帯夜なのに、ひどい悪寒がする。
2年前のような悪夢の再来。
もし、荒れ狂う運命の波を止めることが出来ないなら……。
せめて、ずぶ濡れになる覚悟くらいはしておかなければ……。
***
海堂がチキンゲームの準備をしていると、すぐ側から、
「落ち着けよ、露木。結果なんて気にせずに、目一杯楽しんでこい!」
という野堀の声が聞こえてきた。
野堀ガレージの連中は、
「負けたら皆で、飲みにいこう」
と騒いでいる。
一方、港に並んでいる倉庫の陰からは、恐ろしい声が響いてきた。
「絶対に負けるんじゃねぇぞ。壁にぶつけたら、どうなるか分かってんだろうなぁ!」
バンディットのリーダーは、手下のドライバーにプレッシャーをかけ続けているようだ。
倉庫の前では、工業大・車部のメンバーたちが、学生らしく円陣を組み、気合を入れている。
「今年こそ優勝目指して頑張るぞ」
「オーッ!!」
どのチームも盛り上がっているようだが、リオンと海堂を待っていたのは、近くに修理工場があるオーナーだけだった。
「海堂。調子はどうだ?」
「……ボチボチですね。リオン君が頑張ってくれたので」
ポイント的には問題ないが、ハヤトがいない事を告げると、オーナーの顔が曇ってしまった。
「そうか……」
だが、伊織の容態を知っているので、何とも言えない。
まるでシードラゴンの頭上にだけ、黒い雨雲が浮かんでいるようである。
先の見通しなんてつかない程のドシャ降り状態……。
(でも、人生なんてこんなもんか)
うまくいかなくて当たり前。
海堂がスタート地点に車を並べると、遥か先に黒い壁がそびえ立っているのが見えた。
チキンレースは2台ずつで行う総当たり戦で、ドライバーの途中交代は認められておらず、1度でも壁にぶつけた時点で、そのチームは失格となる。
ゲームが始まると、海堂はじっくりスピードを上げた。
隣の車とほぼ同時に青いランプを点灯させ、少し送れてブレーキランプを光らせる。
その差は、ほんの数秒に思えたが、先に対戦相手の車が停止すると、まだ動いている海堂の車に注目が集まった。
青い車は一直線に壁に吸い寄せられていく。
もし止まりきれなければ失格だ。
すぐに勢いが衰えて、キュッと停止する。
壁際、わずか数センチ。
「うおおおおおお!」
その途端、港は花火のような大歓声に包まれた。
観客たちが興奮に酔いしれ、奇声を上げて喜んでいる。
機械のように正確なブレーキング。
鋼鉄の魔人が次々に対戦相手を蹴散らして、シードラゴンが完全勝利!
***
「これで30ポイント獲得ですね」
リオンは興奮しながら計算してみた。
総当り戦の結果、2位になったのはバンディットで『20ポイント』獲得。
最下位だった車部は追加ポイント無しで、前回獲得した『10ポイント』のまま。
露木が3位と惜敗してしまった野堀ガレージは、10点が加算されただけで、合計『40ポイント』。
一方、シードラゴンはドラッグレースの20点に、チキンゲームの30点が足されて逆転に成功。
合計『50ポイント』でトップに躍り出た。
「やった!」
しかし、ハヤトが来なければ最終的には失格になってしまう。
残りは2種目。
(どうして来ないんだ⁉ まさか、本当に逃げるつもりか?)
リオンの我慢は、そろそろ限界に近づいていた。
もし来なかったら、どうしてくれようか。




