8-2
最初の競技には、リオンが参加することになった。
まだ1年目の新人とはいえ、カートの世界では名を上げ始めたチャンピオン。
スタートさえ巧くいけば、キャラックでも充分戦えるだろう。
勝負は一瞬。
息を殺して見守っている観客たちの前に、4台の車が並べられる。
コースは、障害物の無い真っ平らな駐車場……。
***
ストリートレースが1ヶ月以上も行われるのは、この期間しか公道バトルの経験を積むことが出来ないからである。
いくらレーサーを育てる島であっても、普段は安全運転をしなければならない。
いや……人々の安全を護ることこそ、ドライバーにとって最も大切なことではないだろうか。
カーレースは、泡沫の夢。
もうすぐ夢のような時間が終わる。
すっかり陽が沈み、最後の夜が訪れると、海の上に巨大な花火が打ち上げられた。
真っ暗な夜空に色とりどりの大輪が咲く。
夏の風物詩によって戦いの火蓋が切られると、間髪を入れずドラッグレースがスタートした……。
4台の車が静止状態から動き出すが、最初に飛び出したのは白いキャラック。
「おお。あのドライバー、スタート巧いなぁ」
人ごみの中で、誰かがリオンを褒めた。
「だけど、勝つのはアイツじゃなさそうだ」
「確かに、伸びが悪いもんな」
グングン加速していくのは、野堀ガレージの車である。
「白い車が抜かれるぞっ」
トップが入れ替わり、3番手はバンディット。
しかし、出遅れていた車部のマシンが異様な加速を見せた。
「いっけ~! 車部伝統のニトロ加速だ」
「ぶち抜け~」
ニトロといっても爆発物とは関係ないので危険は無い。
ターボのように一時的にパワーを増大させる仕組みを利用して、猛追する。
車について学んでいる工業大のチームには、ドライバーだけでなく、メカニックを目指す学生も多いので、毎年、車にも工夫を凝らしているのだ。
最下位だった車部がバンディットを抜いて3位に浮上したが、もう距離が無い。
次々に4台の車がフィニッシュラインを通過して、順位が確定する。
1位の野堀ガレージが30ポイント。
2位のシードラゴンが20ポイント。
3位に滑り込んだ車部が10ポイントを獲得し、最下位になってしまったバンディットは、0ポイントで次の競技へ。
「くっそ~。こうなったら、チキンゲームでは海に落としてやるからな~」
「あんまり調子に乗ってると、死ぬことになるぜ~」
いかにも悪そうな下っ端たちが舌を出し、ヘラヘラと薄気味悪い笑みを浮かべながらライバルたちを脅して回る。
「海堂さん。あのチームには気をつけた方がいいですよ。スタート前にも言いがかりをつけてきたんです」
まずまずの1勝を上げたリオンは、戻ってくるなり次のレースの心配をし始めた。
だが、埠頭のステージは海堂の狩り場。
誰にも邪魔はさせない。
2度と、同じミスもしない。
「……気にするな。あれが『山賊』のやり方だからな。行くぞ……」
車を連ねて次の会場に移動する。
リオンは出発前に何度も携帯を確認してみたが、ハヤトからの連絡は無かった。
(何考えてるんだ? 本当に来ないつもりか⁉)
途中でチームを抜けてしまった水島は、勝利してもポイントが加算されない補欠要員に降格してあるので参加しなくても大丈夫だが……リーダーのハヤトが来なければ、シードラゴンは失格になってしまう。
「海堂さん。何か言って下さいよ」
リオンは怒りや不満をぶつけたが、
『無理にでもハヤトを連れてこい』
という言葉は返ってこなかった。
「行ける所まで……」
自分たちだけで進み、その先は、ハヤトに任せるという。
「もしハヤトが来なかったら、どうするつもりですか?」
「その時は……諦めるしかないだろうな」
そんな海堂の答えを聞いたリオンは、持っていた携帯を地面に叩きつけた。




