6-5
島内で行われている全てのレースが終了し、夜遅くになってから3台の車が修理工場のガレージに戻ってくると、首を長くして待っていた伊織が3人の成果を聞き始めた。
ところが、持っていたボールペンをポトリと落とし、ガタガタと震え始める。
「……伊織ちゃん。どうした? 具合でも悪いのか?」
とっさに海堂さんが駆け寄って、伊織の額に手を当てたが、熱は無いらしい。
「そうだ。事務所の中に毛布があったはず」
リオンも車から飛び出した。
「伊織……どうしたの?」
僕も顔をのぞき込んでみたが、どんどん青ざめていく。
かなり具合が悪そうだ。
「驚かせてごめんなさい。実は……前から時々、寒気に襲われることがあって」
「それはいつから?」
「……多分、夏休みが始まった頃から」
「もう随分経っているじゃないか! どうして何も言わなかったんだよ」
僕が声を荒げると、伊織は、
「大丈夫よ」
と強がった。
しかし、事務所に移動して毛布にくるまっても、
「寒い……寒い……」
と言いながら震え続けている。
「一体、どうしたんだろう」
室温は30度近くもあるので、暑いくらいなのだが……。
「どうも様子がおかしいな」
海堂さんは、僕にネギとホッカイロを買ってくるよう言いつけた。
「なんでネギなんですか?」
「……昔、俺が風邪をひくと、ばあちゃんがネギを首に巻いたり、いや、鼻に突っ込むんだっけ? いやいや、ケツに挟むんだったかな」
「海堂さんっ! 伊織にそんな事をしないで下さい」
「とにかく、色々買ってきてくれ。大至急だ」
「はいっ」
僕は伊織にもらったお守りをつけてある車の鍵を握りしめ、自分のガレオンに飛び乗った。
でも……真夏にカイロなんて売っているだろうか?
***
近くのコンビニで買い物をしていると、やっぱり夜間病院に連れていくことにしたという連絡が来て、僕も病院に直行し、待合室にいたリオンに聞いてみた。
「それで、伊織の病気は何だったの?」
これまでは健康体だと思っていたが、美人薄命という言葉もあるので、もしかすると不治の病を隠していたのかもしれない。
僕が答えを迫ると、リオンは難しい顔をしたまま首を横に振った。
「今も検査を続けているけど、原因が分からないらしいんだ」
「原因不明⁉ あんなに寒がっているのに?」
「血液にも問題が無いし、何のウイルスも見つからなくて、医者もお手上げらしい」
「暑い季節だから、食中毒の可能性は?」
「それも無いって。彼女は食欲が無くて、ほとんど飲まず食わずの状態だったみたいだし」
「それじゃあ、栄養失調?」
「さぁね」
一体、伊織の身に何が起きているのだろう。
僕が途方に暮れていると、リオンがスマホを取り出し、電子書籍の検索を始めた。
「おいっ。こんな時に読書なんて……」
不謹慎だから止めさせようとしたが、リオンは真剣な顔で画面をタッチし続けている。
「昔、似たような症状が書かれた本を読んだことがあるような気がするんだ」
「もしかして、医学書を読んでいたの?」
「いや、そうじゃないけど……子どもの頃にチラッと見ただけだから、タイトルが思いだせなくて」
リオンがスマホと睨めっこを始めると、僕はなす術がなく、ウロウロと病院の廊下を歩き回った。




