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港に着くと、いつにも増して観客たちが盛り上がっていた。
何事かと思いながら群衆に入っていくと、野堀ガレージのリーダーが、1つ年下の海堂さんに対戦を申し込んでいた。
「これ以上、シードラゴンのポイントが伸びるのはマズイんでね。止めさせてもらうよ」
「……もうボスのお出ましですか?」
しかし、野堀さんは以前からチキンゲームを敬遠していたはずである。
海堂さんがそれを指摘すると、現在のストリートキングは、
「俺は愛車の『カンパネラ』をぶつけたくないから、これまでは参加しなかったけど……今夜は親父の車を借りてきたから大丈夫」
と、情けない秘密を暴露した。
いつもは夏に咲く釣鐘草のカラーを施した青紫色のスポーツカーに乗っているのだが、今夜は渋い色のセダンを使うらしい。
「リーダー。そういう事は、あまり大きな声で言わない方が……」
「そうですよ。やっと王者になれたのに、格好悪いじゃないですか」
側にいる2人の後輩たちが助言するも、底抜けに明るい性格の野堀さんは気にしていないようだ。
「海堂君。露木が積年の恨みを晴らしたいと言っているから、この後、俺たちと連戦してくれないか?」
露木さんというのは海堂さんと同い年の大学生だが、以前、鋼鉄の魔人にボロ負けしたせいで自信を失い、長期スランプに陥ってしまったという。
「今夜は、昔の借りを返させてもらいます」
キッチリ前髪を固めてオールバックにしている露木さんが一歩前に踏み出すと、もう1人の後輩が声を張り上げた。
「リーダー、頑張って下さい! それから、露木さんもしっかりリベンジして下さいよ」
「市川君に言われなくても、そのつもりです」
相手チームは3人のメンバー全員が揃っている。
それに対して海堂さんは1人。
すっかりアウェイの雰囲気に気圧されてしまったのか、浮かない顔をしているので、僕とリオンは人ごみをかき分けて駆け付けた。
「……お前ら、どっから湧いてきた⁉」
「たまたま居合わせただけなんですけど」
「ちょうど良かったみたいですね」
これで形勢も五分と五分。
後輩の前では無様な姿など見せられない、と海堂さんの導火線にも火がついて、
「野堀さん。大量ポイント、ありがとうございます」
と敵を煽りつつ、青い車に乗り込んだ。
「コラ! ポイントなんてやらないぞ。勝つのはコッチだからな。露木。今こそ、お前の進化を見せてやれ」
こうしてシードラゴンと野堀ガレージの決闘が始まった……。
***
野堀さんの狙いはおそらく、際どい勝負に持ち込んで、海堂さんの車を壁に接触させてしまうことだろう。
このゲームは1度でも失敗すると不安が生じ、その後の成功率や精度が下がってしまうからだ。
大事な決勝戦の前に、厄介な鋼鉄の魔人を潰しにきたようだが……実際には、露木さんの方が苦戦を強いられているようだった。
あと少しが攻めきれない。
「くっ」
後輩が5連敗してしまうと、野堀さんは壁際ギリギリまで寄せる危険な勝負に出てきたが、キングの面子があるので、安易に車をぶつけるわけにはいかない。
「ああぁ」
「危ない!」
「ドッチだ⁉」
毎回、2台の車が至近距離で停止する接戦が続いたが、結局、最後に野堀さんが壁を擦ってしまい、シードラゴンが大量ポイントを手に入れた。
「……まいったね。さすがに海堂君は手強いなぁ」
常にポジティブ思考な野堀さんには、敗北のダメージなんて入らないみたいだが、決勝でもチキンゲームを担当する露木さんは、取り戻したはずの自信を失ってしまったようである。
「1年以上もブランクがあるのに、あの正確さは何なんですか⁉ 信じられません」
「リーダー。これじゃあ俺たちの方が追い詰められてますよ!」
後輩たちは次々に不安を口走ったが、野堀さんは嬉しそうに場を盛り上げた。
「いいの、いいの。ストリートレースは、ライバルがいないと面白くないわけよ。バンディットの奴らは汚いタックルばかり仕掛けてくるし、俺はもっと爽快なバトルがしたいんだ。今年はヒサトの弟も出てくるし、楽しくなりそうだなぁ。……海堂君。絶対に決勝に残ってよ」
野堀さんは全敗したにも関わらず、意気揚々と引き上げていった。
彼は、何があってもメンタルが崩れない不滅のテンションの持ち主だと言われている。
ただ、神経質そうな露木さんと、もう1人の市川さんは、
「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」
と頭を下げながら、コソコソ退散していった……。




