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次の日は朝からお客が少なく、修理工場が暇だったので、僕はオーナーに許可をもらい、リオンと水島が働いているホテルの近くにあるトレーニングルームに行くことにした。
そこには運転の模擬訓練が行える『ドライビングシミュレーター』が置かれている。
夜間に行われるストリートレース以外の時間に公道を走って練習することは出来ないので、僕たちは高性能なシミュレーターを使ってコースを覚えたり、運転の感覚をつかんでいるのだ。
こうなったら徹底的にてっぺん峠のコースを走り込み、ヒルクライムの走り方を身につけるしかないだろう。
何台ものシミュレーターが設置されている建物に入っていくと、偶然、クラスメイトたちに会った。
「お。ハヤトじゃん」
「今年はストリートレースに参加するんだって?」
「ちょうどいいや。大事な話があるから、そこの公園まで付き合ってくれよ」
同じカートスクールの3人組に声をかけられ、リゾートホテルの前にある大きな公園に移動することになった。
そこでは明るい日差しの下、観光客が記念撮影をしたり、小さな子どもたちが噴水の周りで遊んでいたり、のどかな光景が広がっている。
僕らは熱い日差しを避けるように、ひと気の無い木陰に入り込んだ。
「ごめんな、ハヤト。俺たち、お前に声をかけなかったこと、悪かったと思ってるんだ」
いきなり1人が頭を下げると、他の2人も親しげに声をかけてきた。
「まさか走ると思わなかったからさ。最近は公式戦にも出ていなかったし」
「だけど、いくら仲間が見つからなかったからって、転入生と組むことはないぜ。今からでもコッチのチームに移ってこいよ」
「ありがとう。誘ってもらえるのは嬉しいんだけど……」
どうやら話というのは、チームへの勧誘だったようだ。
「ゴメン。今はもうシードックでお世話になっているから」
「あぁん? よく聞こえなかったなぁ。今、何て言ったんだ?」
「俺たちと一緒に走りたいんだろう? ハヤト。遠慮するなって」
「えっ? いや、その……」
3人は僕を囲む輪の大きさをどんどん狭めてくる。
「そういえば、お兄さんのチームを復活させたらしいな。だったら、俺たち3人をシードラゴンに入れてくれよ」
「そりゃいいな。元ストリートキングのチームで走れるなんて光栄だぜ。子どもの頃からの付き合いなんだし、仲良くやろうぜ~」
「でも……リオンと水島はどうするんだよ」
チームのメンバーは、最大でも4人までである。
「適当な理由をつけて追い出しちまえばいいだろう」
「なんで、あんなキザ野郎や、男女と組んでいるんだ?」
「それは……」
「ハヤトの変わり者好きは、今に始まったことじゃないけどさぁ。水島涼はヤバすぎるぜ。映画のスタントじゃあるまいし、暴走女にお似合いのチームは『バンディット』だと教えてやれよ」
「そんな事は出来ないよ」
バンディットというのは、不良や暴走族のような人たちばかりが集まっているチームなので、女の子が入ったら襲われてしまうかもしれない。
「とにかく、僕はもう他の人と組む気は無いから」
「まさか……カートチャンピオンや美人ドライバーとは組みたいけど、俺たちとは組みたくないって言うのか⁉」
「いや、違うって」
「ハヤトちゃんは、いつからそんな性格になっちまったんだよ~」
「そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「だったら、俺たちと組んでくれるよな。カモになりそうな奴も捕まえてあるから、楽にポイントを稼げるぞ」
「……そんなやり方をするなら、絶対に組まない」
僕が断ると、後ろから突き飛ばされた。
地面に這いつくばった顔に土が付き、雑草の匂いがする。
「何するんだよ!」
「あのなぁ。ストリートレースはカートの大会とは違うから、まともに勝負したって、金持ちの大人たちには勝てないんだ」
「そうそう。俺たちだって、好きでこんな作戦を立てたわけじゃないんだぜ」
「やっぱり、ハヤトには策士が必要だろう。このままじゃ、せっかくの腕が無駄になる」
「でも……僕は汚い手なんて使いたくない」
抵抗を続けていると、次第に空気が悪くなってきた。
「ったく。お前だって、10年以上も一緒にいた幼なじみを捨てて、美人ドライバーに乗り換えたくせに」
「ほんとヒドイよなぁ。俺はオカルト女なんて無理だけど、霊感少女がかわいそうだぜ」
「違うって。水島とは、そういう関係じゃないんだ」
「うるせぇっ! 彼女を乗せて走っている所を何度も見てるんだよ。どうせ格好つけようと思って、ストリートレースに参加することにしたんだろ?」
脇腹を思いきり蹴り上げられると、靴の感触が薄手の衣服をすり抜けて、ろっ骨まで響いてきた。
「がぁっ!!」
「おい。やめとけって。怪我で退場とかシャレになんねぇから」
僕は地面の上で体を丸め、痛みを堪える為に歯を食いしばった。
「でも、俺たちの敵になるなら仕方ないだろ。今ならハヤトがリタイアしたって、誰も疑問に思わないだろうし」
「それもそうか」
「やっちまえ!」
3人がさらに暴行を加えようとすると、
「何やってるんだ、君たち」
という声がして、遠くの方から警備員が近づいてきた。
「うわっ。やべぇ」
「なんでココが分かったんだ⁉」
「とにかく逃げるぞ。ハヤトも来いっ」
クラスメイトたちは傷害事件にされてはかなわないと僕の事も連れていこうとしたが……脇腹を押さえたまま立ち上がれないことに気が付くと、諦めて逃げていった。
「くそっ」




