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シャドウ ~真夏の幻影~  作者: 古月 ミチヤ
第4章 蒼炎
25/53

4-6

「おいっ。どうして水島が乗るんだよ」


「新しいエンジンを試すんでしょう? 昨夜、ターボに換えると言っていたじゃないか。ボクは車に詳しくないから、色々教えてもらおうと思って」


 有無を言わせぬ笑顔を向けてくる。

 美人のスマイルは凶器だ。


 おまけにミニスカートで迫られたら、大抵の男子高校生はやられてしまう。

 それは、男のさがだから仕方がない。


(どうして、今日に限ってスカートをはいているんだよ)


 今は水島を乗せている場合ではないのだが……僕は、危険を回避することが出来なかった。

 自らハンドルをきりそこねて、柔らかいスポンジバリアに突っ込んでしまう。


   ***


 たっぷり1時間以上も試運転を行った後、大急ぎでガレージに戻ってみると、伊織と海堂さんの姿が消えていた。

 事務所のソファーでは、オーナーがいびきをかきながら眠っている。


「監督さん! 伊織を知りませんか?」


「んあ? さぁなぁ。さっきリオン君にも聞かれたが、ワシは見てないぞ」


(海堂さんは、ドコに行ったんだ⁉)


 僕は嫌な予感がしてイライラしたが、行き先が分からないのではどうしようもない。


「山吹君。そろそろストリートレースが始まる時間だよ」


 辺りが薄暗くなり、水島に声をかけられると、僕はヒルクライムレースに参加するため、てっぺん峠に向かった。

 ……でも、全く集中できない。


 今は1ポイントでも多く稼がなければいけないのに、エンジンを替え、生まれ変わったガレオンに乗っても、ヒルクライムでは歯がたたなかった。


 この競技で最も速いのは、現ストリートキングの野堀のぼりさんで、それ以外にも自慢のスポーツカーを運んできた本土の走り屋たちがしのぎを削っている。


 本物のカーレースを楽しみたいドライバーは、チキンゲームやゼロヨンではなく、平地でのスプリント(短距離レース)や、ヒルクライム(山登り)に集まってくるからだ。


 ちなみにとうげを下るダウンヒルという競技もあるが、夜間の走行が危険なため、上位ライセンスを所持している20歳以上のドライバーしか参加出来ない。


(毎晩、勝ち目のないレースに参加していて、本当に大丈夫なのかなぁ)


 不安は日に日に増していくが、言われた通りにやってみるしかないだろう。


   ***


 レースを終えて修理工場シードックに戻ると、伊織がパソコンの前に座っていた。


「伊織……。さっきはドコに行ってたの? 夕方。僕が試乗に行った後」


「食事に行ってきただけだけど」


「あぁ、そう」


 会話はそれだけで終わってしまった。

 一体、誰とドコの店に行き、何を食べ、どんな会話をしたのか……本当は根堀り葉堀り聞き出したかったが、さすがに変に思われてしまいそうなので、グッとこらえて我慢がまんする。


 伊織は特に変わった様子もないので、きっと何も無かったのだろう。


 こうやって、いつも曖昧あいまいなまま終わらせてしまう。

 それがいいのか悪いのか……僕には分からなかった。


 現状維持を続けていれば、少なくとも今の関係が壊れてしまうことはないだろう。

 でも、そんな悠長ゆうちょうな事を言っているから、海堂さんにまでスルリとオーバーテイクを決められてしまったのではないだろうか。


 早く遅れを取り戻さなければ……。


「あの、伊織」


 今度は僕と……と言いかけた時、白いキャラックが戻ってきて、伊織はリオンの車に駆け寄っていった。

 そして、熱心に今夜の戦績を確かめている。


 僕も聞かれたが、どうしてリオンの結果まで気にする必要があるのだろう。

 胸がモヤモヤする。


 水島も戻ってくると、伊織は3人のポイントを発表した。


「今夜の結果は、リオンが7ポイント。水島さんが5ポイントで、ハヤトは0ポイントね」


「はあ⁉ なんだよそれ。僕たちは同じチームなんだから、競争なんてしていないんだ」


「そうなんだけど……海堂さんが、毎晩3人のポイントを記録して読み上げろって言うから」


「なんでそんなことを?」


 僕は不機嫌ふきげん形相ぎょうそうになってしまったが、リオンはニヤニヤと笑みを浮かべている。


「なるほど。それなら僕は、毎晩、誰よりも多くポイントを稼いでこよう」


 水島もバーナーのように熱い闘志をみなぎらせる。


「ボクだって、負けるわけにはいかないね」


 でも……僕は慌てて抗議した。


「ちょっと待ってよ。僕は毎晩、ヒルクライムに参加しないといけないから不利なんだ」

 

「それを言うなら、ボクだって強敵だらけのスプリントに参加しているよ」


「ハヤト。僕たちは元々、場所も対戦相手もことなるレースに参加しているんだから、同じ条件で戦うなんて無理なんだ」


「だけど、勝負をするなら互角ごかくの条件でなければ納得出来ない」


 大声で言い争っていると、海堂さんが現れた。


「……だったら、明日からはなるべく3人で一緒に行動しろ」


「どうしてですか⁉」


 ポイント稼ぎで火花を散らしているライバル同士が、四六時しろくじちゅう顔を突き合わせていたら喧嘩けんかになってしまいそうだが、なんでわざわざ仲間割れしそうな事を言ってくるのだろう。


 先輩は明確な答えを明かさないまま、タバコを吸う為に事務所から出ていってしまった。


「意味が分からない」


 一体何が目的なのかと伊織に聞いてみたが、いきなり連れていかれた焼肉屋ではポイントの計算方法などを教えられただけで、海堂さんの考えまでは分からないという。

 こんな勝負はくだらないと思うが、リオンはポイント競争に参加の意思を示す。


「面白そうじゃないか。僕は全然構わないよ」


「ボクも、この戦略は有効だと思うけど」


「戦略だって……?」


   ***


 たかがポイント比べでも負けたくない。


(僕だけ0ポイントなんて最悪じゃないか!)


――どうして、こんなに熱くなってしまうのだろう。


 とにかく、このままヒルクライムで負け続けている場合ではない。

 なんとしても勝てるようにならなければ……。

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