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シャドウ ~真夏の幻影~  作者: 古月 ミチヤ
第4章 蒼炎
23/53

4-4

「まぁ、現状では決勝に残れる可能性は低いと思うが……」


 海堂さんは前置きしてから、僕の質問に答えてくれた。


「もしハヤトが、野堀のぼりさんとの因縁いんねんの対決を引き継ぐつもりなら……ヒルクライムで戦うしかないからさ」


 決勝では4つの競技が行われるが、車の性能や適性からいえば、加速力があるガレオンに乗っている僕がゼロヨン。ブレーキ性能が高いキャラックに乗っているリオンがチキンゲームに参加して、最も性能が高いカラベルに乗っている水島がスプリントレースで戦わざるをえない。


 パワーが必要なヒルクライムもカラベルで戦うのが理想だが、兄さんのライバルだった野堀さんが出てくるのは、後半のスプリントとヒルクライムだけなので、どうしても最後の山登りで対戦しなければならないという。


 ストリートの奇才きさいと呼ばれる父親の影響で型破りな走りを好む野堀さんは、スピードよりもパフォーマンスを重視する変則的なドライバーで、タイムのために機械的な走りを叩き込まれたカート選手とは全く違う走り方をする。


 来年からは社会人になってしまうので、ストリートレースに参加するのは今年が最後という噂もあるし、現在のキングと対戦したいなら、コレが最後のチャンスになってしまうかもしれない。


 ……となると、やはり決勝進出を目指さなければいけないようだ。

 

 正直言って、今の僕には荷が重い。

 だけどカーレースの醍醐味だいごみは、最後まで何が起きるか分からないことだ。


 だから僕がやるべきことは、けして諦めないことと、今の自分に出来ることを全て試して、最後まで戦い抜くこと。


「いいか、ハヤト。時間が無いから、死にもの狂いでヒルクライムを攻略するんだ。負け続けても、絶対にやめるなよ」


 海堂さんは、運転スキルをきたえるためにも、毎晩ヒルクライムレースに参加するようアドバイスしてくれたが、ターボに替えたばかりの慣れない車で挑んでも、全く勝てないだろう。


「もちろん、最初は勝ち負けなんて関係ない」


「でも……勝てないレースにばかり参加していると、ポイントが稼げないんです」


 決勝に進めなければ、いくら練習しても意味が無い。

 僕は1番の不安を口走った。


 現在のシードラゴンの順位は、中の下くらい。

 3人がかりで稼いでいても、決勝に残るのは難しい。

 

「あの……海堂さん」


 僕は思いきって、先輩をチームに誘ってみた。


「力を貸してもらえませんか? お願いします」


 勢いよく頭を下げると、海堂さんは再びタバコをくわえ、フ~ッと静かに煙を吐き出す。

 何度か煙を吐きながら、随分迷っていたような鋼鉄の魔人は、うつむきながらボソリと答えた。


「……無理だろうな」


「どうしてですか?」


 僕には、先輩が走りたがっているような気がしたのだが……。


「……ライセンスが無いんだよ」


 海堂さんは頭をきむしった。


「ライセンスをどうしたんですか⁉」


 僕は何度もたずねてみたけれど、


「コラ、海堂。ガレージの中でタバコを吸うなと言ってるだろう。ココは禁煙だ!」

 

 オーナーに見つかってしまい、先輩は何も答えないまま、外に行ってしまった。


   ***


 いつも背中を丸めて、憂鬱ゆううつそうに働いている海堂さんの姿は、なんだか哀愁あいしゅうびている。


――一体、過去に何があったのだろう。


 僕はどうしても気になって、事務所にいる幼なじみに聞き出してもらおうと、頼んでみた。


「伊織……。ちょっといいかな」


 すると、彼女はすでに調べてあると言って、先輩の秘密を教えてくれた。


「これは監督さんに聞いた話なんだけど、ヒサトさんの事故があった後、かなりれてた時期があるらしいの」


 鋼鉄の魔人も、理不尽りふじんな事故によって夢を奪われてしまい、2年前にストリートキングの栄光を取り逃し、すさんだ生活をしていた時に事故を起こして、競技用ライセンスを失ってしまったという。

 そこでメカニックに転向し、1からやり直しているそうなのだが……。


「先輩が事故を起こしただって⁉」


 僕は自分の耳を疑った。


(信じられない……)


 海堂さんは、兄さんが最も信頼していた後輩で、正確無比な運転をする人なのに。


「もう免停期間は終わっているんだけど、いつまでっても競技用ライセンスを取り戻そうとしないらしいのよ」


「……それじゃあ、手伝ってもらうのは無理なのか」


   ***


 どうやら、2年前に人生が狂ってしまったのは、僕だけではなかったようだ。

 もし自分と同じように苦しんでいる人がいるとしたら……僕には何が出来るのだろう。


『もしかしたら、力になれるかもしれないと思って来たんです』


 ふと、水島の言葉が脳裏をよぎった……。

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