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深夜になっても煌々(こうこう)と明かりが点いているガレージに戻ってみると、海堂さんと、ねじり鉢巻きをしているオーナーが、カラベルの周りで話し合っていた。
「……社長。どうも不自然ですよ。新しいタイヤの減りが早すぎます」
「それに、車のボディーにも、何度も擦ったような痕跡があるんだよなぁ」
夕方見た時には真新しい状態だったカラベルには、チキンゲームで壁に突っ込んだだけでは出来ない傷跡が、いくつも付いているという。
レースをしていれば、どうしたって車同士の接触が起きてしまうのだが、水島の車は『不慮のアクシデント』では説明できない程、傷だらけなのだ。
「まさか、ガードレールに擦っているんじゃないだろうな」
海堂さんは、深いため息をつきながら僕を見た。
「なぁハヤト。あの女ドライバーの実力は、きちんと確かめたのか?」
「いえ。直接、走る所は見ていませんが……カートの選手みたいですし」
リオンが文句を言ってこなかったので、そこそこ速いドライバーだと思い込んでいた。
「ちょっと気になるから、事務所のパソコンで、カートの戦績を調べてみろ」
「……はい」
海堂さんに言われて水島のブログを見てみると……参加していたレースの半分くらいがノーポイントで終わっていた。
それは、マシントラブルや、コースアウト等で途中退場した事を示している。
最も良かった成績は5位だが、順位はいつもバラバラなので、安定して上位にランクインしているリオンとの実力差は明白だ。
「もしかして……そんなに速くなかったのか?」
「それどころか、車のセッティングを見ると、彼女はメカに強くないぞ」
パソコンをのぞきに来た海堂さんが顔を曇らせると、オーナーも心配そうに口走った。
「いろんなパーツに金をかけている割には、全くバランスが取れていないからな。この状態では、かなり走りずらいはずなんだが……」
「もし、自分の車の状態が分かっていないようなら」
チームから外した方がいいとアドバイスされた。
「ちょっと待って下さい。水島は、この車を手に入れたばかりなので、これから調整するつもりだと思います」
「……そうか。でも、いきなりオーバーランするようなドライバーは信用しがたい。少し、気を付けておいた方がいいぞ」
「はい」
僕は、思わぬ爆弾を抱えることになってしまったようだ……。
***
水島の車は翌日の夕方までには修理出来たけれど、工場内には重苦しい雰囲気が漂っていた。
とにかく、今夜は安易に接触しないよう注意してから、水島とリオンを送り出す。
……僕は、3日間だけ、何も言わずに様子を見ることにしたが、水島が車を調整するような様子は見られなかった。
「水島。少し、車のセッティングを変えた方がいいんじゃないの?」
「どうして?」
「どうしてって……」
(本当に、分かっていないのか⁉)
「僕に少しだけ、この車を調整させてくれないか?」
「まさか、レースの間だけ車を交換して欲しいとか言い出すつもりじゃないだろうね」
「けして、そういうわけじゃないから」
もちろん、高性能なカラベルで戦いたいが、さすがに『車を降りろ』とは言えないので、せめて彼女のマシンを最適な状態にして、トラブルを回避しなければならない。
実をいうと、チームのホームページに『水島に車をぶつけられた』というクレームが何件か届いているのだ。
このままでは、シードラゴンの評判が悪くなってしまう。
「僕が手伝うから、車のバランスを変えてみよう」
「分かったよ。そんなに乗りたいなら、合鍵を預けておくから、昼の間に調整しておいて」
水島は、今夜もレースに出かけてしまった。
***
「はぁ……」
ため息をつきながら事務所に戻ると、もう1つの爆弾が、不満そうな顔で爆発のタイミングをうかがっている。
「ハヤトはどうして、水島さんの面倒ばかりみたがるの?」
伊織は、僕と水島の仲を疑っているようだ。
「一言で言うなら、問題児だから……かな」
「あぁ。手がかかる子ほど可愛いってやつね」
なんだか違う意味で捉えられているような気もするが、全くの誤解なので、煩わしくて仕方がない。
おまけにリオンがレースから戻ってくると、
「長い間、運転していたせいで背中が痛い」
とか何とか言っては、伊織にマッサージを要求する。
「あぁ。気持ちいい。伊織……もっと強く。あぁ」
ソファーの上で至福の声を漏らしている姿を見ると、腹が立って仕方がない。
チームのポイントはほとんど貯まらないのに、僕のストレスだけは溜まる一方だ。




