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シャドウ ~真夏の幻影~  作者: 古月 ミチヤ
第2章 黒い影
13/53

2-6

 噴水ふんすいを見ながら話し合っていると、やはり何か思い残した事があるんじゃないか……という話になって、僕は2年前のことを思いだした。


 夏の終わり……。

 ストリートキングを決める最後の戦いが行われていた夜。

 兄さんのチームは、メンバー全員が参加出来なかったせいで失格になってしまい、子どもの頃からライバルだった野堀さんとの決着もつけられなかった。


「もしソレが心残りなら、ハヤトが、ヒサトさんの代わりにキングを目指してみたら?」


「えっ。僕が⁉」


「だって、この時期に車が現れたのは、あの時の無念を晴らしてほしいからじゃないの?」


「でも……」


 シャドウは勝手に走り出すゴーストカーなのでコントロールすることは出来ないし、もし亡霊たちにデスゲームを仕掛けられたら殺されかねない。


「私もゴーストカーに乗るのは反対だけど……ハヤトには自分の車があるじゃない。ダークレッドのガレオンで、ストリートキングを目指すのよ」


 そうすれば兄さんのライバルたちとも戦うことになるので、必然的に決着だってつけられる……という伊織の提案はもっともだったが、そう簡単にはいかないだろう。

 まずは仲間を集めてチームを作り、ストリートレースで1勝しなければ修理工場シードックにも戻れないのだが……今の自分と組んでくれるようなドライバーがいるかどうか。


海堂かいどうさんは? まだ修理工場で働いているんでしょう?」


 伊織は2年前まで兄さんとチームを組んでいた『鋼鉄の魔人』が、どこのチームにも参加していないという情報を教えてくれた。

 しかし、彼はもうメカニックになってしまったので、シードラゴンには今、ドライバーがいないのだ。


(だから監督さんは、僕に電話をくれたのか)


『ハヤト君。ストリートレースに参加してみる気はないか?』


 1本の電話が、僕の心を惑わせる。


 最初の答えはNoだった。

 迷わず即答できたけれど……今は?


 すぐには断れない。というか、ものすごく迷っている。

 ……ということは?

 

 僕は、もしかして……。

 本当は、走りたいと思っているのだろうか?


   ***


「ハヤト。汗ビッショリだけど、大丈夫?」


 我に返ると、伊織が心配そうな顔で僕を見ていた。


「これは暑さのせいだから平気だけど……メンバー集めか。どうしようかな」


 僕の脳裏には、水島涼の顔が思い浮かんだ。

 でも……。


(女だしなぁ)


 伊織も彼女の名前は口にしなかった。

 もう1人の転入生に関しては、僕は完全にスルーしていたけれど、すっかり親しくなってしまった伊織が推薦してくる。


「リオンはどう?」


 金髪のワガママ王子は、今もストリートレースに出るための仲間を探しているらしいが、それこそ無理な話だろう。

 僕は1度、彼の誘いを断っているし、カートのタイムアタックで負けた後、期待外れだと言われてしまったのだ。


 今さら、

「やっぱり組んでもらえませんか?」

なんて言えるはずがない。


(あんな奴に頭を下げるくらいなら、1人で走った方がマシだ!)


と思っていたら……伊織が、リオンを引き入れるためにバトルをすればいいと言い出した。


「まだ、彼が仕掛けてきたゲームの決着がついていないなら、ハヤトが3連勝すればいいのよ。実力が分かれば、リオンだって仲間になってくれるはずだから」


「でも……」


 伊織はゲームの報酬が変わった事を知らない。

 それに、去年のカートチャンピオンだったリオンの実力は本物だった。


 昔は目立たない選手だったのに、僕が休んでいる2年の間に追い抜かれてしまったようだ。

 これではウサギとカメである。


   ***


 僕は幼い頃からカート漬けの生活が出来る好環境と、優秀なカート選手だった兄さんのアドバイスのおかげでピョンピョンステップアップすることが出来たけれど、本土で普通の暮らしをしているリオンは、練習量が少ないハンデを乗り越え、少しずつ、着実に腕をみがいてきたドライバー。

 

 よほど強い勝利への執念しゅうねんと、強靭きょうじん精神力メンタルを兼ね備えているのだろう。おまけに、かなり好戦的で、油断ゆだんすきも無いドライビングをする。

 コレといって弱点が無い相手に勝てるかどうか……。


   ***


 自信が持てずに迷っていると、お節介な伊織が動き出し、気づいた時にはリオンに電話をかけていた。


「……リオン? 今度、ハヤトと勝負して欲しいんだけど」


 一体、いつの間に連絡先を交換していたのだろう。

 おそらく図書委員の仕事で2人きりになった時だろうが……本当に油断も隙も無い奴だ。と顔を強張こわばらせていると、伊織がニッコリ微笑ほほえんだ。


「ストリートレースが始まったら、すぐに3連戦してくれるって」


「勝手にそんな約束を取り付けて、もし負けたらどうするんだよ」

 

 リオンが狙っているのは、伊織である。

 僕が負けたら……いさぎよく、身を引くしかない。


「大丈夫。ハヤトなら勝てるでしょ?」


 僕の不安をよそに、幼なじみは無垢むくな笑顔を向けてくる。


「……どうかな」


 本気を出しても、勝率は5割程度。

 ドライバーの実力が拮抗きっこうしている場合、勝敗はその他の些細ささいな要因にも左右される。


 例えば、コースの熟練度や、乗っている車の性能、天候やドライバーのモチベーションなど。

 これまでの経験上、最も大切なのは運なので、どんなに速いドライバーでもツキに見放されてしまえば勝てないだろう。


 それを勝機ととらえれば、絶対に勝てない理由なんて存在しないし、カーレースは数学の問題のように必ずしも計算通りの結果が出るとは限らない。

 特に公道で行われるストリートレースは、同じ性能のカートで争うのとはワケが違うので、何が起きるか分からない。


(弱気になるな)


 前回の1敗を取り戻すチャンスが訪れた……と考えるべきだ。


 伊織はいつだって、僕を応援してくれる。

 だから、彼女の期待に応えたい。


 リオンに勝って、自信を取り戻さなければ……。


 僕は絶対に、負けられない!

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