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シャドウ ~真夏の幻影~  作者: 古月 ミチヤ
第2章 黒い影
11/53

2-4

 どうしてレースが始まったのか。

 なぜ戦わなければいけないのか。


 全く分からないが、ゴール地点まではまだ距離がある。


――冷静になれ。

――追いつけそうか?


 ガリアースの性能なら、逆転も可能。

 ゴーストカーが運転操作をアシストしてくれるので、いつもより速いテンポでシフトアップしながら猛追する。


 限界付近まで車の能力を引き出し、物凄ものすごいスピードで逃げ続けている3台に追いつくと、海老が運転している赤い車を直線で追い抜き、鮫の車にはコーナーの入り口でブレーキング勝負を挑む。


 ギリギリまでスピードを上げ、イン側(カーブの内側)に車体をねじ込み、叩きつけるようにブレーキを踏んで急旋回。


 高性能な車のおかげでオーバーテイク(追い抜き)に成功すると、2台の車が背後に消えた。

 残るは、目の前の1台のみ。


『……気をつけろ。クラーケンは手ごわいぞ』


 すでに半分ハーフ地点を通過してしまい、残るコーナーの数が少なくなってきた。

 ヒヤヒヤして、心臓が痛くて……。


(もうこんなに恐ろしい思いをするのは嫌だ!)


と思っているはずなのに、心のどこかで、


(まだいける。もっとめろ!)


と誰かが言っている。

 僕の体は、苦しい戦いの先にある勝利の喜びを知っているからだ。


(……勝ちたい。負けたくない)


 無我夢中でハンドルをにぎっていると、兄さんの言葉がよみがえってきた。


『どんな時でもバトルを楽しめ。ゲームが嫌いな奴は生き残れない』


 誰が相手でも、目の前の勝負に全力で挑むこと。

 兄さんはそれが上達への近道だと言っていた。


 たとえ負けても失敗から学ぶことは多いし、成長は常に自分との戦い。

 いつだって可能性は自分の中にあり、どれだけ本気で挑めるか、向上心を持ち続けられるかどうかが進化の鍵となる。


『負けるな、ハヤト』


 僕がくじけそうになると、兄さんは何度でも背中を押してくれた。

 苦しい時ほど、なつかしい言葉があふれてくる。


『……最後まで、あきらめるなよ』


 僕は全てを忘れようとしていたけれど、それは本当に正しいやり方だったのだろうか。


――どうして走れなくなってしまったのか?


 兄さんを忘れるために、心を捨ててしまったのは誰だろう。

 現実から逃れるためにマシンを壊してしまったのは……。


(まさか……僕自身だったのか?)


 シャドウは、何かを伝えたがっているような気がする。

 でも今は、悩んでいる場合ではない。


 クラーケンの背後にピタリと張り付き、前の車を風避けに使ってスピードに乗ったら、一気にサイドに飛び出しラストスパート。


 どちらの車もゆずらないので、並んだまま最後のコーナーに突っ込むと、2台が接触したはずみに外側の車がはじき出されて、コース外にすっとんでいった。


――ガッシャーン!

 

 ガードレールにぶつかったクラーケンの車が大破する。


 ……でも、これは命を賭けたデスバトル。

 あそこで退いてしまったら、僕の方が死んでいたかもしれない。


(勝った……。なんとか生き残れた)


 胸の中が安堵あんどと達成感で埋め尽くされる。

 それと同時に、忘れていた何かが心の中に蘇ってきた。


 ……レースの興奮。プライド。情熱……。


――僕は一体、何に心血を注いでいたのだろう?


 目を閉じると、遠くに消えてしまった兄さんの背中が、うっすらと目の前に現れたような気がした。


(兄さん⁉)


 でも、目を開けた瞬間、その気配は幻のように消えてしまう。


   ***


 3台の車を振りきったシャドウは、島の中央にある『てっぺん峠』を登り始めた。


 この峠には別の名称があるのだが、ストリートキングを決める最後の競技がこの山を登るヒルクライムなので、最初にいただきに辿り着いた者が頂点になる……という意味で、そう呼ばれるようになったらしい。


(今度は何だ?)


 てっきりヒルクライムバトルが始まるのかと思っていたが、いつまで経っても亡霊たちの車は現れず、シャドウは山頂まで登りきった。


 まるで、僕に峠の走り方を教えていたかのように……。


 車が停止すると、運転席のドアがパカリと開いた。

 これは、降りろ、という意味なのだろうか。


 とにかく脱出のチャンスなので車から降り、閑散かんさんとしているいただきを歩き回ってみたが、人の姿は無い。


 山の上には小さな広場があるだけで、崖っぷちから島を見下ろしていると、夜が明けて、地平線の彼方かなたからゆっくりと朝日が昇り始めた。

 まばゆい光が闇を消し去り、世界を明るく照らしてゆく。


 僕は荘厳そうごんな光景に見入ったまま、しばらくその場に立ち尽くしていた……。


――どうして、こんな所に連れてこられたのだろう?


 しばらくして、ふと背後を振り返ってみると……シャドウの姿が消えている。


(あれ?)


 ドコを探しても黒い車なんて見当たらない。

 どうやら山の上に取り残されてしまったようだ。


「冗談だろう?」


(ココから、どうやって帰ればいいんだよ⁉)


 僕の車があるのは、山のふもとのトンネルの手前。

 助けを呼ぼうにも、朝の4時では、まだみんな寝ているだろう。

 

 徒歩で下山するとしたら、何時間もかかってしまうのだが……。

 他に道はなさそうである。

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