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シャドウ ~真夏の幻影~  作者: 古月 ミチヤ
第2章 黒い影
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2-3

 これほど夜になるのが待ち遠しいと思ったことはない。

 レストランの仕事を終え、腕時計の針が深夜0時を回ると、僕は自分の車で、てっぺん峠のふもとを目指した。


 山の周囲は真っ暗で、長いトンネルの入り口だけがオレンジ色のライトで怪しく浮かび上がっている。

 しかし、その内部は薄暗く、一方通行になっている為、トンネルの手前で車を降りて、徒歩で内部を進んでゆく。


 目に映るのは、白っぽいコンクリートの壁ばかり。

 等間隔で設置されている古いライトの下を歩いていると、突然、オレンジ色の光がチカチカ点滅し始めて、最終的にはトンネル内が真っ暗になってしまった。


「うわっ」


(しまった。これはよくあるパターンじゃないか)


 ゴーストカーを探しに来たなら、こういう事態を想定して懐中電灯を用意してくるべきだった……と今さら気付いても手遅れで、慌てて携帯を取り出し、明かり代わりに利用する。

 

 便利な文明機器を手にしながら進んでいくと、闇の中から1台の車が現れた。

 最初はボンヤリしていた輪郭りんかくが、少しずつハッキリしてくる。


 恐る恐る黒い影に近づいてみると、車はスポーツカーの王様――ガリアース――で、見覚えのあるシードラゴンのステッカーがられている。

 間違いなく、兄さんの車だ。


「兄さん⁉」


 運転席をのぞいてみるが、そこには誰も座っていない。

 でも、車の質感は本物で、いくら触れても消えたりしなかった。


(嘘だろう⁉)


――どうして、ガリアースが現れたのだろう。


 ……2年前。この車があると、いつまでも兄さんの事を引きずってしまいそうだからと、両親が手放したはずなのに……。


 助手席の扉に手をかけてみたが、内側からロックされているので開けることは出来なかった。


(やっぱり、車には乗れないのか)


 僕は水島の話を思いだしながら、本当に動き出すのかバトルを仕掛けてみようと思い、自分の車を取りに戻ろうとした。

 その途端……パッと、シャドウの車内にライトが点いた。


 まるで、行くな、と引き止めているかのように……。


(えっ?)


 何度も振り返って確かめてみたが、車の中には誰もいない。

  

(……これって、ヤバイ現象だよな?)


 背筋が寒くなってきたが、僕は好奇心がおさえきれず、今度は運転席側の扉に手をかけてみた。

 すると……ロックが外れ、カチャリと音をたてながらドアが開いた。


 まるで、乗れ、と言っているかのように……。


――これは一体、どういう意味なのだろう?


 どんなに考えても、僕を乗せたがっているとしか思えない。

 吸い込まれるように運転席に腰をおろすと、手足が勝手に動きだし、シートベルトをした直後に車が走り出した。


「なっ。おいっ。ちょっと……」


(一体、ドコに向かっているんだ?)


 まるで体が操られるような感覚で運転を続けていると、次第に不安になってくる。


(まさか、このまま地獄に直行ってわけじゃないだろうな)


――早く降りなければ。


 本能が危険を察知して訴えてくるが、体が言う事をきいてくれないので、ゴーストカーからは降りられない。


   ***


 真っ暗な深夜の道路を走り続けていると、ドラッグレースにも使われる長い直線道路に差し掛かった。

 約400メートルの距離をわずか10秒たらずで走りきった途端、別世界に突っ込んでしまったかのように、辺りが突然、にぎやかになった。


 夜空にバンバンと花火が上がり、いたる所にレジャーシートを広げた観客がいて、ビールや食べ物を片手に騒いでいる。

 人だかりの手前で車が止まると、見知らぬ男が近づいてきて、運転席の窓をたたいた。


 何の用だろうと思い、窓ガラスを下ろしてみると、


「相変わらず、いい腕だな」


められ、後ろから走ってきた3台の車が左右に横付けしてくる。

 ライトを消しているので人々の顔はハッキリしないが、3人のドライバーが車から降り、そのうちの1人がフライングだと言いがかりをつけてきた。


「もう1度、俺たちと勝負しろ!」


(フライングも何も、勝負なんてしていなかったのに……)


 一体ドコから現れたのか、と尋ねようとしても声が出ない。


「ただし、コイツは死闘デスゲームだから、負けたら死んでもらう」


(はあ⁉)


「だからって、ストリートキングが逃げるわけないよなぁ」


(僕はストリートキングじゃない。……まさか、兄さんと間違えられているのか?)


 なんだか様子がオカシイと思い、強引にアクセルを踏んで逃げ出すと、人々の姿が溶けるように消えてしまった。

 しかし、3人のドライバーは、サメ海老エビ、クラーケン(大王イカ)の姿になって車に乗り込み、追いかけてくる。


(やっぱり変だ!)


 ゴーストカーなんかに乗っているせいで、亡霊たちの世界に迷い込んでしまったようである。



 シャドウに乗って走り続けていると、島を半周するスプリントレースのスタート地点が見えてきた。

 夜になると、島内の道路の一部がストリートレースに利用されるのだが、そのエリアに侵入した直後から、強制的に命がけのレースが始まってしまった。


 僕に分かるのは、負けたら死ぬ……という予感だけ。

 なぜか本当に殺されそうな気がして、シャドウも全力で走り始めた。


『最後まで逃げきれっ!』


 少しでもアクセルをゆるめれば、後ろの車が差を詰めてきて、コーナーのたびにオーバーテイクを仕掛けてくる。


(マズイ)

 

 バックミラーで背後を確認しながら懸命けんめいにコースをブロックしていると、いきなり後ろから突っ込まれて、ガツーンと道路脇に押し出された。


 コースアウト&致命的なタイムロス。

 浅いしげみに突っ込んでいる間に、他の2台にも追い抜かれてしまった。


「くそっ」


 このままでは僕の負けだ。

 でも……。


(あんな化け物たちに殺されてたまるかっ)


 慌てて体勢を立て直し、車をコースに戻してアクセルを踏む。

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